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特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第二部 『新たなる敵影』 第1章 事の起こりは

『近藤事件』の顛末と誠の地位

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 先月、配属になったばかりの誠はすぐに実戦を経験することになった。

 遼州星系第四惑星を領有する国家、『甲武国』の貴族主義者の過激派、近藤貴久中佐によるクーデター未遂事件。遼州同盟司法局実働部隊隊は奇襲作戦を仕掛け、数に勝る決起軍を撃破した。

 誠の中に眠る『法術』を使用しての一撃必殺の剣。それが鎮圧部隊である誠達を叩いて貴族主義者の同調しての決起を狙っていた近藤中佐の狙いを叩き潰した。

 誠はその作戦中の緊張感を思い出しながら誠はカウラの横顔を眺めた。

 気丈な性格、それでいてどこかはかなげで、目を離せばどこかへ消えてしまいそうな印象のあるカウラとの約束。思い出すと恥ずかしくて身もだえてしまうような気分になる。

 満足げに誠の隣まで歩み寄ってきたアメリアの姿を見ると、机の上で書類の束にハンコを押していた小学校低学年にしか見えない実働部隊副長、クバルカ・ラン中佐はそのまま立ち上がった。

 そんなランを無視してアメリアは話を続けた。

「実はね、これは先週のゲリラライブの慰労会も兼ねてるわけよ。あの時の誠ちゃんが描いた『萌え萌えビラ』が大好評で……そっち系のオタク達がひそかに私達の情報を拡散してくれているのよ……まあ、ネタが下品すぎて放送禁止だっていう意見が大半だけど」 

「海か?行ってこいや。どうせ9月まで海水浴場やってんだから」 

 ランがいつも通り隣に置かれた将棋盤から目を離さずにそう言うと、アメリアは大きくうなづいて周りを見回した。

「じゃあ、機動部隊は全員参加でいいわね!」 

 そう言うとアメリアは機動部隊詰め所を後にしようとした。

「ああ、アタシはパス!仕事だかんな!」

 ランが軽く手を挙げながらつぶやく。

「えー!ランちゃんいないの?」

 いかにも残念そうなアメリアの叫びが部屋に響く。

「機動部隊長は大変なんだよ、いろいろと。まあ楽しんで来いや」

 ランは腕組みしながら満面の笑みでつぶやく。

「仕事なら仕方ないわね。機動部隊は一名欠員……っと」

 アメリアはそう言って手元のメモ帳に印をつけた。そんな彼女の背後から小柄なカーリーヘアーの女子隊員が入ってきた。部隊専任看護師の神前しんぜんひよこだった。

 いつものように軽い足取りでアメリアに近づいてくる。

「クラウゼ少佐。技術部の参加希望者決まりましたけど」 

 アメリアは彼女の手からすぐにその手帳を受取ると少しがっかりしたようにため息をついた。

「ふうん、ずいぶんとまあ……参加人数少ないのね。つまんないの」

「クラゲを舐めてるからだ、クラゲを」

 ため息をつくアメリアをかなめが冷やかしながら視線を誠に向ける。

「おめえはアタシの『下僕』だから、強制参加な」

「はい……」

 かなめの言葉からすれば新入りの誠に拒否権は無いので、そう言うしかなかった。しかし、『特殊』な上司とは言え美人が多い実働部隊なので誠はごく自然と嬉しそうな顔をすることができた。 

「それより隊長は行かないのか?って言うまでもないか」 

 アメリアの手にある参加者名簿に目をやりながらカウラはそう言った。

 この『特殊な部隊』の主である、部隊長・嵯峨惟基特務大佐。一見、25歳すぎに見えるが実は46歳の中年『駄目人間』がこんなめんどくさいイベントに出るわけがないことは、入隊後半月余りの誠にもよくわかった。

「隊長ですか?何でも第二小隊の増設の打ち合わせで手が離せないとかで……まあ、あの人は小遣い3万円だから参加費自体払えないでしょうけどね」 

 ひよこはカウラに苦笑いを浮かべながらそう言った。

「それじゃあ……サラ!小夏ちゃんに連絡した?」

 アメリアは名簿を手を伸ばしてきたかなめに手渡した。

「うん!ちゃんと予定空けてもらってるわよ!」 

 ピンクのセミロングの髪をかき上げながらサラは元気にそう答えた。

「小夏ちゃんもくるんですね」

 誠はそう言って一人手持ち無沙汰にしているパーラに声をかけた。

「そうね……7月の軟式野球部の合宿にも来てたしね」

 彼女の言葉でいかにこの『特殊な部隊』が、年中イベントだけをやっている暇人の集団であるかが誠にも分かった。

 そして実働部隊の夜の拠点となっている焼鳥屋『月島屋』の看板娘、家村小夏と女将の家村春子の二人もこういうイベントには欠かせない存在なんだと誠はこの会話から理解することができた。

「これで、小夏ちゃんと春子さんが来て……バスは一台で済みそうだけど……」

 アメリアはそう言いながら誠を見つめる。

 全員の視線が誠に向いていた。

 誠はひどい乗り物酔いをする癖があった。戦闘用人型兵器『アサルト・モジュール』パイロットであるにもかかわらずである。

「例の強い酔い止めを飲めば……大丈夫ですよ……たぶん……」

 明らかにうんざりするような視線を投げてくる全員を見ながら、誠にはそう言うことしかできなかった。
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