1,108 / 1,536
第41章 戦地
死を覚悟した女王様
しおりを挟む
「アタシを狙って来たか……やっと、このふざけた体ともおさらばだな……」
西園寺かなめはモニターの中でミサイル発射管を開いて主砲の砲塔を自分に向けてくる敵艦『那珂』を見ながらそうつぶやいた。
彼女の230ミリロングレンジ狙撃用レールガンは『那珂』のブリッジを捉えていたが、彼女はトリガーを引かなかった。
「三歳の時、爺さんを狙ったテロでこの体になって……いつかこういう日が来るのを待ってたんだ……アタシは」
通信はランや誠、カウラや『ふさ』のブリッジクルーにも伝わっていた。
「人を殺すのはもう飽きたんだ……せっかく面白くなってきた人生だが……仕方がねえや」
かなめはそう言うとヘルメットを脱いで、腰のポーチから愛用のタバコ、『コイーバクラブ』を一本取り出した。
『待ってください!』
突然、新米の神前誠がそう叫んだ。それまでは胃の内容物の逆流に耐えながらヘルメットを抑えたりして気を紛らわせていた気の弱い誠の急変にかなめは少し驚いて葉巻用のガスライターに伸ばした手を止めた。
神前誠の専用機『05式特戦乙型』は最新機と言うことで大出力エンジンを搭載していた。
一気に機体は加速して先行していた機動部隊長、クバルカ・ラン中佐の『紅兎』弱×54を追い抜く。
『僕が囮になります!西園寺さん!今のうちに後退を!』
かなめの機体のコックピットに誠の叫びが響いた。誠のその声にかなめは何故かほっとして肩の力が抜けていくのを感じた。
「おいおい、誰に話してるつもりだ?オムツをつけた新入りに指図されるほど落ちぶれちゃいねえよ。敵さんのミサイルはアタシを狙ってる。アタシの『屠殺』を免れた家畜が二匹ほど伏せてる、そいつはオメエが食え!」
そう言うとかなめはロングレンジライフルを投げ捨てて、自機の重力波の想定位置に向けてキャノン砲を連射している火龍に向け突撃をかけた。火龍のセンサーは自分で撒いたチャフによって機能していないのは明らかだった。
「馬鹿が!いい気になるんじゃねえ!」
目視確認できる距離まで詰める。ようやく気づいた2機の火龍だが、近接戦闘を予定していない駆逐アサルト・モジュールには、ダガーを構え切り込んでくるエースクラスの腕前のかなめを相手にすることなど無理な話だった。
「死に損ないが!とっととくたばんな!」
すばやく手前の機体のコックピットにダガーが突き立つ。もう一機は友軍機の陰に隠れるかなめの機体の動きについていけないでいる。
「悪く思うなよ!恨むなら馬鹿な大将を恨みな!」
機能停止した火龍を投げつけながら、その影に潜んで一気に距離を詰めると、かなめは二機目の火龍のエンジン部分をダガーでえぐった。
かなめは敵機のパイロットが死亡したことによる機能停止を確認するともう一度『那珂』に目をやった。
すでに迎撃ミサイルは発射されていた。そして艦の主砲はかなめ機に砲身を向けて待機している。
「神前!来るな!巻き添えを食らうぞ!」
悲痛な『女王様』の悲しい願いが遼州星系のアステロイドベルトに響き渡った。
『西園寺さん……死なないでください……西園寺さん』
誠は口の中に酸を含んだ液体が湧き上がってくるのも構わずに機体を『那珂』めがけて突入させた。
西園寺かなめはモニターの中でミサイル発射管を開いて主砲の砲塔を自分に向けてくる敵艦『那珂』を見ながらそうつぶやいた。
彼女の230ミリロングレンジ狙撃用レールガンは『那珂』のブリッジを捉えていたが、彼女はトリガーを引かなかった。
「三歳の時、爺さんを狙ったテロでこの体になって……いつかこういう日が来るのを待ってたんだ……アタシは」
通信はランや誠、カウラや『ふさ』のブリッジクルーにも伝わっていた。
「人を殺すのはもう飽きたんだ……せっかく面白くなってきた人生だが……仕方がねえや」
かなめはそう言うとヘルメットを脱いで、腰のポーチから愛用のタバコ、『コイーバクラブ』を一本取り出した。
『待ってください!』
突然、新米の神前誠がそう叫んだ。それまでは胃の内容物の逆流に耐えながらヘルメットを抑えたりして気を紛らわせていた気の弱い誠の急変にかなめは少し驚いて葉巻用のガスライターに伸ばした手を止めた。
神前誠の専用機『05式特戦乙型』は最新機と言うことで大出力エンジンを搭載していた。
一気に機体は加速して先行していた機動部隊長、クバルカ・ラン中佐の『紅兎』弱×54を追い抜く。
『僕が囮になります!西園寺さん!今のうちに後退を!』
かなめの機体のコックピットに誠の叫びが響いた。誠のその声にかなめは何故かほっとして肩の力が抜けていくのを感じた。
「おいおい、誰に話してるつもりだ?オムツをつけた新入りに指図されるほど落ちぶれちゃいねえよ。敵さんのミサイルはアタシを狙ってる。アタシの『屠殺』を免れた家畜が二匹ほど伏せてる、そいつはオメエが食え!」
そう言うとかなめはロングレンジライフルを投げ捨てて、自機の重力波の想定位置に向けてキャノン砲を連射している火龍に向け突撃をかけた。火龍のセンサーは自分で撒いたチャフによって機能していないのは明らかだった。
