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予定された演習

第72話 暇人達の夕方

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「おい、神前。飲みに行くぞ」

 その日の終業を告げる鐘が鳴ると同時にかなめがそう言って立ち上がった。

 実働部隊機動部隊詰め所。相変わらずランは机の上に広げていた将棋盤を片付けている。

「でも……こんなにすること無くていいんですかね」

 誠が配属になって二週間目である。仕事らしい仕事と言えば時々シミュレーターで陸上戦闘の模擬戦をする程度である。

当然、火器があれば誠はド下手な射撃能力を発揮して一方的に袋叩きにされるだけである。とても訓練とは言えない単なるやられ役だった。

「予算が無いんだ仕方がない」

 机の上の端末を終了したカウラはそう言って静かに立ち上がる。

「と言うか……うちって何のための部隊なんです?この前、僕が誘拐された時だって東都警察や県警の特殊部隊だってできる制圧作戦だったらしいじゃないですか……」

 誠は今日搬入されたばかりの端末を閉じながらつぶやいた。

「うちは『軍事警察』って組織なの!東和警察の管轄は東都だけ!県警は県だけ!うちの管轄するのは遼州同盟の加盟国の領域すべてって訳!まったく理解力がねえな」

 明らかに馬鹿にするような顔でかなめがそう言って誠の肩を叩いた。

「でもそれなら東和宇宙軍が動けばいいじゃないですか。ほとんどの戦場で電子戦対応装備の飛行戦車飛ばして上空の封鎖とか非戦闘地域を設定できるんだったら……必要無いでしょ?うち」

 誠の常識から考えればそのようなことは軍の管轄と言う理解があった。

「軍が動くってことはいわゆる政治問題に発展するんだ。うちの組織は軍組織で装備も軍に準じているがあくまで『警察』なんだ。東和共和国ではなじみが薄いが大昔の『ソビエト連邦』に似た政治体制の外惑星連邦には『軍事警察特殊部隊』が存在する。まあ、同じようなものだと考えれば……ああ、貴様にそう言う社会知識を期待するのは無駄だったな」

 明らかにあきらめの表情を浮かべるカウラに誠はただ愛想笑いを浮かべるしかなかった。

「まあいいです。とりあえずうちは『特殊部隊』なんですね」

「そうだ、『特殊』な『特殊部隊』って訳だ」

 かなめの言葉を背に受けながら誠はそのまま機動部隊詰め所を後にした。

 そのまま男子更衣室に行くが、男性隊員のほとんどを占める技術部員は誠の機体にかかりっきりで誰一人中には居なかった。

「本当にうちは何のためにあるんだろう……」

 独り言を言いながら誠は着替えを済ませて男子更衣室の扉を開けた。

「誠ちゃん!」

 そこには笑顔のアメリアが立っていた。

「アメリアさん、運航部も暇なんですか……と言うか運用艦はここに無いんでしょ?なんで勤務地がここなんですか?」

 誠が思いついた質問をするとアメリアは糸目でにらみつけてくる。

「なんであんなド田舎勤務なんてしなきゃなんないのよ!あそこはねえ……あそこはねえ……」

 急にそう言ったアメリアはこぶしを握り何かに耐えるような表情をする。

「そんな遠くなんですか?運用艦の母港って」

「遠いと言えば遠いわね……まあ豊川からじゃあ都心を通るわけじゃないから時間はそうかからないけど、ともかく周りに何にもないのよ。あの『特殊な趣味』の人達でもない限り住みたくないわよ」

「特殊な趣味?」

 本部の玄関に向かう階段を降りながら誠はアメリアの言葉の中に引っかかる言葉を見つけてつぶやいた。

「まあいいわ。どうせ運用艦『ふさ』に乗って食事をすればわかるわよ。連中がいかに『特殊』か」

「『特殊な部隊』の人から『特殊』って言われるって……その人達なんなんですか?それに食事って……なんか奇妙なものを食べさせられるんですか?」

 間抜けな誠の質問を無視してアメリアは本部の玄関ロビーのドアを開けた。

 外の空気は夏の夕暮れの熱気に蒸しあげられていた。

「暑い……」

 誠がそう言いながら駐車場の方に目を向けるといつものカウラの『ハコスカ』が近づいてきていた。

「行くぞ!」

 助手席からかなめが顔を出して叫んだ。

 誠とアメリアはその声に導かれるようにして車に乗り込んだ。
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