上 下
1,320 / 1,455
第3章 警備活動

情報収集

しおりを挟む
「いつ見てもぽわぽわだな、ひよこは」 

「そうよね。でもまあ出動時には一番の頼みの綱だもの。普段は英気を養っていてもらわないと……ひよこちゃんの力はいつだって必要だから」 

 珍しくかなめとアメリアが意見があったというようにうなづきあう。それを見ていた誠が立ちひざのままコタツに向かう。

 急に腹の虫が鳴いた。それを聞くとアメリアの表情が変わった。元々切れ長の瞳には定評があるアメリアだが、さらに目を細めるとその妖艶な表情は慣れている誠ですらどきりとするものがあった。

「あら?神前曹長のおなかが……」 

 アメリアはそう言うと舌なめずりをした。当然かなめのタレ目も細くなって誠を捉えている。

「仕方ないだろ。時間が時間だ。それに貴様等が神前を外に出しておくからエネルギーの燃焼が早まったんだ」 

 二人の暴走が始まる前にとカウラの言葉が水をさす。

「そうなの?誠ちゃん?」 

 アメリアは今度は悲しそうな表情を演技で作って見つめてくる。誠はただ頭を掻くしかなかった。

「でもそうすると買出しか出前か……」 

 そう言いながらもかなめの手には近所の中華料理屋のメニューが握られている。

「出前だろ?」 

 カウラの一言と無視して暮れてきた夕日と自然に付いた電灯の明かりの中でかなめは麺類のメニューを見る。そんなかなめを見ながらアメリアが人差し指を立てる。

「ああ、私そこなら海老チャーハン……あそこはご飯ものは結構早いから」 

 メニューの背表紙で店を推察したアメリアはそう言い切った。かなめはしばらく眉をひそめてアメリアを見つめた後、再びメニューに目をやった。

「アタシは麺類がいいんだよな……カウラ。貴様はどうするよ」 

 判断に困ったかなめはメニューをカウラに押し付けた。困ったような表情で誠を見た後、カウラは差し出してくるかなめの手の中のメニューを凝視した。

「あっさり味が特徴だからな……あそこの店は」 

 そう言いながらすでにカウラは食欲モードに入っていた。意外なことだがこの三人ではカウラが一番の大食だった。

 基本的にカウラ達、人造人間『ラストバタリオン』シリーズの人々は小食で効率の良い代謝機能を保持している。運航部の面々などもかなりの小食で、アメリアもその体格に似合わず普通に一人前の食事で済むほどだった。

 その中で代謝機能の効率化や食欲の制御、栄養摂取能力の向上研究の成果はカウラには見られなかった。172cmの身長の彼女だが、時としては186cmの誠よりも食べることがある。

「私もご飯物がいいな。出来れば定食で……回鍋肉定食か……それでいいか」 

 そう言うとカウラはメニューをかなめに返す。そしてかなめはそのメニューを誠からも見える位置に置いた。

「おい、神前はどうするよ」 

 かなめのタレ目が誠を貫く。こう言う時はかなめは誠と同じものを頼む傾向があった。そしてまずかったときのぼろくそな意見に耐えるのは気の弱い誠には堪える出来事だった。

「そうですね」 

 先ほどかなめは麺類を食べたいと言った。ご飯ものを頼めば彼女が不機嫌になるのは目に見えている。

「五目……」 

 そこまで言ってかなめの頬が引きつった。誠はそれを見て五目そばは避けなければならないととっさに判断する。彼女は野菜は苦手なものが多い。そこで誠は視点を変える。

「じゃあ排骨麺で」 

「じゃあアタシも同じと言うことで頼むわ」 

 そう言ってかなめはメニューを誠に投げる。受け取った誠はすぐに端末を開いて通信を送り注文を済ませた。

「じゃあご飯も用意できたことで」 

 アメリアはそう言って後ろの棚に四つんばいで這って行く。誠が振り向くと誠に手を振りながら帰って行く運行部の女性士官が目に入る。

 しばしの沈黙が警備室に訪れた。誠達はまったりしながらゲートから出ていく隊員達を見守っていた。

「おい、神前。色目使って楽しいか?」 

 背中から投げかけられたかなめの声に誠は我に返って正座していた。空腹のかなめの神経を逆なでしてと苦になることは一つもない。

「ちょっと!」 

 戸棚に頭を突っ込んでいたアメリアが叫ぶ。彼女の奇行に慣れている誠達はそれを無視した。

「ちょっとって!」 

 戸棚から書類の入ったファイルを手にしてアメリアが顔を出す。その手に握られたファイルを見てようやく誠達はアメリアが何かを見つけたことに気づいて耳を貸す心の余裕を持つことにした。

「なんだよ……つまらねえことなら張り倒すからな」 

 そう言いかけるかなめだが、アメリアの手にあるファイルが輸送予定表であることに気づいて怪訝な顔でそれに目をやった。

「なんだ?そんなファイル。何か大物でも搬入する予定があるのかね」 

 そう言ってかなめが明らかに不自然な厚さのファイルを手に取るが、彼女がその表紙をめくったとたん、表情が瞬時に緊張したものへと変わった。

「神前。そこの窓閉めろ」 

 かなめの表情からそのファイルの重要性を理解した誠は、ゲートが見える窓に這って行き窓を閉める。

外では疲れ果てたような運航部の女子隊員が不思議そうに誠を見つめている。

「何かある……とは思っていたけどねえ……やっぱりか……」 

 かなめはうなづきつつつぶやく。カウラはかなめの手のファイルを伸びをして覗き込んだが、すぐに黙り込んだ。

「まあランの姐御がわざわざ暇な私達をここに呼んだってことで何か搬入があるんじゃないかとは予想は出来ていたけどね」
 
 アメリアがそう言うと出がらしの入った急須にポットのお湯を注いだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)

SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。 主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、 それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

初恋フィギュアドール

小原ききょう
SF
「人嫌いの僕は、通販で買った等身大AIフィギュアドールと、年上の女性に恋をした」 主人公の井村実は通販で等身大AIフィギュアドールを買った。 フィギュアドール作成時、自分の理想の思念を伝達する際、 もう一人の別の人間の思念がフィギュアドールに紛れ込んでしまう。 そして、フィギュアドールには二つの思念が混在してしまい、切ないストーリーが始まります。 主な登場人物 井村実(みのる)・・・30歳、サラリーマン 島本由美子  ・ ・・41歳 独身 フィギュアドール・・・イズミ 植村コウイチ  ・・・主人公の友人 植村ルミ子・・・・ 母親ドール サツキ ・・・・ ・ 国産B型ドール エレナ・・・・・・ 国産A型ドール ローズ ・・・・・ ・国産A型ドール 如月カオリ ・・・・ 新型A型ドール

処理中です...