上 下
176 / 211
第四十一章 隠されていた『力』

第177話 跳べる人達

しおりを挟む
『地球の科学の限界が見えたところで……もう一つ、いーことを教えてやる。この宇宙の外から来た『リャオ』の言語に欠けてたのは『時間』の概念だけじゃねーんだ。『リャオ』の概念に欠けてるのは……』

 得意げにランは驚くべき話を続ける。

『まだ……あるのか?あなたの隠し玉は』

 すでに近藤はあきらめていた。相手は『不死の存在』である。科学の及ぶところでないことは地球人である近藤にも理解できるところだった。誠はこの『特殊な部隊』に魅入られた『重罪人』に同情の視線を送るようになっていた。

『ヒントをやる、遼州人は『船』を作らなかった』

『それが……何の意味が……これ以上我々を驚かせて何が楽しいんですかな?』

 突拍子もない事実を聞かされた近藤の力ない言葉にランはかわいらしい笑みで答える。

『理由は簡単。必要なかったんだ……『船』が要らなかった』

『船が要らない?あなたは運用艦『ふさ』から発艦したのでは?』

 ようやくランの言葉の矛盾を見つけて近藤はなんとか反撃に出ようとしてそう言った。

『分かってねーなー。アタシ達遼州人は『遅れた焼き畑農業しかできない未開人』にしか見えねーかな?』

『確かに……死なない原始的な化け物にしか見えないが……どうでしょうかね?クバルカ中佐』

 近藤は自分の優位を確認するような調子でそう言った。

『ちげーよ。必要がねーんだよ。必要が無いと生物は『退化』するんだよ。地球人だって尻尾がねーだろ?それが『生物学』の常識だ。これも隊長の受け売りだけどな』

『退化だ?脳が退化したんじゃないですかな?あの、『駄目人間』にふさわしい』

 そう言うと近藤の顔が元の高慢な雰囲気を帯び始めた。誠もこの『心理戦』が失敗したような気がしてきていた。

『オメーはやっぱり、隊長が言うように頭には『八丁味噌』が詰まってるわ。見えてねーよ、リアルが。遼州人の『船』への関心が退化した理由は簡単だ。『距離』の概念がねーんだよ、『リャオ』には。だから、『船』が必要ねーんだ。だから作る必要を感じなかったんだな……アタシ等『遼州人』は』

『距離の概念が……『無い』?』

 近藤は不審そうにそう言った。自分の優位が崩れていることを認めたくないという焦りがその顔に笑みを浮かべさせる。

『そーだ。今、アタシが得意の『空間跳躍』を繰り出せば、オメーの乗艦『那珂』のブリッジはいつでも潰せる。そして、アンタが間抜けな調べ方をしていたうちの神前にも似たようなことができる……つーわけだ。アタシの態度がでけー理由がわかってよかったな。バーカ』

 一瞬で『重罪人』近藤忠久中佐の表情が硬直した。

『嘘だ!でたらめだ!他の何かの事実を隠すためにでたらめを!何を知っている!貴様は何が言いたい!』

 敗北と死を悟った『漢』だがまだ彼にはそれを認めない『プライド』が残っていた。

『そうか……僕は『跳べる』のか……その力が『法術』……それを引き出すのが『法術増幅システム』……』

 誠は憐れみを込めて、そしてこれから自分が『処刑』するであろう近藤のうろたえる様を眺めていた。ランの余裕のある態度を見れば誠にも先ほどの無茶なランの命令がいかにもできることのような気がしてきた。

『これ以上オメーの『八丁味噌』に刻み込む言葉はねーんだ。それは今生きてる『遼州人』のプライバシーだかんな。アタシは隊長みたいに地球人の『実験動物』にはなりたくねーんだよ』

「地球人の『実験動物』……?」

 誠は二人の会話の外野にすぎないのは分かっていたが、その言葉につい反応していた。誠も嵯峨と同じ純血の『遼州人』である。地球科学の教えの下生きてきた自分が地球人の『実験動物』になるかもしれないという意味のランの言葉に誠はうろたえていた。

『『八丁味噌』の旦那。はなっからあんたは負けてんだ。あんたの死んだあと、アタシ等はちょっと無茶な『敵』と戦うつもりなんだ。その関係で『地球圏』やこの通信を傍受した『力無き人々』に言っとくわ……』

 ランのかわいい笑顔が凶暴な野獣のそれに一瞬変わった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。 その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。 しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。 さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。 直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。 他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。 しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。 考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。 誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?

G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治
SF
平凡な男と美貌の新兵、救世の英雄が死の運命の次に抗うは邪悪な神の奸計 ※ノベルアップ+で公開中の「G.o.D 神を巡る物語 前章」の続編となります。読まなくても楽しめるように配慮したつもりですが、興味があればご一読頂けると喜びます。 ※一部にイラストAIで作った挿絵を挿入していましたが、全て削除しました。 話自体は全て書き終わっており、週3回程度、奇数日に更新を行います。 ジャンルは現代を舞台としたSFですが、魔法も登場する現代ファンタジー要素もあり  英雄は神か悪魔か? 20XX年12月22日に勃発した地球と宇宙との戦いは伊佐凪竜一とルミナ=AZ1の二人が解析不能の異能に目覚めたことで終息した。それからおよそ半年後。桁違いの戦闘能力を持ち英雄と称賛される伊佐凪竜一は自らの異能を制御すべく奮闘し、同じく英雄となったルミナ=AZ1は神が不在となった旗艦アマテラス復興の為に忙しい日々を送る。  一見すれば平穏に見える日々、しかし二人の元に次の戦いの足音が忍び寄り始める。ソレは二人を分断し、陥れ、騙し、最後には亡き者にしようとする。半年前の戦いはどうして起こったのか、いまだ見えぬ正体不明の敵の狙いは何か、なぜ英雄は狙われるのか。物語は久方ぶりに故郷である地球へと帰還した伊佐凪竜一が謎の少女と出会う事で大きく動き始める。神を巡る物語が進むにつれ、英雄に再び絶望が襲い掛かる。 主要人物 伊佐凪竜一⇒半年前の戦いを経て英雄となった地球人の男。他者とは比較にならない、文字通り桁違いの戦闘能力を持つ反面で戦闘技術は未熟であるためにひたすら訓練の日々を送る。 ルミナ=AZ1⇒同じく半年前の戦いを経て英雄となった旗艦アマテラス出身のアマツ(人類)。その高い能力と美貌故に多くの関心を集める彼女はある日、自らの出生を知る事になる。 謎の少女⇒伊佐凪竜一が地球に帰還した日に出会った謎の少女。一見すればとても品があり、相当高貴な血筋であるように見えるがその正体は不明。二人が出会ったのは偶然か必然か。  ※SEGAのPSO2のEP4をオマージュした物語ですが、固有名詞を含め殆ど面影がありません。世界観をビジュアル的に把握する参考になるかと思います。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

境界線スペクトル 〜Ema in the 26th century〜

杙式
SF
西暦2511年、終末と呼ばれた日から約150年後の機械が支配する世界で、身体の一部を機械化した少女エマはあるものを探し求め旅をする。 なるべく物理法則に即した話にしようと思っていますが、認識誤りもあるかもしれません。 カクヨム様、なろう様でも掲載中です。

処理中です...