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第8章 海と特殊な部隊

危険な『仲間』

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「しかし暑いですよねえ……」 

「他に言うことねえのかよ?それより気をつけろよ」 

 少しうつむき加減にかなめがサングラスをはずす。真剣なときの彼女らしい鉛のような瞳がそこにあった。

「今日のアンとか言う少年兵だ。ベルルカンの少年兵上りとなると結構扱いが微妙だぞ」 

 誠は残ったビールを一気に流し込むようにして飲むと、缶をゴミ箱に捨てた。

「でも……おとなしそうないい子じゃないですか」 

「見た目はそうだな。でも民兵に軍の規律は通用しねえ……自分が生き残るためには何をするかわからねえ連中だ……『仲間』だと思ってると痛い目見るぞ。東都戦争じゃそれで痛い目見たことがあるからな……」 

 それだけ言うと、かなめは再びサングラスをかけた。

「まあそれぐらいにして……今日は仕事の話は止めようや。とっとと付いて来いよ!」 

 そう言うと軽々と二箱のビールを抱えて、早足でかなめは歩き始めた。

「んだ。暑いなあ。やっぱ島田辺りに押しつけりゃ良かったかな」 

 焼けたアスファルトを歩きながらかなめは独り言を繰り返す。海からの風もさすがに慣れてしまえばコンビニの空調の効いた世界とは別のものだった。代謝機能が人間のそれとあまり差の無い型の義体を使用しているかなめも暑さに参っているように見えた。

「やっぱり僕が持ちましょうか?」 

 気を利かせた誠だがかなめは首を横に振る。

「言い出したのはアタシだ、もうすぐだから持ってくよ」 

 重さよりも汗を拭えないことが誠にとっては苦痛だった。容赦なく額を流れる汗は目に入り込み、視界をぼやけさせる。

「ちょっと休憩」 

 かなめがそう言って抱えていたビールの箱を置いた。付き従うようにその横に箱を置いた誠はズボンからハンカチを取り出して汗を拭うが、あっという間にハンカチは絞れるほどに汗を吸い取った。

「遅いよ!二人とも!」

 休んでいたところに現れたのはピンク色のワンピースの水着姿のひよこと意外に際どい紫色のビキニを着たパーラだった。

「迎えに来たんだ……ちょうどいいや。おいパーラにひよこ。それ持っていけ。アタシも着替えるわ」 

 そう言うとかなめはそのまま三人を置いて歩き出す。ビールの缶が入ったダンボールが三箱。それを見つめた後去っていくかなめにひよこは目を向ける。

「そんなの聞いてないわよ!」 

 パーラは絶望したように叫ぶが、かなめは軽く手を振って振り向くことも無く歩いていく。

「僕が二つ持ちますから、あと一箱は……」 

「いいのよ神前君。あなたも着替えてらっしゃいよ」 

 パーラのその言葉に誠は荷物のある先ほどの恥ずかしいのぼりのあるところに向かって歩き出した。

 誠が堤防の階段を登るとそこでは、島田と菰田が怒鳴りあっている光景が目に飛び込んできた。

「うるせえ!魔法使い!そんなだから彼女も出来ねえんだよ!」 

 島田が菰田にタンカを吐き捨てた。

「馬鹿野郎!俺はまだ30超えてねえんだ!」 

「あと4年だろ?」 

 島田が優勢に口げんかを続ける。二人が犬猿の仲だと分かっている部隊員達は静かに動静を見守っている。

「誠君。はい、このバッグでしょ?」 

 笑いながら小夏の母、家村春子が誠にバッグを手渡した。

「大丈夫ですか?あの二人」 

 誠はやんやと煽り立てる隊員達を見守っているただ一人冷静そうな春子に尋ねた。

「大丈夫よ。二人とも手を出したらかなめさんにしめられるの分かってるから。どうせ口だけよ」

「だと良いんですけどね……」 

 春子は落ち着いていた。その落ち着きぶりに感心しながら誠はバッグを抱えて近くにあった海の家へと歩き始めた。
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