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突如変わった世界
第35話 『特殊』な先輩達に囲まれた主人公の最後の抵抗
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「口の中に酸っぱいものが……」
誠は自戒の念を抱きつつ目を覚ました。
そこは真夏のクーラーの効いていない部屋だった。
光の加減と体内時計からして朝のようだが、そのこもった熱気にうんざりしながら誠は起き上がった。
吐き気と倦怠感と頭痛が誠を襲う。
誠の体の下に敷布団と枕がある。そして腹の上にはタオルケット。誰かが酔いつぶれた誠を『特殊な部隊』の宴会場からここに運んだらしい。
さらに周りを見渡す。コンクリートの壁で四方が囲まれている。
背中に空気の流れを感じた。誠は慌てて風が吹いてくる背後を振り向いた。
そこには鉄格子はなかった。どうやらここは牢獄ではない。ガラスは割れて窓の下に散乱しているが、娑婆であることは間違いないので安心した。
誠は立ち上がった。壁一面に模様が様々な色のペンキで書いてある。
「これは……『夜露死苦!』ねーひらがなで書け、馬鹿。隣は……『実働部隊整備班参場!』……『場』の字間違ってんぞ、高学歴舐めんな!それは『参上』って書くんだよ!」
そう独り言を口にしながら、誠は認めたくない事実に気づいた。
自分はあの『特殊』な思考の三匹の先輩達の巣に『拉致』されたのだと。
そして、嵯峨の『逃げ道を潰す』宣言がこのような形で、誠の前に立ちはだかっていること。
誠は『社会組織』の厳しさを、ここでようやく理解した。
「世の中舐めてました……社会人舐めてました……僕は死にたくないです……逃げても破滅するんです……逃げようがないです……僕、詰んでます……」
冷や汗を流しながら理性が壊れた人特有のおかしな笑いを顔に浮かべて誠はつぶやき続ける。
誠が泣き叫ぶのをやめて、『部屋』の入り口を見るとそこには人影があった。
それは、『かつ丼要求犯』島田正人曹長、その人だった。
白いつなぎを着たその先輩は、タバコを咥えて誠を見下ろしている。
「オメエは今日から立派な俺の『舎弟』だから、俺を『島田先輩』と呼ぶことを許可してやる!」
誠の理解を超えた発言をする島田の顔には、さわやかで素敵な笑顔が浮かんでいた。
島田の引き締まった首には当たり前のように金のネックレスが似合っていた。腕には金無垢の時計が光っている。
誠はとりあえず立ち上がり、島田の身長が自分より背が低いことに気づき安心した。
「見下ろすな、馬鹿。オメエの身長185㎝前後か?俺より10センチ高いからって、それが自慢になるか。喧嘩は身長でやるもんじゃねえんだ」
島田は全く動じる様子もなくそう言った。
「僕が本部に持ち込んだ手荷物返してください。これから実家に帰るんで」
誠の言葉を聞いても島田は表情を変えなかった。恐らく会話能力が無いのだろう。
煙草をくわえたまま誠を見つめていた。
「神前。俺のことは『島田先輩』と呼べ。普通、社会人だったら、先輩の言うことは『全部』従え。それが『社会人の常識』だ」
島田は静かに口に咥えたタバコに右手を添える。
誠は目の前の先輩を自称する島田の、誠からすると『特殊』過ぎる発言に困惑していた。
「神前少尉候補生。『先輩を見下ろした』罰として貴様を『処刑』する。方法は『根性焼き』。利き手の左手は大事だから、右手にやる。手のひら、出せ。これが『先輩警察官』の『愛のある新人教育』だ。喜べよ」
真顔でそう言った島田は右手のタバコを誠の顔に近づける。
「嫌ですよ……」
誠は島田でも理解できそうな、簡単な日本語で答えた。
「先輩の愛の鞭だ。これが『俺流』の後輩教育」
黙って島田は誠の額に火のついたタバコを押し付ける。
