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「じゃあちょっと……探してきますね」
そう言って頭を下げると誠は部屋を出て廊下に飛び出した。そして誠は立ち止まった。
『西園寺さんの行きそうなところ……』
誠には見当も付かなかった。かなめはそのきつい性格からあまり他人と行動することが少ない。カウラやアメリアと一緒にいるのはだいたいが成り行きで、誠も時々いなくなる彼女がどこにいるのかを考えたことは無かった。
「とりあえず射場かな」
そう思った誠はそのまま管理部のガラス張りの部屋を横目にハンガーの階段を下りる。整備員の姿もなく沈黙している05式を見ながらグラウンドに飛び出した。
誠の予想通り響く連続した銃声が響いていた。誠はそのまま駆け出した。積み上げられた廃材の山を通り抜け、漫画雑誌が山と積まれた資源ごみの脇をすり抜ける。
射撃レンジでは弾を撃ちつくして拳銃のマガジンに弾を込めているかなめの姿があった。どう話を切り出せばいいのか迷うそこに珍しくリボルバーの射撃訓練をしている法術特捜首席捜査官の嵯峨茜警視正の姿があった。
一心不乱で弾を込めているかなめに見つからないように忍び足で茜のところに近づく。
「どうしたんですの?かなめお姉さまがいきなり自分の銃を撃ち始めて……」
不審そうに誠を見つめる茜の視線が誠に向けられる。
「ちょっとアメリアさんにいじられてああなってしまいまして……」
申し訳ないというように誠は頭を掻いた。茜は腑に落ちないと言うように首をかしげる。
「そうですの……ふーんまあ、私に助言ができないことは間違いないけど。それにしても……」
そう言う茜の視線には愛用の銃、スプリングフィールドXDM-40に弾丸を込め終えたかなめの姿があった。すばやくマガジンを銃に差し込んだかなめは一服したように周りを見て、そこに誠がいることに驚いたような表情を浮かべると、そのまま銃のスライドのロックを解除して弾薬を装弾してから彼に向かって歩いてきた。
「なんだよ。文句あるのか?今月の射撃訓練の弾にはまだかなり余裕があるからな……」
口元を震わせながらかなめは強がって見せる。木枯らしが吹いてもおかしくないような秋の空の下、上着をレンジの端に置かれた弾薬庫に引っ掛けた彼女は、上着の下にいつも着ている黒のタンクトップに作業用ズボンと言ういでたちで誠の前に立っていた。
「一応、今日は僕達はアメリアさんの手伝いをするために来たと思うんですけど」
「はぁ?あのアホの手伝いなんてするために来たんじゃねえよ、アタシは。あいつがアホなことしてうちの部隊に迷惑をかけないかどうか監視しに来たんだ」
そう言うと、かなめは射撃レンジを占領する。そしていつものように数秒で全弾をターゲットの胸元に叩き込むと空のマガジンを取り出す。
「そうですの。じゃあここで無駄に弾を消費するのは目的とは反しているわけではなくて?」
不意を突かれた茜の一言にかなめは戸惑ったように視線を泳がせる。
「茜が言うんじゃ仕方ねえな。ちょっと待ってろ、片付けたら行くから」
かなめはまるで子供のように口を尖らせながら自分が使っていたレンジにとって返す。そのまま保管庫にかけていた上着を着込み、素早くガンベルトを巻いてテーブルに弾薬が空の拳銃のマガジンを置く。
その動作を一通り見ていた誠はそのまま彼女の隣に座った。かなめは相変わらず拗ねた子供のような表情で、誠に視線を合わせようともせずただ弾薬の入った箱からS&W40弾を一発づつ取り出してはマガジンにこめていく。
その隣のレンジに置かれた丸椅子に腰掛けた誠は黙ってその様子を見つめていた。
「オメエもさ……」
突然いつもの棘のあるような言葉の響きとは違う力の抜けた調子でかなめが話を切り出した。いつもならタレ目で馬鹿にしたように誠をにらみつけるはずのかなめが悲しそうに自分の手元を見つめている。
「どうせ、カウラやアメリアがいいんだろ?アタシなんか……」
誠はただ黙って一発一発の弾丸を見極めながらマガジンに装弾するかなめを見つめていた。人口筋肉の強化が進んでいる今、か細い女性のように作られているかなめの体はいかにも脆く儚げに見える。
「いいんだぜ、私みたいな作り物の体の持ち主なんかに関わるのはごめんなんだろ?それにオメエも知ってるだろうが非正規部隊の女工作員の仕事なんて……体を売って何ぼだ」
最後の言葉を飲み込んだかなめは装弾を終えたマガジンを握った拳銃に叩き込んだ。そして誠をにごった目で見つめた。誠は配属直後に起きた『近藤事件』の後、隊の人間の素性についてネットで調べて見たことがあった。
ランは10年前の遼南内戦での輝かしい功績が目に付いた。そんな経歴を見渡してみてもかなめの情報はほとんど見つけることができなかった。アングラサイトでかなめの情報を拾った。
それを見つけたのは偶然だった。先輩の島田から聞かされたパスワードでランダムで再生していたアダルトサイトの一件の動画だった。そこに五、六人の怪しげな男にかこまれている女の姿があった。一人の男が画面を拡大しようと手をカメラに伸ばした瞬間、胸をさらけ出している女に手を伸ばした男が男が悲鳴を上げ、血しぶきが画面を覆った。
返り血を浴びて画面に映し出される女の顔。それはどう見てもかなめだった。誰が何のためにその動画をサイトに乗せたのかはわからない。だが、5年前には甲武陸軍の特殊作戦集団の一員として東都にいたと言うことは同盟厚生局の違法法術研究の摘発の際にかなめの口からも知らされていた。
当時、甲武陸軍は財政の危機に直面していたとされている。遼帝国からの薬物や違法採掘資源の密輸ラインが寸断されたことで新たな活路として南方の失敗国家がならぶ大陸ベルルカンからのルートが開拓された。その非合法物資ルートをめぐり裏社会や非正規活動の資金を稼ぐためにさまざまなシンジケートと甲武陸軍が抗争劇を繰り広げたことは誠もニュースで散々聞かされたものだった。
そんな血に彩られた東都湾岸地区のシンジケート達の攻防、俗に言う『東都戦争』にかなめが関わるとしたらあの動画のようなことを彼女がしていたとしても不思議ではない。そう考えると誠はかなめのことは何も知らないころに気づいた。
「おい!置いてくぞ」
ぼんやりとかなめの手の動きを目で追っていた誠にかなめが声を掛ける。残った拳銃弾を保管庫に入れて鍵をかけると声をかけたかなめが呆れたように立ち上がる。そして誠の目を見ようとせずに、そのまま先に隊舎に向かうかなめに続いて歩き始める。見ているとどこか消えてしまいそうな細い背中。いつもなら張り飛ばされる恐怖で緊張しながら歩く誠に彼女を支えてあげたいと言うような衝動が目覚めていた。
「西園寺さん」
しかし、今目の前にいるかなめが誠にとってのかなめのすべてだ。そう思って誠は声をかけた。
「なんだよ、意見でもする気か?」
歩みを止めることもなくかなめは歩き続ける。誠も早足でその後ろに続く。
「西園寺さんは西園寺さんでしょ?」
その誠の言葉にかなめは足を止めた。振り向いたかなめは何か言いたげに誠をにらみつけてくる。
「なんだ、気になる口調だな。文句でもあるのか?」
かなめは今度は確実に誠の目を見つめてじりじりと誠に近づいてくる。そのまま誠の息のかかるところまで近づいた彼女はそのまま豊かな胸の前に腕組みして挑戦的な視線を誠に投げてくる。
「良いじゃないですか、西園寺さんは西園寺さんで」
「なんだ?ずいぶん達観した物言いじゃねえか。確かにアタシはオメエみてえな日向を歩いてきた兵隊さんとは違うからな」
「別に僕は……」
重苦しい空気が漂う。再びかなめは視線を落として制服のポケットからタバコとライターを取り出す。
一瞬だけタレ目のかなめが誠に向けた視線がいつものかなめの不遜なそれに戻っているのを見て誠は安心して微笑んだ。
「ああ、わあったよ!あいつ等とお友達をやればいいんだろ?ハイハイ!」
そう言いながらかなめはタバコをくわえて肩のラインで切りそろえられた黒い髪を掻き揚げる。ようやくいつもの調子に戻った彼女に安堵しながら落ちていた石をグラウンドに蹴り上げるかなめの後姿を見つめていた。
そう言って頭を下げると誠は部屋を出て廊下に飛び出した。そして誠は立ち止まった。
『西園寺さんの行きそうなところ……』
誠には見当も付かなかった。かなめはそのきつい性格からあまり他人と行動することが少ない。カウラやアメリアと一緒にいるのはだいたいが成り行きで、誠も時々いなくなる彼女がどこにいるのかを考えたことは無かった。
「とりあえず射場かな」
そう思った誠はそのまま管理部のガラス張りの部屋を横目にハンガーの階段を下りる。整備員の姿もなく沈黙している05式を見ながらグラウンドに飛び出した。
誠の予想通り響く連続した銃声が響いていた。誠はそのまま駆け出した。積み上げられた廃材の山を通り抜け、漫画雑誌が山と積まれた資源ごみの脇をすり抜ける。
射撃レンジでは弾を撃ちつくして拳銃のマガジンに弾を込めているかなめの姿があった。どう話を切り出せばいいのか迷うそこに珍しくリボルバーの射撃訓練をしている法術特捜首席捜査官の嵯峨茜警視正の姿があった。
一心不乱で弾を込めているかなめに見つからないように忍び足で茜のところに近づく。
「どうしたんですの?かなめお姉さまがいきなり自分の銃を撃ち始めて……」
不審そうに誠を見つめる茜の視線が誠に向けられる。
「ちょっとアメリアさんにいじられてああなってしまいまして……」
申し訳ないというように誠は頭を掻いた。茜は腑に落ちないと言うように首をかしげる。
「そうですの……ふーんまあ、私に助言ができないことは間違いないけど。それにしても……」
そう言う茜の視線には愛用の銃、スプリングフィールドXDM-40に弾丸を込め終えたかなめの姿があった。すばやくマガジンを銃に差し込んだかなめは一服したように周りを見て、そこに誠がいることに驚いたような表情を浮かべると、そのまま銃のスライドのロックを解除して弾薬を装弾してから彼に向かって歩いてきた。
「なんだよ。文句あるのか?今月の射撃訓練の弾にはまだかなり余裕があるからな……」
口元を震わせながらかなめは強がって見せる。木枯らしが吹いてもおかしくないような秋の空の下、上着をレンジの端に置かれた弾薬庫に引っ掛けた彼女は、上着の下にいつも着ている黒のタンクトップに作業用ズボンと言ういでたちで誠の前に立っていた。
「一応、今日は僕達はアメリアさんの手伝いをするために来たと思うんですけど」
「はぁ?あのアホの手伝いなんてするために来たんじゃねえよ、アタシは。あいつがアホなことしてうちの部隊に迷惑をかけないかどうか監視しに来たんだ」
そう言うと、かなめは射撃レンジを占領する。そしていつものように数秒で全弾をターゲットの胸元に叩き込むと空のマガジンを取り出す。
「そうですの。じゃあここで無駄に弾を消費するのは目的とは反しているわけではなくて?」
不意を突かれた茜の一言にかなめは戸惑ったように視線を泳がせる。
「茜が言うんじゃ仕方ねえな。ちょっと待ってろ、片付けたら行くから」
かなめはまるで子供のように口を尖らせながら自分が使っていたレンジにとって返す。そのまま保管庫にかけていた上着を着込み、素早くガンベルトを巻いてテーブルに弾薬が空の拳銃のマガジンを置く。
その動作を一通り見ていた誠はそのまま彼女の隣に座った。かなめは相変わらず拗ねた子供のような表情で、誠に視線を合わせようともせずただ弾薬の入った箱からS&W40弾を一発づつ取り出してはマガジンにこめていく。
その隣のレンジに置かれた丸椅子に腰掛けた誠は黙ってその様子を見つめていた。
「オメエもさ……」
突然いつもの棘のあるような言葉の響きとは違う力の抜けた調子でかなめが話を切り出した。いつもならタレ目で馬鹿にしたように誠をにらみつけるはずのかなめが悲しそうに自分の手元を見つめている。
「どうせ、カウラやアメリアがいいんだろ?アタシなんか……」
誠はただ黙って一発一発の弾丸を見極めながらマガジンに装弾するかなめを見つめていた。人口筋肉の強化が進んでいる今、か細い女性のように作られているかなめの体はいかにも脆く儚げに見える。
「いいんだぜ、私みたいな作り物の体の持ち主なんかに関わるのはごめんなんだろ?それにオメエも知ってるだろうが非正規部隊の女工作員の仕事なんて……体を売って何ぼだ」
最後の言葉を飲み込んだかなめは装弾を終えたマガジンを握った拳銃に叩き込んだ。そして誠をにごった目で見つめた。誠は配属直後に起きた『近藤事件』の後、隊の人間の素性についてネットで調べて見たことがあった。
ランは10年前の遼南内戦での輝かしい功績が目に付いた。そんな経歴を見渡してみてもかなめの情報はほとんど見つけることができなかった。アングラサイトでかなめの情報を拾った。
それを見つけたのは偶然だった。先輩の島田から聞かされたパスワードでランダムで再生していたアダルトサイトの一件の動画だった。そこに五、六人の怪しげな男にかこまれている女の姿があった。一人の男が画面を拡大しようと手をカメラに伸ばした瞬間、胸をさらけ出している女に手を伸ばした男が男が悲鳴を上げ、血しぶきが画面を覆った。
返り血を浴びて画面に映し出される女の顔。それはどう見てもかなめだった。誰が何のためにその動画をサイトに乗せたのかはわからない。だが、5年前には甲武陸軍の特殊作戦集団の一員として東都にいたと言うことは同盟厚生局の違法法術研究の摘発の際にかなめの口からも知らされていた。
当時、甲武陸軍は財政の危機に直面していたとされている。遼帝国からの薬物や違法採掘資源の密輸ラインが寸断されたことで新たな活路として南方の失敗国家がならぶ大陸ベルルカンからのルートが開拓された。その非合法物資ルートをめぐり裏社会や非正規活動の資金を稼ぐためにさまざまなシンジケートと甲武陸軍が抗争劇を繰り広げたことは誠もニュースで散々聞かされたものだった。
そんな血に彩られた東都湾岸地区のシンジケート達の攻防、俗に言う『東都戦争』にかなめが関わるとしたらあの動画のようなことを彼女がしていたとしても不思議ではない。そう考えると誠はかなめのことは何も知らないころに気づいた。
「おい!置いてくぞ」
ぼんやりとかなめの手の動きを目で追っていた誠にかなめが声を掛ける。残った拳銃弾を保管庫に入れて鍵をかけると声をかけたかなめが呆れたように立ち上がる。そして誠の目を見ようとせずに、そのまま先に隊舎に向かうかなめに続いて歩き始める。見ているとどこか消えてしまいそうな細い背中。いつもなら張り飛ばされる恐怖で緊張しながら歩く誠に彼女を支えてあげたいと言うような衝動が目覚めていた。
「西園寺さん」
しかし、今目の前にいるかなめが誠にとってのかなめのすべてだ。そう思って誠は声をかけた。
「なんだよ、意見でもする気か?」
歩みを止めることもなくかなめは歩き続ける。誠も早足でその後ろに続く。
「西園寺さんは西園寺さんでしょ?」
その誠の言葉にかなめは足を止めた。振り向いたかなめは何か言いたげに誠をにらみつけてくる。
「なんだ、気になる口調だな。文句でもあるのか?」
かなめは今度は確実に誠の目を見つめてじりじりと誠に近づいてくる。そのまま誠の息のかかるところまで近づいた彼女はそのまま豊かな胸の前に腕組みして挑戦的な視線を誠に投げてくる。
「良いじゃないですか、西園寺さんは西園寺さんで」
「なんだ?ずいぶん達観した物言いじゃねえか。確かにアタシはオメエみてえな日向を歩いてきた兵隊さんとは違うからな」
「別に僕は……」
重苦しい空気が漂う。再びかなめは視線を落として制服のポケットからタバコとライターを取り出す。
一瞬だけタレ目のかなめが誠に向けた視線がいつものかなめの不遜なそれに戻っているのを見て誠は安心して微笑んだ。
「ああ、わあったよ!あいつ等とお友達をやればいいんだろ?ハイハイ!」
そう言いながらかなめはタバコをくわえて肩のラインで切りそろえられた黒い髪を掻き揚げる。ようやくいつもの調子に戻った彼女に安堵しながら落ちていた石をグラウンドに蹴り上げるかなめの後姿を見つめていた。
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