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第20章 楽しい連中

ピースメーカー

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「サラ!例の奴やって!」 

 パーラがカメラを構えながら叫ぶ。それに応えるように親指で帽子の縁をはじいたサラが手にした銃を軽く胸の前にかざした。

「行くよ!」 

 手にした銃を構えつつ振り向くサラ。思わず誠はのけぞった。
 
 周りの視線を感じてそう叫ぶとサラは銃を振り上げる。鉄紺色の銃身の短いリボルバーは人差し指を軸に、くるくると彼女の手の中で回転していた。思わず拍手をする整備員達の様子を知るとさらにその回転は加速していく。

「ほう……」 

 感心しているのか呆れているのか。カウラはまったくどちらとも付かない表情を浮かべていた。サラはそれを見るとすばやく右腰にあるホルスターに銃を叩き込んだ。技術部員や運行部の女性士官もそれには一斉に感心したと言うような拍手を送った。

「なんだ?ウェスタン公園にでも就職するのかよ」 

 一方かなめは明らかに呆れていた。それを見るとアメリアはつかつかとサラの横まで歩いていく。

「ちょっと見せて」 

 アメリアの言葉にうなづいたサラが銃を手渡す。先日見た青みを帯びた黒い銃が冬の日差しに輝いて見える。しばらく手にとって眺めた後、アメリアは銃器担当の下士官に振り返った。

「これ全部ブラックパウダー弾?」 

「違いますよ。あんなのさっきのでおしまいですから」 

 銃器担当の下士官にそう言われるとしばらくシリンダーを見つめていたアメリアが大きくため息をついた。彼女の手は普通のリボルバーのようにシリンダーを引き抜こうとするがまったく動く様子が無い。

「これって……どうやって装填するの?と言うか撃った薬莢を取り出そうって言ったって……」 

 全弾撃ちつくしているらしくアメリアはしばらくじっと短い銃を眺めていた。それを見たサラが満面の笑みを浮かべている。

「ああ、ちょっと貸してね……、これ借りてもいい?」 

 サラはそう言うとテーブルの上にあったドライバーを手にして銃の劇鉄を少し押し下げる。そのままシリンダーの後ろのブロックが開く。そしてそこに開いている穴にドライバーを突き刺して薬莢を取り出した。

「面倒だな」 

「使い物にならねえじゃねえか」 

 カウラとかなめの意見ももっともだった。サラはようやく二発の薬莢を取り出すことに成功して次の薬莢を取り出すべくドライバーを持ち直す。

「そりゃあ映画の西部劇みたいに六発以上撃ちまくるわけには行かないですからね、現実問題」 

 銃器担当の下士官の一言にサラはムッとしたように顔を上げる。不器用にドライバーで自分の銃と格闘しているサラを見ながら銃器担当の下士官は必死になって笑いをこらえていた。

「だから二挺拳銃なんですよ。二挺あれば計十二発。下手なオートピストルより弾は多い」 

「そりゃわかってるんだけどさあ。相手が多弾数のオートで襲ってきたらどうするんだ?」 

 かなめの問いに下士官は意味がわからないと言うように首をひねる。だが、すぐにかなめは彼の考えを理解して下士官の肩に手を乗せる。

「そうだな。あいつの拳銃はただの錘だからな」 

「ひどいんだ!そんなこと言うと撃たせてあげないぞ!」 

「おもちゃじゃねえんだ!誰が触るか!」 

 かなめはそう言ってへそを曲げるが、サラの隣に立っているアメリアは前に置かれた弾薬の箱に手を伸ばしていた。

「これってここに弾を入れればいいの?」 

 アメリアはうれしそうにサラから渡されたリボルバーピストル、コルト・シングルアクションアーミーを手に弾をこめようとする。

「うん、そこから一発一発ハンマーをハーフコックにしてシリンダーを回しながら入れるんだよ」 

 サラの言葉を聞くとアメリアは45口径の弾丸を一発づつシリンダーに差し込んでいく。その表情は楽しいともめんどくさいとも取れる複雑なものだった。

「結構炸薬の量が多いんだな。フレームの強度は大丈夫なのか?」 

 カウラは心配そうにサラ達を見つめる。その手には箱から取り出した一発の弾丸が握られている。

「ああ、大丈夫ですよ。元々こいつはアメリカとかの時代祭りの為に有るような銃ですから。威力はかなり抑えた弾しか手に入りません。まあ炸薬を増やせば威力は上がりますけど……どうせサラが使うんでしょ?意味ないですよ」 

 そう説明している間にアメリアは弾をこめ終わるとそのままターゲットを狙う。

「親指でハンマー起こせよ!シングルアクションだからな!」 

「わかってるわよ!」 

 かなめにやじられてアメリアは叫ぶように言い返す。そしてそのまま右手の親指でゆっくりハンマーを起こすとすばやく引き金を引いた。

 一瞬置いて轟音が響く。

 アメリアの手の中で滑ったように銃がはねて銃口が天井を向いているのが見える。

 それを見てかなめは大笑いする。しばらく何が起きたかわからないと言うようにアメリアは立ち尽くしていた。

「ああ、ああなるのは仕方ないんですよ。グリップがなで肩ですし、元々グリップのシェリブズは丸くて握りづらいですから。どうしてもオートに慣れた人が初めて撃つと反動が上に逃げて銃口が天井向くんですよ」 

 下士官の言葉に思うところがあったのか、カウラが立ち上がるとアメリアの後ろに立つ。

「私にも撃たせろ」 

 カウラのその言葉にしばらくアメリアは目が点になっている。隣で笑っていたサラの表情も驚いたように変わる。

「ええ、別にいいけど……」 

 そう言ってアメリアはカウラに銃を手渡した。そしてそのままカウラは受け取った銃で30メートル先の標的に狙いをつけた。

「馬鹿やるなよ!」 

 そう言うかなめはいつの間にかタバコを吸い始めていた。野次馬達も展開がどうなるのか楽しみで仕方がないと言うようにカウラを見つめている。カウラは静かにハンマーを起こす。その様子に場はあっという間に静まり返っていた。冬の北風だけが枯れ草を揺らして音を立てている。

 カウラが引き金を引く。そしてハンマーが落ちる。そして火薬の点火による轟音が響いた。最新式の炸薬とは言え、短い銃身では燃焼し切れなかった炸薬が銃口の先に炎の球を作って見せる。

「派手だねえ……こりゃ」 

 タバコを咥えているかなめの一言。誠が銃口の先を見ればマンターゲットの頭に大穴が開いている。

「結構当たるもんだな」 

 そう言うとカウラは満足したように銃をサラに返した。

「まあレプリカですからバレルの精度なんかは今のレベルですよ。それにしてもさすがですね、反動をほとんど殺していたじゃないですか」 

 下士官に褒められてカウラは少し満足げに微笑んでいた。次は私だと言うようにかなめが跳ね上がるように立ち上がった。
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