1,181 / 1,473
第14章 地球からの監視者
少年の目
しおりを挟む
アメリカと東和共和国には国交は無かったが、アメリカ政府は東和に連絡事務所を置いていた。
そのアメリカの東和事務所ナンバーのアメリカ製高級乗用車が停められていた。薄汚れた住宅街の中でその車は一際、目立っている。アメリカ事務局陸軍三等武官はあくびをしながら目の前のすすけた遼州同盟司法局下士官寮を眺めていた。
「おじさん!」
不意に窓を叩く野球帽を被った少年を見つけて、彼のあくびも止まった。
「クリタ中尉じゃないですか、脅かさないでくださいよ」
運転席の窓を開けて、少年を見た。10歳にも満たないクリタと呼ばれた少年は手にしていたコンビニの袋からアイスクリームを取り出した。
「どうだい、様子は」
いたずらっ子の視線と言うものはこう言うものだ。武官はバニラアイスのふたを開けながら少年を見つめていた。
「いつもと変わりはありませんよ。昼ですから食事でもしてるんじゃないですか?」
投げやりにそう答えた。少年は玄関を見つめる。虎縞の猫が門柱の影で退屈そうに周りを見回している。
「クリタ中尉。あなたが来るほどのことは無いと思いますが」
「そうでもないさ。一度はマコト・シンゼンに挨拶するのが礼儀と言うものだろ?いずれ手合わせをすることになるかもしれないんだから」
クリタと呼ばれた少年は手にしていたチョコレートバーの雫を舐め取りながら少年らしいあどけない笑みを浮かべた。
「物騒な話ですねそれは。それに会いたいなら明日の出勤時刻にでもここにいれば必ず見れますよ」
助手席に座っている情報担当事務官がそう言いながら手にしたチョコレートバーを舐め続けている。
「まあ、急ぐ必要は無いさ。それに今のところ彼等は合衆国の目の届く範囲内にいる。もし動きがあるとすれば『廃帝』が動き出してからだろうね」
『廃帝』と言う言葉を聴いて、三等武官は眉をひそめた。
「言いたいことはわかるよ。おととい早速奴等はマコト・シンゼンに連中の使い手が襲撃をかけたと言う話じゃないか。しかし、あれは挨拶位のものなんじゃないかな。これまでの『廃帝』の動きは君が予想しているよりもかなり広範囲にわたっている」
クリタ少年はそう言うと棒についたアイスをかじり始める。
「しかし、本当に存在するのですか?『廃帝』は……私に言わせると……存在自体があり得ない……アメージングだ」
おどけて見せる三等武官にクリタ少年は微笑みを返した。
「そうでなければ嵯峨と言う男は『法術』の存在の公表と言うジョーカーを切る必要は無かっただろうね……そもそも法術師の存在自体が現代科学ではありえない話なんだから仕方ないね……ただ『力』が有る。それ以上のことは言えないね僕からは」
言っていることは物騒な武装組織の話だというのにその表情は子供だ。三等武官は思った。状況を楽しんでいる。まるでゲームじゃないか。そんな言葉が難解も頭をよぎる。
「何でそうまで言いきれるのですか?」
三等武官の言葉に野球帽の唾をあげて少年は答えた。
「それは僕が嵯峨惟基と同じ存在だからさ」
そう言うと、少年はそのまま三等武官の乗る車から離れた。
「同じ存在?」
「そうだよ同じ存在……遺伝情報から幼少時の記憶に至るまで同じ存在さ……まあそんな存在が二つ存在する理由は聞かないほうが賢明かな……僕もあまり言いたい気分じゃないんだ……察してくれよ」
三等武官の言葉に少年は冷たい視線とともにそう答えた。
『まるで『禅』問答じゃないか』
少年のしぐさと言っていることの乖離を考えてみると三等武官にはそう思えてきた。
「それにしてもこの暑いのに張込みは僕には疲れるよ。とりあえず変化があったら連絡してくれ」
悠然と立ち去る少年の後ろ姿に畏怖の念を抱きながら、三等武官はその視線を下士官寮へと移した。
「マコト・シンゼン……ことの始まりか……『廃帝』の野心に地球を巻き込むのはやめてくれると助かるんだが……」
三等武官は先ほどの少年の冷たい視線を思い出して背筋を凍らせながら何も起きることの無いであろう経年劣化の目立つ寮をただ眺めていた。
