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第11章 奇妙な休日
デート
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「隊長は今頃何を食べてるんですかね……隊長は高位のお公家さんだから……懐石料理とか?」
ハンバーガーチェーン店で誠とアメリアはハンバーガーを食べていた。とりあえず豊川の中心部から少し離れた沼沿いのこの店の駐車場に車を止めて二人で今日することを話し合うためにこうして軽い昼飯を取ることにした。
「しかし、私達だとどうしてこう言う食事しかひらめかないのかしら」
そう言ってアメリアはポテトをつまむ。
日ごろから給料をほとんど趣味のために使っている二人が、おいしいおしゃれな店を知っているわけも無い。それ以前に食事に金をかけると言う習慣そのものが二人には無かった。
「で、釣り部なら喜ぶんじゃないの?印藤沼があるし。私は釣りは興味ないから」
「あの、それじゃあ何のためのデートか分からないじゃないですか」
アメリアの言葉に呆れて言葉を返す誠だが、その中の『デート』と言う言葉にアメリアはにやりと笑った。
「デートなんだ、これ」
そう言ってアメリアは目の前のハンバーガーを手に持った。誠は耳が熱くなるのを感じながらうつむく。
「じゃあこれはさっき誠ちゃんが払ったハンバーガーの代金は奢りと言うことで」
「あの、いや……その……あの……」
誠は自分の口にした言葉に戸惑った。給料日までまだ一週間あった。その間にいくつかプラモデルとフィギュアの発売日があり、何点か予約も済ませてあるので予想外の出費は避けたいところだった。
「冗談よ。今日は私が奢ってあげる」
アメリアは涼しげな笑みを浮かべると手にしたハンバーガーを口にした。
「良いんですか?確か今月出る落語の動画を揃えるって……」
「誠ちゃん。そこはね、嘘でも『僕が払いますから!』とか言って見せるのが男の甲斐性でしょ?」
明らかに揶揄われている。誠はアメリアにそう言われてへこんだ。
「でもそこがかわいいんだけど」
「なんですか?」
「別に何でもないわよ」
小声でアメリアが言った言葉を誠は聞き取れなかった。
「それにしてもこれからどうするの?汚染度東和一の沼のほとりを散策とかは興味ないわよ私」
つい出てしまった本音をごまかすようにアメリアはまくし立てる。
「やっぱり映画とか……」
誠はそう言うが、二人の趣味に合うような映画はこの秋には公開されないことくらいは分かっていた。
「そうだ、ゲーセン行きましょうよ、ゲーセン」
どうせ良い案が誠から引き出せないことを知っているアメリアは、そう言うとハンバーガーの最後の一口を口の中に放り込んだ。
「ゲーセンですか……そう言えば最近UFOキャッチャーしかしていないような気が……得意ですけど」
「じゃあ決まりね」
そう言うとアメリアはジュースの最後の一口を飲み干した。誠もトレーの上の紙を丸めてアメリアの食べ終わった紙の食器をまとめていく。
「気が利くじゃない誠ちゃん」
そう言うとアメリアと誠は立ち上がった。トレーを駆け寄ってきた店員に渡すと二人はそのまま店を出ることにした。
「ちょっと寒いわね」
アメリアの言葉に誠も笑顔でうなづいた。吹き続ける北風はすでに秋が終わりつつあることを知らせていた。高速道路の白い線の向こう側には黄色く染まった山並みが見える。
「水質が悪いと言っても……綺麗よね……意外と」
そう言いながらアメリアは誠に続いてパーラから借りた車に乗り込んだ。
「じゃあ、とりあえず豊川市街に戻りましょう」
アメリアの言葉に押されるように誠はそのまま車を発進させる。親子連れが目の前を横切る。歩道には大声で雑談を続けるジャージ姿で自転車をこぐ中学生達が群れている。
「はい、左はOK!」
そんなアメリアはそう言ってアクセルを踏んで右折した。
平日である。周りには田園風景。道の両側には大根とにんじんの葉っぱが一面に広がっている。豊川駅に向かう都道を走るのは産業廃棄物を積んだ大型トラックばかりだった。
「そう言えばゲーセンて?」
誠はそう言うと隣のアメリアを見つめた。
紺色の長い髪が透き通るように白いアメリアの細い顔を飾っている。切れ長の眼とその上にある細く整えられた眉。彼女がかなりずぼらであることは誠も知っていたが、もって生まれた美しい姿の彼女に誠は心が動いた。人の手で創られた存在である彼女は、そのつくり手に美しいものとして作られたのかもしれない。そんなことを考えていたら、急に誠は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
