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第14章 ある一日

ラーメン

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「なんだ?薄ら笑いなんか浮かべて……例のプレゼントが仕上がったのか?」 

 昼はラーメンだった。どんぶりのスープをすすり上げたかなめがニヤつきながら誠に声をかける。確かにカウラのイラストを仕上げた誠の気分は良かった。カウラを見て、誠は別にアメリアに頼まれて描いた女魔族と先ほど描き上げたイラストが似ていてもどうでもいいと言うような気分になっていた。

「別に……」 

「別にって顔じゃないわね。まあ今日はこれからクリスマスの料理の材料を買いに行く予定なんだけど」 

 アメリアはそう言うと麺をすすり上げる。見事な食べっぷりにうれしそうに誠の母、薫はうなづく。

「お誕生日の料理……でも、オードブルはクリスマスっぽくなっちゃうわよ」 

 そう言いながらも満面の笑みの母に誠は苦笑いを浮かべていた。明後日のカウラの誕生日会と称したクリスマスを一番楽しみにしているのは母かもしれない。そんなことを思いながら誠はどんぶりの底のスープを飲み干す。

「そんなにスープを飲むと塩分を取りすぎるぞ」 

「いいんだよ!これがラーメンの醍醐味だ」 

 カウラを無視してかなめもスープを飲み干した。体内プラントで塩分ろ過の能力もあるかなめの台詞には説得力はまるで無かった。

「でも鶏の丸焼きは欲しいわよね」 

 すでに食べ終えてお茶をすすっているアメリアがつぶやく。

「だったらオメエが買え。止めねえから」 

 かなめの言葉にアメリアが鋭い軽蔑するような視線をかなめに向ける。そんな二人を暖かい視線で見守る薫に安心感を覚えた誠だった。

「結局お前達が楽しむのが目的なんだな?」 

「悪いか?」 

 嫌味のつもりで言った言葉を完全に肯定されてカウラは少しばかり不機嫌そうな表情になる。かなめは立ち上がると居間から漫画を持ってくる。

「『女検察官』シリーズね。誠ちゃん。ずいぶん渋い趣味してるじゃないの」 

 アメリアが最後までとっていたチャーシューを齧りながらつぶやく。誠のコレクションでは珍しい大衆紙の連載漫画である。

「これは絵が好きだったんで。それとそれを買った高校時代の先輩が『たまには硬派な大人向けの漫画も読め!』って言うもので……」 

「ふーん」 

 アメリアはどちらかと言うと劇画調に近い表紙をめくって先ほどまでカウラが読んでいた漫画を読み始める。

「クラウゼさん。片づけが終わったらすぐに出るからね」 

「はいはーい!」 

 薫の言葉にアメリアはあっさりと返事をする。誠は妙に張り切っている母を眺めていた。かなめはそのまま居間の座椅子に腰掛けて漫画を読み始めたアメリアの後ろで彼女が読んでいる漫画を眺めている。

「邪魔」 

「なんだよ!そう邪険にするなって」 

 後ろから覗き込まれてアメリアは口を尖らせる。それを見ていて誠は朝のサラを思い出した。

「そう言えば西園寺さんさっきどこかと通信してましたね」 

「は?」 

 アメリアの後頭部の紺色の髪の根元を引っ張っていじっていたかなめが不機嫌そうに振り返る。そしてしばらく誠の顔をまじまじと見た後、ようやく思い出したように頭を掻いた。

「ああ、銃の話でサラから連絡があってな」 

「サラさんが銃……どう考えてもつながらないんですけど」

 誠の間抜けな質問にかなめは大きくため息をつく。

「拳銃だよ拳銃。なんでも珍しいのを手に入れたって小火器担当の奴から連絡があったんだ……どこで手に入れたかは知らねえけどな」

「はあ……」

 今度はしばらく誠が黙り込む。誠にはかなめの言葉の意味がはっきりとは分からなかった。銃を一番使うかなめに連絡があったのは当然だということで自分を納得させた。

不機嫌そうなかなめから目をそらすと荒いものを終えた母が誠を手招きしていた。

「ああ、出かけるみたいですよ」 

 誠の言葉にさっさと立ち上がるアメリア。しゃべり足りないかなめは不機嫌そうにゆっくりと腰を上げる。すでに暖かそうなダウンジャケットを着込んだ母とカウラを見ながら誠はそのまま居間にかけてあったスタジアムジャンバーに手を伸ばした。

「この格好だと変かな?」 

「この寒空にタンクトップ?馬鹿じゃないの?」 

 カウラから渡された濃紺のコートを羽織ながら鼻で笑うアメリアをにらんだかなめだが、あきらめたようにダウンジャケットを羽織る。

「じゃあ、いいかしら」 

 薫の言葉で誠達は出かけることにした。
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