誠の胃が目の前の『社会』への反抗から持ち前の『胃弱』を発動して、食道逆流モードに入ろうとした時だった。
誠は自戒の念を抱きつつ目を覚ました。
そこは真夏のクーラーの効いていない部屋だった。
光の加減と体内時計からして朝のようだが、そのこもった熱気にうんざりしながら誠は起き上がった。
吐き気と倦怠感と頭痛が誠を襲う。
誠の体の下に敷布団と枕がある。そして腹の上にはタオルケット。誰かが酔いつぶれた誠を『特殊な部隊』の宴会場からここに運んだらしい。
さらに周りを見渡す。コンクリートの壁で四方が囲まれている。
背中に空気の流れを感じた。誠は慌てて風が吹いてくる背後を振り向いた。
そこには鉄格子はなかった。どうやらここは牢獄ではない。ガラスは割れて窓の下に散乱しているが、娑婆であることは間違いないので安心した。
誠は立ち上がった。壁一面に模様が様々な色のペンキで書いてある。
「これは……『夜露死苦!』ねーひらがなで書け、馬鹿。隣は……『実働部隊整備班参場!』……『場』の字間違ってんぞ、高学歴舐めんな!それは『参上』って書くんだよ!」
そう独り言を口にしながら、誠は認めたくない事実に気づいた。
自分はあの『特殊』な思考の三匹の先輩達の巣に『拉致』されたのだと。
そして、嵯峨の『逃げ道を潰す』宣言がこのような形で、誠の前に立ちはだかっていること。
誠は『社会組織』の厳しさを、ここでようやく理解した。
「世の中舐めてました……社会人舐めてました……僕は死にたくないです……逃げても破滅するんです……逃げようがないです……僕、詰んでます……」
冷や汗を流しながら理性が壊れた人特有のおかしな笑いを顔に浮かべて誠はつぶやき続ける。
誠が泣き叫ぶのをやめて、『部屋』の入り口を見るとそこには人影があった。
それは、『かつ丼要求犯』島田正人曹長、その人だった。
白いつなぎを着たその先輩は、タバコを咥えて誠を見下ろしている。
「オメエは今日から立派な俺の『舎弟』だから、俺を『島田先輩』と呼ぶことを許可してやる!」
誠の理解を超えた発言をする島田の顔には、さわやかで素敵な笑顔が浮かんでいた。
島田の引き締まった首には当たり前のように金のネックレスが似合っていた。腕には金無垢の時計が光っている。
誠はとりあえず立ち上がり、島田の身長が自分より背が低いことに気づき安心した。
「見下ろすな、馬鹿。オメエの身長185㎝前後か?俺より10センチ高いからって、それが自慢になるか。喧嘩は身長でやるもんじゃねえんだ」
島田は全く動じる様子もなくそう言った。
「僕が本部に持ち込んだ手荷物返してください。これから実家に帰るんで」
誠の言葉を聞いても島田は表情を変えなかった。恐らく会話能力が無いのだろう。
煙草をくわえたまま誠を見つめていた。
「神前。俺のことは『島田先輩』と呼べ。普通、社会人だったら、先輩の言うことは『全部』従え。それが『社会人の常識』だ」
島田は静かに口に咥えたタバコに右手を添える。
誠は目の前の先輩を自称する島田の、誠からすると『特殊』過ぎる発言に困惑していた。
「神前少尉候補生。『先輩を見下ろした』罰として貴様を『処刑』する。方法は『根性焼き』。利き手の左手は大事だから、右手にやる。手のひら、出せ。これが『先輩警察官』の『愛のある新人教育』だ。喜べよ」
真顔でそう言った島田は右手のタバコを誠の顔に近づける。
「嫌ですよ……」
誠は島田でも理解できそうな、簡単な日本語で答えた。
「先輩の愛の鞭だ。これが『俺流』の後輩教育」
黙って島田は誠の額に火のついたタバコを押し付ける。
誠の胃が目の前の『社会』への反抗から持ち前の『胃弱』を発動して、食道逆流モードに入ろうとした時だった。
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