上 下
1,226 / 1,473
第20章 制圧戦

投下

しおりを挟む
『むー……』 

『どうしたんだ?西園寺。くしゃみでも出るのか?』 

 誠の05式はすでにすべての射出準備を終え、モニターで先発を切るカウラと後詰のかなめの二人の顔がモニターに浮かんでいる状態だった。

『噂話でもしてるのかねえ。ったくどこの馬鹿だ』 

 サイボーグ用の特殊なその特徴的なタレ目を隠しているゴーグルのついたヘルメットの下でかなめは閉じた口と鼻を動かす。

『投下予定ポイントまで一分!』 

 パーラの叫び声と共に輸送機は大きく傾いた。

『このまま対空射撃でどかんは勘弁してくれよ』 

 ようやく落ち着いたかなめの口元にいつも戦線に立つ彼女特有の薄ら笑いが口元に浮かんでいるのが見える。誠は何度も操縦棹を握りなおした。手袋の中は汗で蒸れている。気が変わり右手で腰の拳銃に手をやる。

『落ち着けよ少しは』 

 そう言って笑うかなめに誠もただ苦笑する。

『レーダーに反応!9時の方向より飛行物体2!信号は東和陸軍です!……いいえ!一機増えました!』 

 パーラの鋭い声。誠のモニターに今度はパイロットのヘルメット姿のランが映った。

「跳んだのか……凄い……」

 突然ランの05式がレーダーに現れて89式の背後を進んでくる。

『待たせたな!どこの機体だろうがオメー等は落させねえよ!そのまま予定通り侵攻しろ!』 

 ランの言葉に合わせるようにして輸送機が降下を始める。

「本当に……跳んだんだ……」

 ランの深紅の機体がモニターにアップされるのを見ながら誠はそうつぶやいた。

『法術様々なんだよ……姐御の機体に法術装備を付けた結果だ……なんでも身体強化の延長とかで機体性能も上がるんだそうな……便利なもんだなあ』

 そう言ってくるかなめだが、誠にはまだ理解ができなかった。

『おう、神前……オメーにいつまでも頼ってらんねーかんな……距離の概念のねー遼州人の必殺技だ』

「へ?そんなことができるんですか?」

 誠は狐につままれたような顔でそう答えた。

『テメエの『剣』で戦艦のブリッジ潰しときながらよく言うわ……姐御も色々できるんだわ……でしょ?ランの姐御』

 笑いかけるかなめにランは得意げにうなづく。

『雑談はそれくらいにしてハッチ開きます!』 

 それまで三体のアサルト・モジュールを眺めていた技術部員達が隣の加圧区画に消えていく。

『カウント!テン!ナイン!エイト!……』 

 パーラのカウントが始まるとカウラのヘルメットの中の顔が緊張して引き締まって見える。誠はその姿に目を奪われた。

『射出!』 

『アルファー・ワン!カウラ・ベルガー、出る!』 

 誠の機体がカウラの一号機のロックが外れた反動で大きく揺れる。そして一号機をロックしていた機器が移動して誠の機体が射出ブロックに押し込まれる。誠は自分の05式乙型が装備している長い非破壊広域制圧砲を眺めた。

『大丈夫だって。そいつを入れての飛行制御システムは完璧なんだ。自信を持てよ』 

 そんなかなめの言葉を背に受けた誠は黙って操縦棹を握りなおした。

『カウント!テン!……』 

『私は信じているから』 

 パーラのカウントの声にかぶせるようにアメリアの一言が聞こえた。誠は呼吸が早くなるのを感じる。手のひらだけでなく背中にも汗が染みてきていた。

『ツー!ワン!ゼロ!』 

「神前誠!アルファー・スリー!出ます!」 

 パーラのカウントに合わせて誠が叫ぶ。

 がくんと何かが外れるような音がした後、レールをすべるようにして05式乙型は輸送機から空中へと放り出された。シートに固定されていた体に浮遊感のような感覚が走った後、すぐさま重力がのしかかるがそれも一瞬のことで、すぐに重力制御の利いたいつものコックピットの状態になりゆっくりと全身の血流が日常の値へと戻っていくのが体感できた。誠はそのまま機体の平行を保ちつつ、予定ルートへと反重力エンジンを吹かす。

