81 / 187
ある若者の運命と女と酒となじみの焼き鳥屋
第81話 カウラの足 『ハコスカ』
しおりを挟む
本部の玄関で一人誠は黄昏ていた。
夏の夕方の粘りのある空気が体にまとわりつく。
島田とサラはパーラの大型の四輪駆動車に乗せられて先に店に向かっていた。
誠も同じように乗せてくれるように頼んだが、かなめの銃が恐い三人は完全に誠の意思を無視して出かけてしまっていた。
ぼんやりとラフなTシャツにジーンズ姿の誠は鳴いているカラスと同じくらいさみしい気持ちで立ち尽くしていた。
運航部の士官の女子や技術部員達が、誠をかわいそうな生き物を見る瞳で見つめているのが心に刺さる。
「これ……フォローなんですかね……」
誠がぼやいているところに大きな影が現れた。
「お待たせ!誠ちゃん!」
こんなに孤独が似合う青年と化した誠に平然と声をかけられる図太い神経の持ち主はアメリア・クラウゼ少佐のほかになかった。
「アメリアさん……」
焼けつく階段に腰かけていた誠はよろよろと立ち上がった。
「さっきも派手に吐いたんだってね!まるで胃腸の弱い子猫みたい」
「それ、全然フォローになってませんよ」
誠は立ち上がって、アメリアの身長が186㎝の誠とほぼ同じであることを確認して大きくため息をついた。
「なに!そのため息は!人を『東都タワー女』だとか思ってるでしょ!なんで赤くないんだとか思ってるでしょ!」
「思ってませんよ!」
意味不明な起こり方をするアメリアに閉口しながら誠はあたりを見回した。
「来たみたいね」
そう言ってアイシャは誠背後の誰かに向けて手を振る。誠はアイシャの視線の先を確認しようと振り向いた。
アスファルト舗装された道を銀色の車が近づいてきていた。恐らくはかなめかカウラが運転している。
「何度見てもレトロな車ですね……」
その銀色のセダン。運転席にはカウラ、隣にはかなめが座っている。
「そうよね。うちでフルスクラッチした車だからね。まあ、本物は地球の日本だっけ。この東和の元ネタの国で博物館にでもあるんじゃない。うちの環境基準が20世紀の地球並みにユルユルだからこうして走れるけど、地球じゃ排ガス規制で絶対走れないわね、公道は」
アメリアの言葉の意味を考えながら悩んでいる誠の目の前で車は停まった。
運転席の窓を開けたカウラが口を開く。
「乗れ……あと、アメリア……余計なことは言わなかったろうな?」
そのカウラの目は殺意が篭っていた。
「言ってないって!カウラちゃんが誰かと結婚して子供ができたら間違いなく保護責任者遺棄致死で逮捕されるなんて……」
「そんな話していませんよ!」
アメリアに任せておくと何を言い出すのかわからないので誠は強引に定位置と化した後部座席のドアを開けた。
「じゃあ、王子様。どうぞ」
そう言ってアイシャは開けたドアの前で手招きする。仕方なく誠はそう広くはない後部座席に体をねじ込んだ。誠と同じくらいのでかさのアメリアがその隣に座る。当然後部座席は大柄の二人が座るのには狭すぎるという事だけは誠にもわかった。
「出すぞ」
そう言うとカウラは自動車を発進させた。
「エンジン音……ガソリンエンジン車。フルスクラッチって本当に島田先輩が作ったんですか?」
誠は変わった車に乗っている以上、それについては普通の反応が期待できると思ってそう言った。。
「こいつの趣味なんだと。有名な旧車で気に入ったの作ってやるって島田が言ったらこれが候補の中に入ってた。そして部品とかの都合がついて、島田が作れると言ってきた中のうち、この緑髪の選んだのがこの『ハコスカ』」
かなめは進行方向を向いてそう言った。
「島田先輩が一人で作ったんですか?あの馬鹿が?」
誠は島田が自動車を作れるという技術を持っていることに驚きつつそう言った。