「ああ、豊川駅南口のすずらん通りに大きいゲーセンあったわよね?」
アメリアがしばらく考え事をしていた結果がこれだった。それでこそアメリアだと思いながら誠は一人うなづいた。パーラの四輪駆動車は緩やかに加速をしながら街の中心部に向かった。
「南口ってことはマルヨですか?」
「ああ、夏に水着買ったの思い出したわ。そう、マルヨの駐車場に停めてから行きましょう」
誠はアメリアの言葉に夏の海への小旅行を思い出していた。
『あの時は西園寺さんがのりのりだったんだよな……』
そう思い返す。そして今日二人を送り出したときのかなめの顔を思い出した。
しかし他の女性のことを考えた罪悪感から誠は現実に引き戻される。窓から外を見れば周りには住宅が立ち並び、畑は姿を消していた。車も小型の乗用車が多いのは買い物に出かける主婦達の活動時間に入ったからなのだろう。
「かなめちゃん怒っているわよね」
「え、アメリアさんも西園寺さんのこと……」
そう言いかけてアメリアは急に誠に向き直った。眉をひそめて切れ長の目をさらに細めて誠をにらみつけてくる。
「も?今、私達はデート中なの。他の女の話はしないでよね」
自分で話を振っておきながらアメリアはそう言うと気が済んだというようににっこりと微笑む。その笑顔が珍しく作為を感じないものに見えて誠は素直に笑い返すことができた。
買い物に走る車達は中心部手前の郊外型の安売り店に吸い込まれていった。さらに駅に近づいていく誠達の車の周りを走るのはタクシーやバス、それに営業用の車と思われるものばかりになった。
そのままアメリアはハンドルを切ってマルヨの立体駐車場に車を入れる。
「結構空いてるわね」
アメリアがそうつぶやくのも当然で、いつもは一杯の一階の入り口近くの駐車スペースにも車はちらほらと停められているだけだった。
「時間が時間ですから」
誠がそう答えると、アメリアはそのまま空いている場所に車を頭から入れる。
「バックで入れた方がいいんじゃないですか?」
「いいのよ。めんどくさい」
そう言いながらアメリアはシートベルトをはずして振り向く。
「でもここに来るの久しぶりじゃないの?」
「ああ、この前カウラさんと……」
そこまで言いかけて助手席から降りて車の天井越しに見つめてくる澄んだアメリアの表情に気づいて誠は言葉を飲み込んだ。
「ああ……じゃあ行きましょう!」
誠は苦し紛れにそう言うとマルヨの売り場に向かう通路を急いだ。アメリアは急に黙り込んで誠の後ろに続く。
「ねえ」
目の前の電化製品売り場に入るとアメリアが誠に声をかけた。恐る恐る誠は振り向いた。
「腕ぐらい組まないの?」
そんなアメリアの声にどこと無く甘えるような響きを聞いた誠だが、周りの店員達の視線が気になってただ呆然と立ち尽くしていた。
「もう!いいわよ!」
そう言うとアメリアは強引に誠の左手に絡み付いてきた。明らかにその様子に嫉妬を感じていると言うように店員が一斉に目をそらす。アメリアの格好は派手ではなかったが、人造人間らしい整った面差しは垢抜けない紺色のコートを差し引いてあまる魅力をたたえていた。
「ほら、行きましょうよ!」
そう言ってアメリアはエスカレーターへと誠を引っ張っていく。そのまま一階に降り、名の知れたクレープ店の前のテーブルを囲んで、つれてきた子供が走り回るのを放置して雑談に集中していた主婦達の攻撃的な視線を受けながら誠達はマルヨを後にした。
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「しかし、私達だとどうしてこう言う食事しかひらめかないのかしら」
そう言ってアメリアはポテトをつまむ。
日ごろから給料をほとんど趣味のために使っている二人が、おいしいおしゃれな店を知っているわけも無い。それ以前に食事に金をかけると言う習慣そのものが二人には無かった。
「で、釣り部なら喜ぶんじゃないの?印藤沼があるし。私は釣りは興味ないから」
「あの、それじゃあ何のためのデートか分からないじゃないですか」
アメリアの言葉に呆れて言葉を返す誠だが、その中の『デート』と言う言葉にアメリアはにやりと笑った。
「デートなんだ、これ」
そう言ってアメリアは目の前のハンバーガーを手に持った。誠は耳が熱くなるのを感じながらうつむく。
「じゃあこれはさっき誠ちゃんが払ったハンバーガーの代金は奢りと言うことで」
「あの、いや……その……あの……」
誠は自分の口にした言葉に戸惑った。給料日までまだ一週間あった。その間にいくつかプラモデルとフィギュアの発売日があり、何点か予約も済ませてあるので予想外の出費は避けたいところだった。
「冗談よ。今日は私が奢ってあげる」
アメリアは涼しげな笑みを浮かべると手にしたハンバーガーを口にした。