 かなめの言ったとおり、長くて重い法術兵器を抱えていると言うのに誠の乙式はいつもと同じようなバランスで降下していくカウラ機のルートをなぞって誠の機体は高度を落して行くことができた。

 誠の機体の高度は予定通りの軌道を描いて降下を続けていた。そこに突然未確認の飛行戦車から通信が入る。

『侵攻中の東和陸軍機及び降下中のアサルト・モジュールパイロットに告げる!貴君等の行動は央都条約及び東和航空安全協定に違反した空域を飛行している。速やかに本機の誘導に……何をする!』 

 イントネーションの不自然な日本語での通信が入る。誠は目の前を掠めて飛ぶ機体に驚いて崩したバランスを立て直す。ヨーロッパの輸出用飛行戦車『ジェローニモ』。空戦を得意とする車体である。西モスレムの国籍章を付けた隊長車らしい車体が輸送機に取り付こうとしてランの赤い機体に振り払われた。

『邪魔はさせねーよ!菰田、そのまま作戦継続だ!』 

 ランの叫び声にモニターの中のパーラが指揮を取るアメリアを見上げていた。

『作戦継続!かなめ、アンタのタイミングでロックを外すわよ』 

『任せとけって……3、2、1、行け!』 

 かなめの叫び声が響くが、誠にはそれどころではなかった。一機のジェロニーモが誠の進行方向に立ちはだかっていた。手にした法術兵器が作戦の鍵を握っている以上、誠は反撃ができない。それ以前に相手はバルキスタン紛争に関心と利権を深く持っている同盟加盟国の西モスレム正規軍である。

『空は任せろよ!レッドヘッド・ツー、スリー、各機ははアルファー・スリーの護衛に回れ!あれが墜ちればすべてはおじゃんだ!』 

 誠はひたすらロックオンを狙うジェロニーモから逃げ惑う。手にしている馬鹿長い砲を投げ捨てて格闘戦を挑めば万が一にも負けることの無いほどのパワーの差があるのが分かっているだけに、誠はいらだちながら逃げ回る。

 そこに敵にロックオンされたと言う警告音が響く。誠が目を閉じる。

 ランの部下の機動性が売りのアサルト・モジュール89式が目の前のジェローニモに体当たりをしていた。バランスを崩して落下するジェローニモが誠の目に映った。

「ありがとうございます!」 

『仕事だ、気にするな。アタシのレーダーでは他にあと四機迎撃機があがりやがった。しかも東和陸軍のコードをつかってやがる……東和陸軍はバルキスタンに軍を派遣していないから国籍詐称のテロリスト扱いってことでこっちは落とせるな。これからは輸送機の護衛任務に専念するからあとはカウラ、何とかしろ』 

 その通信が切れると誠の機体のレーダーには取り付いていた三機のジェローニモがランの部隊の威嚇で誠達から距離を置いたと言う映像が浮かんでいた。

『対空砲火、来るぞ』 

 ジェローニモから逃れるために回避行動を取っていた誠の機体に追いついてきていたかなめの2番機が手にしたライフルで地上を狙う。すでに高度は千メートルを切っていた。誠の機体のレーダーには今回の標的である反政府軍の30両を超える飛行車両の存在が写っている。

 誠の機体をすり抜けるようにかなめの230mmロングレンジレールガンが火を噴いた。現在基地のレーダーは使用不能ということもあり機体の光学照準器の扱いに慣れていないのか、まったく無抵抗に敵の飛行戦車は撃破された。

『あまり派手に動くな!あくまで目標地点への到達が主任務なんだからな』 

 カウラはすでに禿山の続くバルキスタン中部にふさわしい渓谷の合間に機体を降下させていた。

『でもまあ駄賃くらいは……』 

 かなめはそう言うとライフルを腕のロックに引っ掛けると残り一両の飛行戦車にサーベルを抜いて突撃する。反政府軍の明らかに錬度の低いパイロットは何もできずに砲身にサーベルが突き立つまでただ浮いていただけだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...