「なんでも、うちは暇なんで技術部の兵隊の技術維持のために毎回そんな趣味的な車を作るんだよ、島田は。こいつがその三台目。一代目はマニアしか知らないような日本車、運用艦の操舵手の常にマスクをしている姉ちゃんが乗ってる。二代目はアメ車で、オークションに出したら、地球の大金持ちがとんでもない金額で落札して大変な騒ぎになった。その後がこれ通称『ハコスカ』」
そう言うかなめは一切誠には目を向けず、誠に見えるのはかなめのおかっぱ頭だった。
車はゲートを抜け、工場内を出口に向かう道路を進んだ。
「『ハコスカ』正式名称ですか」
ちょっと話題が盛り上がりそうなので、誠はそう言ってみた。
「正式名称は『日産スカイラインC10』まあ、空調とかは最新型だ、エンジンも設計図を元に最高のスペックが出せるように島田がチューンした特別製。当然、ブレーキ、ハンドリングもそれに合わせての島田カスタム。まあ、兵隊が島田が満足するものができるまで、不眠不休で作り上げた血と汗と涙が篭っているものだ。私はそれにふさわしいように大事に乗っている」
カウラは上手な運転の見本のような運転をしながらそう言った。
「そうですか……拘ってますね……」
どうやらこの三人の女性は何かに『拘る』ところがあるらしい。誠はカウラの運転とこの車への島田の真っ直ぐな思いに感心しながら黙って車に揺られていた。
夏の夕方の粘りのある空気が体にまとわりつく。
島田とサラはパーラの大型の四輪駆動車に乗せられて先に店に向かっていた。
誠も同じように乗せてくれるように頼んだが、かなめの銃が恐い三人は完全に誠の意思を無視して出かけてしまっていた。
ぼんやりとラフなTシャツにジーンズ姿の誠は鳴いているカラスと同じくらいさみしい気持ちで立ち尽くしていた。
運航部の士官の女子や技術部員達が、誠をかわいそうな生き物を見る瞳で見つめているのが心に刺さる。
「これ……フォローなんですかね……」
誠がぼやいているところに大きな影が現れた。
「お待たせ!誠ちゃん!」
こんなに孤独が似合う青年と化した誠に平然と声をかけられる図太い神経の持ち主はアメリア・クラウゼ少佐のほかになかった。
「アメリアさん……」
焼けつく階段に腰かけていた誠はよろよろと立ち上がった。
「さっきも派手に吐いたんだってね!まるで胃腸の弱い子猫みたい」
「それ、全然フォローになってませんよ」
誠は立ち上がって、アメリアの身長が186㎝の誠とほぼ同じであることを確認して大きくため息をついた。
「なに!そのため息は!人を『東都タワー女』だとか思ってるでしょ!なんで赤くないんだとか思ってるでしょ!」
「思ってませんよ!」
意味不明な起こり方をするアメリアに閉口しながら誠はあたりを見回した。
「来たみたいね」
そう言ってアイシャは誠背後の誰かに向けて手を振る。誠はアイシャの視線の先を確認しようと振り向いた。
アスファルト舗装された道を銀色の車が近づいてきていた。恐らくはかなめかカウラが運転している。
「何度見てもレトロな車ですね……」
その銀色のセダン。運転席にはカウラ、隣にはかなめが座っている。
「そうよね。うちでフルスクラッチした車だからね。まあ、本物は地球の日本だっけ。この東和の元ネタの国で博物館にでもあるんじゃない。うちの環境基準が20世紀の地球並みにユルユルだからこうして走れるけど、地球じゃ排ガス規制で絶対走れないわね、公道は」
アメリアの言葉の意味を考えながら悩んでいる誠の目の前で車は停まった。
運転席の窓を開けたカウラが口を開く。
「乗れ……あと、アメリア……余計なことは言わなかったろうな?」
そのカウラの目は殺意が篭っていた。
「言ってないって!カウラちゃんが誰かと結婚して子供ができたら間違いなく保護責任者遺棄致死で逮捕されるなんて……」
「そんな話していませんよ!」
アメリアに任せておくと何を言い出すのかわからないので誠は強引に定位置と化した後部座席のドアを開けた。
「じゃあ、王子様。どうぞ」