「良いんですか?確か今月出る落語の動画を揃えるって……」
「誠ちゃん。そこはね、嘘でも『僕が払いますから!』とか言って見せるのが男の甲斐性でしょ?」
明らかに揶揄われている。誠はアメリアにそう言われてへこんだ。
「でもそこがかわいいんだけど」
「なんですか?」
「別に何でもないわよ」
小声でアメリアが言った言葉を誠は聞き取れなかった。
「それにしてもこれからどうするの?汚染度東和一の沼のほとりを散策とかは興味ないわよ私」
つい出てしまった本音をごまかすようにアメリアはまくし立てる。
「やっぱり映画とか……」
誠はそう言うが、二人の趣味に合うような映画はこの秋には公開されないことくらいは分かっていた。
「そうだ、ゲーセン行きましょうよ、ゲーセン」
どうせ良い案が誠から引き出せないことを知っているアメリアは、そう言うとハンバーガーの最後の一口を口の中に放り込んだ。
「ゲーセンですか……そう言えば最近UFOキャッチャーしかしていないような気が……得意ですけど」
「じゃあ決まりね」
そう言うとアメリアはジュースの最後の一口を飲み干した。誠もトレーの上の紙を丸めてアメリアの食べ終わった紙の食器をまとめていく。
「気が利くじゃない誠ちゃん」
そう言うとアメリアと誠は立ち上がった。トレーを駆け寄ってきた店員に渡すと二人はそのまま店を出ることにした。
「ちょっと寒いわね」
アメリアの言葉に誠も笑顔でうなづいた。吹き続ける北風はすでに秋が終わりつつあることを知らせていた。高速道路の白い線の向こう側には黄色く染まった山並みが見える。
「水質が悪いと言っても……綺麗よね……意外と」
そう言いながらアメリアは誠に続いてパーラから借りた車に乗り込んだ。
「じゃあ、とりあえず豊川市街に戻りましょう」
アメリアの言葉に押されるように誠はそのまま車を発進させる。親子連れが目の前を横切る。歩道には大声で雑談を続けるジャージ姿で自転車をこぐ中学生達が群れている。
「はい、左はOK!」
そんなアメリアはそう言ってアクセルを踏んで右折した。
平日である。周りには田園風景。道の両側には大根とにんじんの葉っぱが一面に広がっている。豊川駅に向かう都道を走るのは産業廃棄物を積んだ大型トラックばかりだった。
「そう言えばゲーセンて?」
誠はそう言うと隣のアメリアを見つめた。
紺色の長い髪が透き通るように白いアメリアの細い顔を飾っている。切れ長の眼とその上にある細く整えられた眉。彼女がかなりずぼらであることは誠も知っていたが、もって生まれた美しい姿の彼女に誠は心が動いた。人の手で創られた存在である彼女は、そのつくり手に美しいものとして作られたのかもしれない。そんなことを考えていたら、急に誠は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
「ああ、豊川駅南口のすずらん通りに大きいゲーセンあったわよね?」
アメリアがしばらく考え事をしていた結果がこれだった。それでこそアメリアだと思いながら誠は一人うなづいた。パーラの四輪駆動車は緩やかに加速をしながら街の中心部に向かった。
「南口ってことはマルヨですか?」
「ああ、夏に水着買ったの思い出したわ。そう、マルヨの駐車場に停めてから行きましょう」
誠はアメリアの言葉に夏の海への小旅行を思い出していた。
『あの時は西園寺さんがのりのりだったんだよな……』
そう思い返す。そして今日二人を送り出したときのかなめの顔を思い出した。
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「かなめちゃん怒っているわよね」
「え、アメリアさんも西園寺さんのこと……」
そう言いかけてアメリアは急に誠に向き直った。眉をひそめて切れ長の目をさらに細めて誠をにらみつけてくる。
「も?今、私達はデート中なの。他の女の話はしないでよね」
自分で話を振っておきながらアメリアはそう言うと気が済んだというようににっこりと微笑む。その笑顔が珍しく作為を感じないものに見えて誠は素直に笑い返すことができた。
買い物に走る車達は中心部手前の郊外型の安売り店に吸い込まれていった。さらに駅に近づいていく誠達の車の周りを走るのはタクシーやバス、それに営業用の車と思われるものばかりになった。
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「ああ……じゃあ行きましょう!」
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「ねえ」
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