そのアメリカの東和事務所ナンバーのアメリカ製高級乗用車が停められていた。薄汚れた住宅街の中でその車は一際、目立っている。アメリカ事務局陸軍三等武官はあくびをしながら目の前のすすけた遼州同盟司法局下士官寮を眺めていた。
「おじさん!」
不意に窓を叩く野球帽を被った少年を見つけて、彼のあくびも止まった。
「クリタ中尉じゃないですか、脅かさないでくださいよ」
運転席の窓を開けて、少年を見た。10歳にも満たないクリタと呼ばれた少年は手にしていたコンビニの袋からアイスクリームを取り出した。
「どうだい、様子は」
いたずらっ子の視線と言うものはこう言うものだ。武官はバニラアイスのふたを開けながら少年を見つめていた。
「いつもと変わりはありませんよ。昼ですから食事でもしてるんじゃないですか?」
投げやりにそう答えた。少年は玄関を見つめる。虎縞の猫が門柱の影で退屈そうに周りを見回している。
「クリタ中尉。あなたが来るほどのことは無いと思いますが」
「そうでもないさ。一度はマコト・シンゼンに挨拶するのが礼儀と言うものだろ?いずれ手合わせをすることになるかもしれないんだから」
クリタと呼ばれた少年は手にしていたチョコレートバーの雫を舐め取りながら少年らしいあどけない笑みを浮かべた。
「物騒な話ですねそれは。それに会いたいなら明日の出勤時刻にでもここにいれば必ず見れますよ」
助手席に座っている情報担当事務官がそう言いながら手にしたチョコレートバーを舐め続けている。
「まあ、急ぐ必要は無いさ。それに今のところ彼等は合衆国の目の届く範囲内にいる。もし動きがあるとすれば『廃帝』が動き出してからだろうね」
『廃帝』と言う言葉を聴いて、三等武官は眉をひそめた。
「言いたいことはわかるよ。おととい早速奴等はマコト・シンゼンに連中の使い手が襲撃をかけたと言う話じゃないか。しかし、あれは挨拶位のものなんじゃないかな。これまでの『廃帝』の動きは君が予想しているよりもかなり広範囲にわたっている」
クリタ少年はそう言うと棒についたアイスをかじり始める。
「しかし、本当に存在するのですか?『廃帝』は……私に言わせると……存在自体があり得ない……アメージングだ」
おどけて見せる三等武官にクリタ少年は微笑みを返した。
「そうでなければ嵯峨と言う男は『法術』の存在の公表と言うジョーカーを切る必要は無かっただろうね……そもそも法術師の存在自体が現代科学ではありえない話なんだから仕方ないね……ただ『力』が有る。それ以上のことは言えないね僕からは」
言っていることは物騒な武装組織の話だというのにその表情は子供だ。三等武官は思った。状況を楽しんでいる。まるでゲームじゃないか。そんな言葉が難解も頭をよぎる。
「何でそうまで言いきれるのですか?」
三等武官の言葉に野球帽の唾をあげて少年は答えた。
「それは僕が嵯峨惟基と同じ存在だからさ」
そう言うと、少年はそのまま三等武官の乗る車から離れた。
「同じ存在?」
「そうだよ同じ存在……遺伝情報から幼少時の記憶に至るまで同じ存在さ……まあそんな存在が二つ存在する理由は聞かないほうが賢明かな……僕もあまり言いたい気分じゃないんだ……察してくれよ」
三等武官の言葉に少年は冷たい視線とともにそう答えた。
『まるで『禅』問答じゃないか』
少年のしぐさと言っていることの乖離を考えてみると三等武官にはそう思えてきた。
「それにしてもこの暑いのに張込みは僕には疲れるよ。とりあえず変化があったら連絡してくれ」
悠然と立ち去る少年の後ろ姿に畏怖の念を抱きながら、三等武官はその視線を下士官寮へと移した。
「マコト・シンゼン……ことの始まりか……『廃帝』の野心に地球を巻き込むのはやめてくれると助かるんだが……」
三等武官は先ほどの少年の冷たい視線を思い出して背筋を凍らせながら何も起きることの無いであろう経年劣化の目立つ寮をただ眺めていた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる