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第5章 捜査開始
東和遼南人協会
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端末に集中しようとした誠の視界に、島田が久しぶりに見る整備班員のつなぎ姿で廊下を見ながら部屋に入ってきたのが見えた。隣にはサラがニヤニヤ笑いながら廊下の騒動を眺めているのが見える。
「ベルガー大尉。あれ、何とかした方が良いですよ」
そう言って島田は隊長室の辺りを指差す。誠が島田が開けたドアの向こうをのぞき見るとそこにはかなめとかえでがいた。かえではかなめにしがみつきながら泣いている。ドサクサ紛れに胸を揉む彼女の手をかなめは思い切りつねり上げている。
「お姉さまー!お姉さまが解雇なら僕もー!」
「だから違うって言ってるだろ!人の話を聞けよ!」
叫ぶかえでをかなめはなんとかたしなめようとする。その隣ではその様をかえでの補佐役である渡辺リン大尉が黙って見つめている。その異常な光景に誠達はただ唖然としていた。
「まあ……あれは一つのレクリエーションだからな」
カウラは自分に言い聞かせるようにそう言って冷ややかな目を騒動の本人達に向けていた。
「どうなんだ、そっちは?」
ひとたび呆れたようにそのまま席に戻ったランが島田に声をかける。頭を掻きながらかなめ達の騒動を見つめているサラを振り返ると諦めたような笑みを浮かべる。
「どうもねえ。口が堅い人が多いのか、それとも本当に何も知らないのか微妙なところでしてね。とりあえず今日は独自のルートで捜査するからって茜お嬢さん達は出かけたわけですが……」
明らかに煮詰まっているのがわかって誠も島田に同情した。
「アタシ等も第三者に監視されている状態だしな。どこかの馬鹿がかなめみたいに状況にいらだって動いてくれると楽なんだけどなー」
「不謹慎な発言は慎んでください」
ランの言葉にカウラが慎重にそう突っ込む。それを見て舌を出すランを見て誠は萌えを感じていた。
「でもこの監視している画像を撮った人は何者なんですかね」
誠の言葉にランは首をひねる。実働部隊の詰め所のドアにはようやくかえでを引き剥がしたかなめが息を荒げて部屋に入ってくる。
「それか?出所は在東和遼南人協会のサーバーからのアクセスだそうだ」
そう言ってかなめは詰め所に押し入った。誠達もそれに続く。かなめに逃げられたかえでは廊下で指をくわえてかなめに熱い視線を送っている。
「在東和遼南人協会。初めて聞く名前ですね。それってどう言う組織ですか?」
誠の何気ない発言にカウラが失望したようにため息をつく。
「遼南内戦で敗北した共和軍の亡命者が作った団体だ。主に構成員は前政権の官僚や軍の関係者が多かったが、最近では遼南皇帝即位後に叩き潰した遼南東海州の花山院軍閥の関係者が多いな。一時期の人民党の圧政や経済の混乱で発生した難民の相互利益の確保を目的としていると言うのが建前だが実際のところは現政権の悪口を喧伝して回っている暇人の集団だ」
カウラの言葉にかなめが苦々しげにさらに話を続けた。
「表向きはそうだが実際には裏ルートでの租界の物資の流通を管理していると言う話もある……まあ胡散臭い団体だな。近藤事件でも非合法物資の売却で得た資金のロンダリングを一部を近藤中佐に頼んでいた資料はお前も見てるはずだから覚えておけよ」
その言葉でようやく誠も親甲武系のシンジケートの中にその名前があったのを思い出した。
「でもなんでそこの関係者がこんな画像を撮れたんですか?」
「サーバーを使ったからってこのビデオの撮影をした人間が在東和遼南人協会の関係者とは限らねーだろうが」
キーボードを叩きながらランが突っ込む。
「無関係では無いとは思うが少なくとも技術部の士官にそのサーバーを介して情報を流す意図を持った人物が、アタシ等の監視をしていることを印象付けたかったと言うことは間違いないだろうな」
かなめはそう言って自分の端末の画面を開いた。
「でも……僕達を監視しているって宣言してみせる意味が分からないんですけど」
そんな誠の言葉に一番に落胆した表情を浮かべたのはかなめだった。
「あのなあ、アタシ等の監視をしていると言うことはだ。いずれこの監視をしている連中の利害の範囲にアタシ等が関わればただじゃすまないぞ、と言う脅しの意味があるんだと思うぞ。実際、物理干渉型の空間展開なんかを見せ付けているわけだからな。どんな強力な法術師を擁しているか分かったもんじゃねえよ……本命の違法法術研究集団とは別の法術師をすでに保有している勢力があるってこった」
モニターを見ながら首筋のジャックにコードをつなげながらかなめがそう言って苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「なんでこんなことしたんでしょう」
純粋に疑問を持った誠がそうつぶやいた。
「アホか?今の話聞いてただろ?脅しだよ脅し」
かえでを引き離すことに成功したかなめはそう言うと始末書の作成に取り掛かる。だが、誠は相変わらず首をひねっている。
「だって、ただ邪魔をしたいとか監視していることを知ってほしいなら、直接クバルカ中佐達に攻撃を仕掛ければ良いじゃないですか」
誠の何気ない一言にランが顔を上げた。
「そうか!カウラ、車は出せるか?」
「ええ、良いですけど……始末書は?」
「そんなものはどーでもいーんだよ!」
ランはすぐに立ち上がって背もたれにかけてあったコートを羽織る。カウラも呆然と様子を見ているかなめを無視して立ち上がった。
「どうしたんですか?」
心配そうな誠の声にランは満面の笑みを返す。
「そうなんだよ!アタシ等に直接攻撃を出来ない理由がある連中を当たれば良いんだ」
そう言ってドアにしがみついているかえでの肩を叩いてランは出て行く。それをカウラは慌てて追った。
「僕……何か言いました?」
誠は呆然と立ち尽くす。そしてランのひらめきの中身が何かと思いながら仕事に戻ろうとした。
「知りたいか?」
「うわ!」
誠は耳元に突然囁きかけてきたカウラに驚いて飛び上がる。それを見てカウラはしてやったりの笑みを浮かべる。
「何か知ってるのか?」
かなめのいぶかしげな顔にカウラは机の上の端末を起動した。いじけていたかえでと彼女に寄り添うようにして立つリンと一緒にカウラの操作している誠の端末の画面をのぞきこんだ。
「つまりだ、司法局に介入されるといろいろと困る人が悪趣味な人体実験の片棒を担いでいると言うことはだ。司法局が嫌いで嫌いでたまらない連中と考えが行くわけで……」
そう言うカウラが画面に表示させたのは同盟の軍事機構の最高意思決定機関の組織図だった。
「同盟の軍事機構か。そりゃあ虎を引きずり出したようなもんだな。それにこの面子。全員軍籍は東和陸軍か……」
かなめのタレ目は笑っていなかった。カウラはその組織図にいくつかのしるしをつけていく。その数に誠は圧倒された。
「近藤事件で押収した資料に名前の載っている人間がこんだけ。隊長も目をつけている人物達だ。当然これまで近藤事件の裏帳簿を隊長が握りつぶしたことで弾劾を切り抜けてはいるが近藤中佐の帳簿が表ざたになればどういう処分が出るか……まあこんな裏事情を相手さんも分かってるだろうからな。そりゃあ司法局が嫌いでたまらないだろ」
そこまで言うとカウラは笑みを浮かべる。
「あの帳簿の公表は最後の手段だからな。表に出れば同盟内で要職についてる連中の総入れ替えが始まるわけだ。そうなりゃ同盟の政治的均衡は完全に崩れ去るってわけだ。まあできるなら避けて通りたい道だな」
かなめはそう言ってそのまま自分の端末に目を向ける。
「どおりで情報が集まらないわけだ」
そう言ったのはサラと一緒に画面をのぞき込んでいた島田だった。頭を掻きながら天を仰ぐ。
「東和陸軍には昔から遼州人至上主義を標榜する連中がうようよいますから。その相手にするのは研究を仕切っている組織の面々も避けたいでしょうからね。でもそうなると同盟軍事機構の情報機関がこの事件の調査を始めるんじゃないですか?」