そう言ってアイシャは開けたドアの前で手招きする。仕方なく誠はそう広くはない後部座席に体をねじ込んだ。誠と同じくらいのでかさのアメリアがその隣に座る。当然後部座席は大柄の二人が座るのには狭すぎるという事だけは誠にもわかった。
「出すぞ」
そう言うとカウラは自動車を発進させた。
「エンジン音……ガソリンエンジン車。フルスクラッチって本当に島田先輩が作ったんですか?」
誠は変わった車に乗っている以上、それについては普通の反応が期待できると思ってそう言った。。
「こいつの趣味なんだと。有名な旧車で気に入ったの作ってやるって島田が言ったらこれが候補の中に入ってた。そして部品とかの都合がついて、島田が作れると言ってきた中のうち、この緑髪の選んだのがこの『ハコスカ』」
かなめは進行方向を向いてそう言った。
「島田先輩が一人で作ったんですか?あの馬鹿が?」
誠は島田が自動車を作れるという技術を持っていることに驚きつつそう言った。
「なんでも、うちは暇なんで技術部の兵隊の技術維持のために毎回そんな趣味的な車を作るんだよ、島田は。こいつがその三台目。一代目はマニアしか知らないような日本車、運用艦の操舵手の常にマスクをしている姉ちゃんが乗ってる。二代目はアメ車で、オークションに出したら、地球の大金持ちがとんでもない金額で落札して大変な騒ぎになった。その後がこれ通称『ハコスカ』」
そう言うかなめは一切誠には目を向けず、誠に見えるのはかなめのおかっぱ頭だった。
車はゲートを抜け、工場内を出口に向かう道路を進んだ。
「『ハコスカ』正式名称ですか」
ちょっと話題が盛り上がりそうなので、誠はそう言ってみた。
「正式名称は『日産スカイラインC10』まあ、空調とかは最新型だ、エンジンも設計図を元に最高のスペックが出せるように島田がチューンした特別製。当然、ブレーキ、ハンドリングもそれに合わせての島田カスタム。まあ、兵隊が島田が満足するものができるまで、不眠不休で作り上げた血と汗と涙が篭っているものだ。私はそれにふさわしいように大事に乗っている」
カウラは上手な運転の見本のような運転をしながらそう言った。
「そうですか……拘ってますね……」
どうやらこの三人の女性は何かに『拘る』ところがあるらしい。誠はカウラの運転とこの車への島田の真っ直ぐな思いに感心しながら黙って車に揺られていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第二部 『新たなる敵影』
橋本 直
SF
進歩から取り残された『アナログ』異星人のお馬鹿ライフは続く
遼州人に『法術』と言う能力があることが明らかになった。
だが、そのような大事とは無関係に『特殊な部隊』の面々は、クラゲの出る夏の海に遊びに出かける。
そこに待っているのは……
新登場キャラ
嵯峨茜(さがあかね)26歳 『駄目人間』の父の生活を管理し、とりあえず社会復帰されている苦労人の金髪美女 愛銃:S&W PC M627リボルバー
コアネタギャグ連発のサイキックロボットギャグアクションストーリー。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第四部 『魔物の街』
橋本 直
SF
いつものような日常を過ごす司法局実働部隊の面々。
だが彼等の前に現れた嵯峨茜警視正は極秘の資料を彼らの前に示した。
そこには闇で暗躍する法術能力の研究機関の非合法研究の結果製造された法術暴走者の死体と生存し続ける異形の者の姿があった。
部隊長である彼女の父嵯峨惟基の指示のもと茜に協力する神前誠、カウラ・ベルガー、西園寺かなめ、アメリア・クラウゼ。
その中で誠はかなめの過去と魔都・東都租界の状況、そして法術の恐怖を味わう事になる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる