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第6章 断られた人

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「ああ、神前。この前の豊北線の脱線事故の時の現場写真はどのフォルダーに入っているんだ?」 

 気分を変えようとカウラが誠に言葉をかけてきた。

「ああ、ちょっと待ってください……」

誠はそう言いながらデータをカウラの端末に転送した。

「カウラ!」 

 お通夜の雰囲気のかえでが居なくなってほっとした表情のランが、カウラに向かって声をかけた。

 椅子に浅く座ってノンビリとしていたカウラがそんなランに目を向ける。

「私ですか?」 

「おう!東都警察の第三機動隊の隊長さんからご指名の通信だ」 

 そう言ってランは画面を切り替える。誠は思わず隣のカウラの画面を覗き見ていた。見覚えのあるライトブルーのショートカットの女性が映っていた。誠はそのメガネの鋭い視線から先日演習場で出会った警部補、エルマ・ドラーゼのことを思い出した。

『カウラ、先日は久しぶりだったな』 

 艶のある声に誠の耳に響いた。彼の目の先にかなめのタレ目が浮かんでいたのですぐに誠は下を向く。

「ああ、エルマも元気そうだな」 

 あまりにあっさりとした挨拶に茶々を入れようと顔を出していたかなめは毒気が抜かれたように呆然のカウラを見つめていた。

『同期で現在稼働中の連中にはなかなか出会えなくて……誰か仕切る奴が居れば会合でも持ちたいとは思うんだが』 

「難しいな。それぞれ忙しいだろうし」 

 どうにも硬い言葉が飛び交う様に誠もさすがに首を傾げたくなっていた。人造人間でも稼働時間の長いアメリア達と比べると確かにぎこちなさが見て取れた。特に同じ境遇だからなのだろう。カウラは誠達と接するときよりもさらに堅苦しい会話を展開していた。

『そうだ、実はこれから豊川の交通機動隊に用事があって近くまで行くんだが……例の貴様の部下達。面白そうだから紹介してくれないだろうか?』 

 誠とかなめがエルマの一言に顔を見合わせる。

「ああ」 

「隊長命令ならば!」 

 かえでを連れて戻ってきたばかりのかなめはがちがちとロボットがするような敬礼をしておどけてみせる。誠も笑顔でうなづいた。

「どうやら大丈夫なようだ。それともしかするとおまけがついてくるかも知れないから店は私の指定したところでいいか?」 

 そう言うとエルマに初めて自然な笑顔が浮かんだ。

『そうしてくれ。どうしてもそちらの地理は疎いからな、では後で』 

 敬礼をしたエルマの姿が消える。かなめは口を押さえて噴出すのを必死でこらえている。ランは困ったような笑みを浮かべてカウラを覗き見ている。

「カウラの知り合いか。今の時間に私用の電話……オメー等がやることじゃないな。何かあったと考えるべきだろうな」 

 そんなランの言葉に誠も少しばかりエルマと言う女性警察官の存在が気になり始めた。

「何かって……?」

 誠のつぶやきにランが大きくため息をつく。

「分かんねーならそれでいいわ。まー何はともあれ昔なじみと会えるんだ。良いことじゃねーか……なーカウラ!」

 笑みを浮かべながらランは弱々しい笑みを浮かべるカウラに言った。

「ええ、まあ」

 カウラはどう反応していいのか困ったかのように硬い笑みを浮かべていた。

「エルマさんて……この前の訓練施設であった警部さんですか?」

 そう言って誠は戸惑った表情のカウラに目をやった。

「まーアタシ等の普通の人間関係とやらはベルガーにはまだ足りねーところだからな。良―機会だ。楽しんで来いよ」

 ランはかえでが居なくなってすっかりご機嫌でそう言った。

「人間関係か……いろいろと学ぶべきことが多いんですね」

 そう言いながらカウラはモニターに視線を投げる。

「そーだ、人間死ぬまで勉強だぞ……勉強しねーとうちの駄目隊長みたいになっちゃうかんな」

 ランはそう言いながら満足げに成長著しいカウラにまなざしを投げた。
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