島田の意見に誠もうなづいた。そんな二人とサラを見てカウラは呆れたような顔をする。
「同盟軍事機構の連中が調査を始めて今回の事件の肝である法術師の能力強制開発の技術を手に入れたらどうなると思う?あの連中は本音では地球ともう一回ガチで喧嘩したい連中だ。一騎当千の法術師を大量生産して一気に地球に派遣して大混乱を起こす。そして軍の侵攻」
「勝敗は別としてもかなり見るに耐えない光景が展開されるのは確実だな」
かなめの言葉を聞くまでも無く誠は状況を理解した。
「でもそうすると研究施設を発見しても軍にばれたらエンドじゃないですか!」
「そうでもないぜ」
慌てた誠の言葉をかなめがさえぎる。そして端末を操作して誠の画面を切り替えた。そこに映るのは近藤事件に関与が疑われている同盟軍事機構の上層部の将官達の名前だった。
「こちらも手札はあるんだ。おそらくこの近藤事件関係者の名簿をうちが握っていることは東和軍の連中も知っているはずだ。アタシ等が先に施設を発見できれば連中も無茶な介入はできない。連中も無茶をすれば自棄になったうち等が名簿の公表に踏み切ることも考えてるだろうからな。誰もが自分がかわいいもんだよ」
こう言うときのかなめは晴れやかな顔になる。常に軍上層部から嫌がらせに近い扱いを受けてきただけに彼女のそのサディスティックな笑顔にも誠は慣れてきていた。
「それでも調査は一刻を争う状況だな。西園寺。コイツと行ってこい」
そう言ってカウラは誠の肩を叩く。
「始末書、作ってくれよな」
かなめの言葉にかえでがしぶしぶうなづく。誠は迷いが消えたようなかなめの顔を見て笑顔を浮かべていた。
「俺達は?」
取残された島田。カウラは何も言わずにいつもの軽い笑みを浮かべるとそのまま自分の席へと島田を無視して立ち去ってしまった。すがるような視線を島田は誠に投げるが、彼も目をそらしてそのまま自分の席へと向かう。
「神前!ちゃんと私服に着替えろよな」
助けを求めるような島田を無視してかなめはそう言うと立ち上がって端末を停止させている誠を見下ろした。
「分かりました……」
そういう誠にも島田は涙目を向けてくるが周りの空気を読んで誠は無言で立ち上がって実働部隊の詰め所から更衣室へと向かった。
「ベルガー大尉。あれ、何とかした方が良いですよ」
そう言って島田は隊長室の辺りを指差す。誠が島田が開けたドアの向こうをのぞき見るとそこにはかなめとかえでがいた。かえではかなめにしがみつきながら泣いている。ドサクサ紛れに胸を揉む彼女の手をかなめは思い切りつねり上げている。
「お姉さまー!お姉さまが解雇なら僕もー!」
「だから違うって言ってるだろ!人の話を聞けよ!」
叫ぶかえでをかなめはなんとかたしなめようとする。その隣ではその様をかえでの補佐役である渡辺リン大尉が黙って見つめている。その異常な光景に誠達はただ唖然としていた。
「まあ……あれは一つのレクリエーションだからな」
カウラは自分に言い聞かせるようにそう言って冷ややかな目を騒動の本人達に向けていた。
「どうなんだ、そっちは?」
ひとたび呆れたようにそのまま席に戻ったランが島田に声をかける。頭を掻きながらかなめ達の騒動を見つめているサラを振り返ると諦めたような笑みを浮かべる。
「どうもねえ。口が堅い人が多いのか、それとも本当に何も知らないのか微妙なところでしてね。とりあえず今日は独自のルートで捜査するからって茜お嬢さん達は出かけたわけですが……」
明らかに煮詰まっているのがわかって誠も島田に同情した。
「アタシ等も第三者に監視されている状態だしな。どこかの馬鹿がかなめみたいに状況にいらだって動いてくれると楽なんだけどなー」
「不謹慎な発言は慎んでください」
ランの言葉にカウラが慎重にそう突っ込む。それを見て舌を出すランを見て誠は萌えを感じていた。
「でもこの監視している画像を撮った人は何者なんですかね」
誠の言葉にランは首をひねる。実働部隊の詰め所のドアにはようやくかえでを引き剥がしたかなめが息を荒げて部屋に入ってくる。
「それか?出所は在東和遼南人協会のサーバーからのアクセスだそうだ」
