上 下
1,426 / 1,474
撮影は続く

母と子

しおりを挟む
「どうするの!小夏ちゃん。ここで止めないと!」 

 空中には鎌を構えるサラが浮かんでいた。小夏もサラも手詰まりと言うようにリンを見つめていた。

「カ……ウラ……」 

 カウラを見つめていた怪人ローズクイーンが搾り出すようにそう言う。すぐに鞭のような両腕から生える蔓が痙攣を始め、もがき苦しみ始める。

「なに!何が起きた!どうしたと言うのだ?まさか記憶が?そんなはずが……」 

 突然の春子の状況に戸惑ったような声を出すリン。それを見た小夏がリンに突進する。

 寸前で止まった小夏が杖から放たれた火の玉をゼロ距離で発射する。腹でそれを受ける形になったリンが吹き飛ばされる。その後ろに待ち構えていた小夏が振るう鎌がリンの右肩に突き立つ。

「なに!下等生命体が!ローズクイーン!」 

 リンの声に一人もがいていたローズクイーンがメイリーン将軍のところへ飛ぶ。

 だが、彼女はそのまますべての蔓をリンに絡める。

「何をする!私の言うことが聞けないというのか!」 

 リンは脱出しようともがく。そして全身タイツ姿の変身後の誠に寄りかかるようにして立っているカウラに春子は笑顔を向けた。

「カウラ。ごめんね」 

 そう言って春子は涙を流す。小夏とサラは同じように涙を浮かべているカウラを見つめる。

「せっかく会えたのに……こんなことしかできなくて……」 

「そんな!お母さん!」 

「私の心があるうちに……意識があるうちに小夏とサラさんの力で私ごとメイリーン将軍を消し飛ばすのよ!」 

『ひどい話だな。自分の娘じゃない方の子供に人殺しをさせる?アメリアさん、突っ込み期待のストーリーを狙いすぎですよ』 

 そう苦笑いを浮かべている誠は当然画面に映らない。

「小夏!サラさん!母さんを救ってあげて!」 

 カウラの言葉に小夏とサラは静かにうなづく。

「やめろ!貴様等!こんなことを……母親もろともと言うのか!そもそもこんなところで私は朽ちるわけには!」 

 焦ってもがくリンだが、がっちりと蔓に生えた棘が彼女の機械の身体に食い込んでいて身動きが取れなくなっていた。

「あなた……!許さない!」 

 小夏が展開する巨大な魔方陣から火炎がリンと春子に襲い掛かる。

「くー!グワー!機械帝国!万歳!」 

 お約束の台詞を吐いてリンはひときわ派手に爆発した。そして気づいたときには立ち上がっていたカウラはそのまま誠前まで歩いてきていた。

 誠の体が光り、全身タイツの変態ユニフォームから散歩をしていたときの私服に戻る。

「誠二さん……」 

 カウラはそう言うとそのまま誠の手を握る。

「すまない」 

 誠の言葉にカウラは首を振った。そして次の瞬間にはカウラは誠の胸の中で泣き崩れていた。

「母さん……お母さん……」 

 肩を震わせて腕の中で泣いているカウラの緑色のポニーテールを撫でる誠。だがシーンはすぐに別のところに切り替わる。

 小夏とサラは爆発したリンのいた場所を調べていた。

「これ……」 

 そう言って小夏が取り上げたのは一輪の真っ赤な薔薇の付いた小枝だった。

『おい!なんであの爆発で?ちょっとおかしくない?上級者過ぎるだろ!』 

 誠は引きつりそうになる頬を震わせてカウラを抱きしめている。だが、一抹の不安を感じて振り向くとブーツが目の前にあった。

 顔面にめり込んだロングブーツの甲に跳ね飛ばされてカウラを置いたままぶっ飛ばされる誠。蹴り飛ばしたのはレザースーツに身を包んだキャプテンシルバーこと私立探偵西川要子役のかなめだった。

『なんで……こんな……』 

 バーチャルシステムでなければ完全に首が折れていた蹴りに誠は顔と首を押さえながら立ち上がる。

「こいつはすまねえな」 

 そう言ってかなめはにんまりと笑いながら泣き崩れていたカウラをにらみつける。役を忘れてカウラはかなめをにらみ返す。

「お姉さん……これ」 

 そう言って小夏とサラがカウラに先ほどの薔薇の小枝を渡す。カウラはしっかりと枝を手に取り涙する。

「機械帝国の鬼将軍と呼ばれたメイリーン将軍。あっけない最期だったな。自分の作った魔人に裏切られるとは。まあ魔人なんぞの下級生物を使う奴らしい最後と言えるか……」 

 そう言ったかなめにカウラは平手を食らわす。 

「それだけ?あなたはそれだけなの?お母さんは殺されたのよ!それに下級生物?あなたは所詮機械なのね!人の心なんて分かりもしないくせに……」 

『おいおい、なんでかなめさんが機械帝国とつながってること知ってるんだよ!おかしいだろ?さっきまで小夏とサラさんが魔法が使えるのも知らなかったのに!』 

 だがそんな突込みをするまでも無くかなめの表情が明らかに本心から出てくる怒りで満たされているのが誠にも分かった。本物のサイボーグであるかなめ。彼女を機械呼ばわりする台詞は初めからあった。カウラはそれを正確に読んだだけだった。それでもかなめの逆鱗に触れたことだけは誠も分かる。そのまま誠は引きつった笑いを浮かべながら二人の合間に立った。

「止めるんだ!二人とも。そんなことをしても春子さんは帰ってこないんだ!」 

『まあこれはお話だけどね。かなめさんもカウラさんも熱くなり過ぎよ』 

 春子は淡々と役を終えて茶々を入れる。

『お母さんは黙って』 

『ハイハイ』 

 急に怒りをみなぎらせていたかなめが噴出した。家村親子のやり取りがつぼに入った、そんな感じだった。さすがにここはアメリアか新藤が止めるだろうと誠は思ったが二人はそのままシーンを続けることを選んだようだった。

「そうね、私にもできることがあれば協力するわ。それよりあなたは誰?」 

 カウラの一言で全員の目が点になる。

『知らないでびんたしたんですか?ちょっと順番間違えてませんか?』 

 まだ止まらないシーンに呆れながら誠はカウラとかなめを見ていた。

「私はこの子達と志を同じくする者。機械帝国を滅ぼすための正義の使者。キャプテンシルバーとは私のことよ!」 

「あっ。ダサ!」 

「おい!小夏!今、何言った?何言った?え?」 

 かなめの叔父の嵯峨譲りのネーミングセンスの無さには定評があるが、こうしてかなめの口から出てくるとさらに違和感が漂っていた。小夏は変身を解かずに鎌を掲げてかなめとの間合いを詰めようとする。それを見たかなめは右手に持っている小さな紐を掲げる。

 銀色の光とともにビキニの水着のようにも見える体と西洋の甲冑を思わせる兜をかぶったキャプテンシルバーの姿に変身するかなめ。手には銀色の鞭が握られている。

「お?やろうってのか?外道!」 

 そう言って小夏も鎌を構える。

「二人とも!喧嘩は駄目よ!」 

 サラが慌てて二人の間に立った。小夏は手にした鎌を消して普通の中学生らしいセーラー服に戻る。かなめも鞭を納めて革ジャンにジーンズと言う普段のかなめと同じ格好に戻った。

「じゃあ後で訓練を施してやろう!お前も一緒にな!」 

 そう言ってかなめはすぐに手を胸の前でクロスして魔法を使って消える。誠はただ目の前の出来事を呆然と見つめているだけだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...