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出会い……それは『あって欲しくない』社会との出会いだった

第30話 究極の選択

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 誠は意識を取り戻した。

 畳の上、タオルケット一枚が腹に掛かっている。すぐに誠はここが本部の隊長室では無いことは分かった。

 その誠の耳に、高校野球の代表曲の旋律が響いてきた。

 それが歌い上げるのは妙齢の女性による『馬鹿な替え歌』だった。

 誠はこの時点で、改めて『駄目人間』と『人斬り機能付き文化財のユーザーのかわいい子』の本質を察して、もうすでに熱狂する『馬鹿集団』とは絶縁することを決めていた。





「おい、起きろ」

 やさぐれた『美人』を想像させる声が誠の耳に心地よく響く。

 同時に、額に金属の感触を感じて誠は『恐怖』で目を開いた。

 誠が目にしたのは予想通り、『銃口』だった。

 驚愕の表情でそのまま視線は銃を構えるおかっぱ頭のたれ目の美女と視線を合わせた。

「……あっ……あなたは……」

 たれ目の美女は『サディスティック』な笑みを浮かべる。

「アタシは『西園寺かなめ』。階級は大尉だ。『司法局実働部隊』は軍事警察だから、大尉だけど『女刑事』だ。覚えろ」

 そのまま彼女は左わきのホルスターから拳銃を取り出して誠の額に銃口を向けた。

「神前とか言ったな、オメエの趣味の『萌えアニメ』風に自己紹介するとアタシは28歳で、『魔法の杖』を持っててね。アタシはその『魔法の杖』の魔法を使うかどうか迷ってるんだ」

 早口にかなめを名乗る美女はそう言った。彼女の誠を見る瞳の色はまるで『ゴミ』を見るように冷たかった。

「魔法ですか……」

 誠はとりあえず彼女の間に乱入して何とか自分の理性を保とうとした。

「そうだ。その速攻魔法、『発砲』でその賢い頭に穴が開くか、アタシの『愛玩動物』になるか選べ。アタシの『魔法の杖』、『スプリングフィールドXDM40』は結構威力があるんだわ。魔法の種類は『40S&W・ホローポイント弾』。戦争法規じゃ兵隊は使っちゃいけいない『体に当たると弾頭が割れて傷口がどでかい穴が開く』と言うすごい魔法だ。アタシはお巡りさんだから使用制限はねえんだわ。試すか?その脳味噌で」

 目の前の『殺人に罪悪感』を感じないタイプのアジアン美女は冷酷にそう言った。

「……僕……」

 冷や汗を流しながら誠はそう言った。目の前の現実から逃げ出したい。その思いだけが、誠にそう言わせていた。

「軍にいたんだろ?弾に当たるぐらいよくあることだ。まあ、この弾頭は兵隊さんは持ってない『お巡りさんや民間人』向きの殺傷能力の高い弾頭だから……まあ我慢しろ。銃で額に相当な大きさの穴が開くかも知れねえが、死ぬとは限らない……らしい」

 どう見ても『悪い魔女』に見えるかなめの顔に、まさにその筋の『女王様』の慈悲に満ちた笑顔が浮かんでいた。
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