そう言ってかなめは詰め所に押し入った。誠達もそれに続く。かなめに逃げられたかえでは廊下で指をくわえてかなめに熱い視線を送っている。
「在東和遼南人協会。初めて聞く名前ですね。それってどう言う組織ですか?」
誠の何気ない発言にカウラが失望したようにため息をつく。
「遼南内戦で敗北した共和軍の亡命者が作った団体だ。主に構成員は前政権の官僚や軍の関係者が多かったが、最近では遼南皇帝即位後に叩き潰した遼南東海州の花山院軍閥の関係者が多いな。一時期の人民党の圧政や経済の混乱で発生した難民の相互利益の確保を目的としていると言うのが建前だが実際のところは現政権の悪口を喧伝して回っている暇人の集団だ」
カウラの言葉にかなめが苦々しげにさらに話を続けた。
「表向きはそうだが実際には裏ルートでの租界の物資の流通を管理していると言う話もある……まあ胡散臭い団体だな。近藤事件でも非合法物資の売却で得た資金のロンダリングを一部を近藤中佐に頼んでいた資料はお前も見てるはずだから覚えておけよ」
その言葉でようやく誠も親甲武系のシンジケートの中にその名前があったのを思い出した。
「でもなんでそこの関係者がこんな画像を撮れたんですか?」
「サーバーを使ったからってこのビデオの撮影をした人間が在東和遼南人協会の関係者とは限らねーだろうが」
キーボードを叩きながらランが突っ込む。
「無関係では無いとは思うが少なくとも技術部の士官にそのサーバーを介して情報を流す意図を持った人物が、アタシ等の監視をしていることを印象付けたかったと言うことは間違いないだろうな」
かなめはそう言って自分の端末の画面を開いた。
「でも……僕達を監視しているって宣言してみせる意味が分からないんですけど」
そんな誠の言葉に一番に落胆した表情を浮かべたのはかなめだった。
「あのなあ、アタシ等の監視をしていると言うことはだ。いずれこの監視をしている連中の利害の範囲にアタシ等が関わればただじゃすまないぞ、と言う脅しの意味があるんだと思うぞ。実際、物理干渉型の空間展開なんかを見せ付けているわけだからな。どんな強力な法術師を擁しているか分かったもんじゃねえよ……本命の違法法術研究集団とは別の法術師をすでに保有している勢力があるってこった」
モニターを見ながら首筋のジャックにコードをつなげながらかなめがそう言って苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「なんでこんなことしたんでしょう」
純粋に疑問を持った誠がそうつぶやいた。
「アホか?今の話聞いてただろ?脅しだよ脅し」
かえでを引き離すことに成功したかなめはそう言うと始末書の作成に取り掛かる。だが、誠は相変わらず首をひねっている。
「だって、ただ邪魔をしたいとか監視していることを知ってほしいなら、直接クバルカ中佐達に攻撃を仕掛ければ良いじゃないですか」
誠の何気ない一言にランが顔を上げた。
「そうか!カウラ、車は出せるか?」
「ええ、良いですけど……始末書は?」
「そんなものはどーでもいーんだよ!」
ランはすぐに立ち上がって背もたれにかけてあったコートを羽織る。カウラも呆然と様子を見ているかなめを無視して立ち上がった。
「どうしたんですか?」
心配そうな誠の声にランは満面の笑みを返す。
「そうなんだよ!アタシ等に直接攻撃を出来ない理由がある連中を当たれば良いんだ」
そう言ってドアにしがみついているかえでの肩を叩いてランは出て行く。それをカウラは慌てて追った。
「僕……何か言いました?」
誠は呆然と立ち尽くす。そしてランのひらめきの中身が何かと思いながら仕事に戻ろうとした。
「知りたいか?」
「うわ!」
誠は耳元に突然囁きかけてきたカウラに驚いて飛び上がる。それを見てカウラはしてやったりの笑みを浮かべる。
「何か知ってるのか?」
かなめのいぶかしげな顔にカウラは机の上の端末を起動した。いじけていたかえでと彼女に寄り添うようにして立つリンと一緒にカウラの操作している誠の端末の画面をのぞきこんだ。
「つまりだ、司法局に介入されるといろいろと困る人が悪趣味な人体実験の片棒を担いでいると言うことはだ。司法局が嫌いで嫌いでたまらない連中と考えが行くわけで……」
そう言うカウラが画面に表示させたのは同盟の軍事機構の最高意思決定機関の組織図だった。
「同盟の軍事機構か。そりゃあ虎を引きずり出したようなもんだな。それにこの面子。全員軍籍は東和陸軍か……」
かなめのタレ目は笑っていなかった。カウラはその組織図にいくつかのしるしをつけていく。その数に誠は圧倒された。
「近藤事件で押収した資料に名前の載っている人間がこんだけ。隊長も目をつけている人物達だ。当然これまで近藤事件の裏帳簿を隊長が握りつぶしたことで弾劾を切り抜けてはいるが近藤中佐の帳簿が表ざたになればどういう処分が出るか……まあこんな裏事情を相手さんも分かってるだろうからな。そりゃあ司法局が嫌いでたまらないだろ」
そこまで言うとカウラは笑みを浮かべる。
「あの帳簿の公表は最後の手段だからな。表に出れば同盟内で要職についてる連中の総入れ替えが始まるわけだ。そうなりゃ同盟の政治的均衡は完全に崩れ去るってわけだ。まあできるなら避けて通りたい道だな」
かなめはそう言ってそのまま自分の端末に目を向ける。
「どおりで情報が集まらないわけだ」
そう言ったのはサラと一緒に画面をのぞき込んでいた島田だった。頭を掻きながら天を仰ぐ。
「東和陸軍には昔から遼州人至上主義を標榜する連中がうようよいますから。その相手にするのは研究を仕切っている組織の面々も避けたいでしょうからね。でもそうなると同盟軍事機構の情報機関がこの事件の調査を始めるんじゃないですか?」
島田の意見に誠もうなづいた。そんな二人とサラを見てカウラは呆れたような顔をする。
「同盟軍事機構の連中が調査を始めて今回の事件の肝である法術師の能力強制開発の技術を手に入れたらどうなると思う?あの連中は本音では地球ともう一回ガチで喧嘩したい連中だ。一騎当千の法術師を大量生産して一気に地球に派遣して大混乱を起こす。そして軍の侵攻」
「勝敗は別としてもかなり見るに耐えない光景が展開されるのは確実だな」
かなめの言葉を聞くまでも無く誠は状況を理解した。
「でもそうすると研究施設を発見しても軍にばれたらエンドじゃないですか!」
「そうでもないぜ」
慌てた誠の言葉をかなめがさえぎる。そして端末を操作して誠の画面を切り替えた。そこに映るのは近藤事件に関与が疑われている同盟軍事機構の上層部の将官達の名前だった。
「こちらも手札はあるんだ。おそらくこの近藤事件関係者の名簿をうちが握っていることは東和軍の連中も知っているはずだ。アタシ等が先に施設を発見できれば連中も無茶な介入はできない。連中も無茶をすれば自棄になったうち等が名簿の公表に踏み切ることも考えてるだろうからな。誰もが自分がかわいいもんだよ」
こう言うときのかなめは晴れやかな顔になる。常に軍上層部から嫌がらせに近い扱いを受けてきただけに彼女のそのサディスティックな笑顔にも誠は慣れてきていた。
「それでも調査は一刻を争う状況だな。西園寺。コイツと行ってこい」
そう言ってカウラは誠の肩を叩く。
「始末書、作ってくれよな」
かなめの言葉にかえでがしぶしぶうなづく。誠は迷いが消えたようなかなめの顔を見て笑顔を浮かべていた。
「俺達は?」
取残された島田。カウラは何も言わずにいつもの軽い笑みを浮かべるとそのまま自分の席へと島田を無視して立ち去ってしまった。すがるような視線を島田は誠に投げるが、彼も目をそらしてそのまま自分の席へと向かう。
「神前!ちゃんと私服に着替えろよな」
助けを求めるような島田を無視してかなめはそう言うと立ち上がって端末を停止させている誠を見下ろした。
「分かりました……」
そういう誠にも島田は涙目を向けてくるが周りの空気を読んで誠は無言で立ち上がって実働部隊の詰め所から更衣室へと向かった。
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