「馬鹿が!いい気になるんじゃねえ!」
目視確認できる距離まで詰める。ようやく気づいた2機の火龍だが、近接戦闘を予定していない駆逐アサルト・モジュールには、ダガーを構え切り込んでくるエースクラスの腕前のかなめを相手にすることなど無理な話だった。
「死に損ないが!とっととくたばんな!」
すばやく手前の機体のコックピットにダガーが突き立つ。もう一機は友軍機の陰に隠れるかなめの機体の動きについていけないでいる。
「悪く思うなよ!恨むなら馬鹿な大将を恨みな!」
機能停止した火龍を投げつけながら、その影に潜んで一気に距離を詰めると、かなめは二機目の火龍のエンジン部分をダガーでえぐった。
かなめは敵機のパイロットが死亡したことによる機能停止を確認するともう一度『那珂』に目をやった。
すでに迎撃ミサイルは発射されていた。そして艦の主砲はかなめ機に砲身を向けて待機している。
「神前!来るな!巻き添えを食らうぞ!」
悲痛な『女王様』の悲しい願いが遼州星系のアステロイドベルトに響き渡った。
『西園寺さん……死なないでください……西園寺さん』
誠は口の中に酸を含んだ液体が湧き上がってくるのも構わずに機体を『那珂』めがけて突入させた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第五部
遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。
訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。
そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。
同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。
こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。
誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。
四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。
そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。
そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』
橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』
いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。
そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。
予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。
誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。
閑話休題的物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
錬金術師と銀髪の狂戦士
ろんど087
SF
連邦科学局を退所した若き天才科学者タイト。
「錬金術師」の異名をかれが、旅の護衛を依頼した傭兵は可愛らしい銀髪、ナイスバディの少女。
しかし彼女は「銀髪の狂戦士」の異名を持つ腕利きの傭兵……のはずなのだが……。

びるどあっぷ ふり〜と!
高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。
どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。
ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね?
※すでになろうで完結済みの小説です。
世界史嫌いのchronicle(クロニクル)
八島唯
SF
聖リュケイオン女学園。珍しい「世界史科」を設置する全寮制の女子高。不本意にも入学を余儀なくされた主人公宍戸奈穂は、また不本意な役割をこの学園で担うことになる。世界史上の様々な出来事、戦場を仮想的にシミュレートして生徒同士が競う、『アリストテレス』システムを舞台に火花を散らす。しかし、単なる学校の一授業にすぎなかったこのシステムが暴走した結果......
※この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『ノベルアップ+』様にも掲載しております。
※挿絵はAI作成です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる