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ある若者の運命と女と酒となじみの焼き鳥屋

第81話 カウラの足 『ハコスカ』

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 本部の玄関で一人誠は黄昏ていた。

 夏の夕方の粘りのある空気が体にまとわりつく。

 島田とサラはパーラの大型の四輪駆動車に乗せられて先に店に向かっていた。

 誠も同じように乗せてくれるように頼んだが、かなめの銃が恐い三人は完全に誠の意思を無視して出かけてしまっていた。

 ぼんやりとラフなTシャツにジーンズ姿の誠は鳴いているカラスと同じくらいさみしい気持ちで立ち尽くしていた。

 運航部の士官の女子や技術部員達が、誠をかわいそうな生き物を見る瞳で見つめているのが心に刺さる。

「これ……フォローなんですかね……」

 誠がぼやいているところに大きな影が現れた。

「お待たせ!誠ちゃん!」

 こんなに孤独が似合う青年と化した誠に平然と声をかけられる図太い神経の持ち主はアメリア・クラウゼ少佐のほかになかった。

「アメリアさん……」

 焼けつく階段に腰かけていた誠はよろよろと立ち上がった。

「さっきも派手に吐いたんだってね!まるで胃腸の弱い子猫みたい」

「それ、全然フォローになってませんよ」

 誠は立ち上がって、アメリアの身長が186㎝の誠とほぼ同じであることを確認して大きくため息をついた。

「なに!そのため息は!人を『東都タワー女』だとか思ってるでしょ!なんで赤くないんだとか思ってるでしょ!」

「思ってませんよ!」

 意味不明な起こり方をするアメリアに閉口しながら誠はあたりを見回した。

「来たみたいね」

 そう言ってアイシャは誠背後の誰かに向けて手を振る。誠はアイシャの視線の先を確認しようと振り向いた。

 アスファルト舗装された道を銀色の車が近づいてきていた。恐らくはかなめかカウラが運転している。

「何度見てもレトロな車ですね……」

 その銀色のセダン。運転席にはカウラ、隣にはかなめが座っている。

「そうよね。うちでフルスクラッチした車だからね。まあ、本物は地球の日本だっけ。この東和の元ネタの国で博物館にでもあるんじゃない。うちの環境基準が20世紀の地球並みにユルユルだからこうして走れるけど、地球じゃ排ガス規制で絶対走れないわね、公道は」

 アメリアの言葉の意味を考えながら悩んでいる誠の目の前で車は停まった。

 運転席の窓を開けたカウラが口を開く。

「乗れ……あと、アメリア……余計なことは言わなかったろうな?」

 そのカウラの目は殺意が篭っていた。

「言ってないって!カウラちゃんが誰かと結婚して子供ができたら間違いなく保護責任者遺棄致死で逮捕されるなんて……」

「そんな話していませんよ!」

 アメリアに任せておくと何を言い出すのかわからないので誠は強引に定位置と化した後部座席のドアを開けた。

「じゃあ、王子様。どうぞ」

 そう言ってアイシャは開けたドアの前で手招きする。仕方なく誠はそう広くはない後部座席に体をねじ込んだ。誠と同じくらいのでかさのアメリアがその隣に座る。当然後部座席は大柄の二人が座るのには狭すぎるという事だけは誠にもわかった。

「出すぞ」

 そう言うとカウラは自動車を発進させた。

「エンジン音……ガソリンエンジン車。フルスクラッチって本当に島田先輩が作ったんですか?」

 誠は変わった車に乗っている以上、それについては普通の反応が期待できると思ってそう言った。。

「こいつの趣味なんだと。有名な旧車で気に入ったの作ってやるって島田が言ったらこれが候補の中に入ってた。そして部品とかの都合がついて、島田が作れると言ってきた中のうち、この緑髪の選んだのがこの『ハコスカ』」

 かなめは進行方向を向いてそう言った。

「島田先輩が一人で作ったんですか?あの馬鹿が?」

 誠は島田が自動車を作れるという技術を持っていることに驚きつつそう言った。

「なんでも、うちは暇なんで技術部の兵隊の技術維持のために毎回そんな趣味的な車を作るんだよ、島田は。こいつがその三台目。一代目はマニアしか知らないような日本車、運用艦の操舵手の常にマスクをしている姉ちゃんが乗ってる。二代目はアメ車で、オークションに出したら、地球の大金持ちがとんでもない金額で落札して大変な騒ぎになった。その後がこれ通称『ハコスカ』」

 そう言うかなめは一切誠には目を向けず、誠に見えるのはかなめのおかっぱ頭だった。

 車はゲートを抜け、工場内を出口に向かう道路を進んだ。

「『ハコスカ』正式名称ですか」

 ちょっと話題が盛り上がりそうなので、誠はそう言ってみた。

「正式名称は『日産スカイラインC10』まあ、空調とかは最新型だ、エンジンも設計図を元に最高のスペックが出せるように島田がチューンした特別製。当然、ブレーキ、ハンドリングもそれに合わせての島田カスタム。まあ、兵隊が島田が満足するものができるまで、不眠不休で作り上げた血と汗と涙が篭っているものだ。私はそれにふさわしいように大事に乗っている」

 カウラは上手な運転の見本のような運転をしながらそう言った。

「そうですか……拘ってますね……」

 どうやらこの三人の女性は何かに『拘る』ところがあるらしい。誠はカウラの運転とこの車への島田の真っ直ぐな思いに感心しながら黙って車に揺られていた。
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