上 下
1,065 / 1,474
第27章 要は動けば良い

要は動けば良い

しおりを挟む
「来たぞ!」

「何がですか?」

 司法局実働部隊機動部隊詰め所。夕方の西日が厳しい時間帯に、その机でぼんやりとたたずんでいた誠に背後からかなめが声をかけた。

「決まってんだろ?オメエの機体だよ」

「ついに来たか。行くぞ、神前」

 端末に何かを入力していたカウラがかなめの言葉を聞くと素早く立ち上がった。

「僕の機体か……」

 誠も少しワクワクしながら立ち上がりかなめとカウラの後に続いて詰め所を出た。

「でもあれか?ノーズアートとか決めてんのか?」

「ノーズアート?あれですよね、機体に絵を描く奴……エースじゃないとやっちゃいけないんじゃないですか?」

 遠慮がちにそう言う誠の肩をかなめは叩きながら話を続ける。

「はったりだよ……オメエは操縦が下手だから強そうな絵でも描いときゃ相手もビビるだろ?」

「その操縦が下手な神前に格闘戦オンリーだったとして負けたのはどこの誰かな?」

「カウラ!テメエ!」

 誠に向けていた笑顔が急変し、かなめはカウラを怒りの表情でにらみつけた。

「お二人とも……冷静に……」

 なんとか誠が間に入って二人はそれ以上のいさかいをすることはなく、機動兵器『アサルト・モジュール』の置かれている倉庫にたどり着いた。

 そこには大型のトレーラーが待機していた。

 トレーラーの運転席の脇には隣接する菱川重工豊川工場の制服を着た技術者と会話をしている技術部整備班長の島田正人曹長の姿があった。

「島田先輩!」

 誠は菱川重工の技術者との会話を終えた島田に声をかけた。

「おう、神前と……まあ皆さんお揃いで」

 茶髪の白いつなぎを着たヤンキー風の島田がニタニタ笑いながら声をかけてきた。

「機体……どうなんだ?」

「ベルガー大尉。どうもこうも……例の『法術増幅システム』ってのが……ねえ……」

 カウラの言葉に島田は少し不機嫌そうにそうつぶやいた。

「『法術増幅システム』……それなんですか?」

 島田の言葉が理解できずに誠はそうつぶやいた。

「うちで採用している05式は重装甲が売りなんだ。ともかく装甲が厚い。大きく3つの層で構成されたハニカム装甲がレールガンの直撃を防ぐって寸法なんだが……この神前の専用機の『05式特戦乙型』にはその真ん中の層に『理解不能』な素材が使われてんだ」

「『理解不能』な素材って!オメエは技術屋だろうが!そんくらい理解しとけ!」

 いつになく遠回りな言い方をする島田の言葉にキレたかなめがそう叫んだ。

「西園寺さん……そんなこと言われても困りますよ……なにせ、俺の『師匠』に当たる人から『いじんないでね!機能は秘密だから!』って言われちゃいまして……」

 島田はそう言いながら困ったような表情でカウラに目を向けた。

「おそらくクバルカ中佐なら知っているだろうが……」

「教えねえ!」

 つぶやくカウラの背後から声がして全員がそちらに目を向けた。

 そこにはちっちゃなクバルカ・ラン中佐が腕組みをして立っていた。

「中佐……そこを何とかなりませんかね……俺達がいじるんですよ?こいつ。もしその『法術増幅システム』とやらが暴走とかして神前の身に何かあった時にはですね……」

「その心配はねー!それにこいつになんかあった時はアタシが責任を取る!それがアタシの役目だかんな」

 そう明言するとランはそのままちっちゃな体でトレーラーの前に立った。

「こいつは一部の遼州人にとっては『画期的』なシステムを搭載してるんだ。いずれアタシの機体にも同様の装備をする……まあ、予算が付いたらだけど」

「それじゃあいつまでたってもつかないですよ」

 ランの言葉に島田がツッコミを入れた。

「そう言うわけだ。神前!こいつをカウラの機体の隣に立てろ」

「へ?」

 誠はランの言うことがすぐには理解できずに聞き返した。

「このトレーラーは菱川重工豊川の備品なんだよ。レンタル料……うちの予算で出せって言うのか?」

 島田にそう指摘されて誠は仕方なくトレーラー前部の梯子を上り始めた。

「オートでやってもいいぞ……まあ自信が無ければの話だけどな!」

 明らかに挑発気味にかなめはそう言った。

「僕だってパイロットなんですよ」

 自分自身に言い聞かせながら誠はそのまま緑色の自分の05式特戦のコックピットのハッチを開けた。

「へー……やっぱりシミュレーターとおんなじ作りなんだな……僕には狭いかな……」

 そう言いながら誠はコックピットに乗り込む。ちょうど天井を見上げるような形で誠はシートに身をゆだねる。

『立てんぞ!』

 ハッチを閉めると島田の声がコックピットに響いた。

「大丈夫です!行けますよ!」

 誠はそう言いながら主電源を入れてシステムを起動させた。

「なるほど……エンジンは位相転移式か……まあ歩かせる程度なら蓄電池とモーターでなんとかなりそうだな」

 一応は理系大学出身なので起動と同時に全天周囲モニターに浮かび上がる文字を見れば誠にもそのくらいのことは分かった。

 そうこうするうちに次第に機体の角度が変わり始めた。

「おう……これが……」

 雰囲気に浸りながら誠は自分の機体が直立していく様を想像しながら笑顔を浮かべていた。

『ベルガー大尉の隣のレーンが見えるだろ?そこに立たせろ!』

 島田の言葉を聞くと誠はそのまま操縦桿を握る手に汗をかいている自分に気が付いた。

「焦るな……冷静に……どうせ補助システムでうまい事動かしてくれるんだから」

 自分自身にそう言い聞かせながら誠はゆっくりと05式の左足を前に踏み出させた。

「よーし……できるじゃないか……」

 右足をトレーラーの台から抜いて何とか自分の機体を自立させた。モニターの下の方では手を叩いて喜ぶつなぎの整備班員の姿が見えた。

「じゃあ……」

 そのまままっすぐカウラの機体の前を抜けて機体を反転させて静かに予定地点に機体を固定した。

『オメエ……できるんだな……やれば』

 何かアクシデントを期待していたような島田の言葉に反応するには誠の緊張は極限を超えていた。

「やりましたよ……」

 わずか数分の出来事だというのに誠は疲れ果てていた。

 そのままコックピットのハッチを開けるとそこにはアメリアが当然のように立っていた。

「大したものね……まあ、私は誠ちゃんならやれると思ってたけど」

「本当ですか……」

「嘘だけどね」

 誠はいつものアメリアの術中にはまった自分を笑いながら彼女の伸ばした手に引っ張られて機体から降り立った。

「よーし!ばらすぞ!総員、関節部から外して第一装甲から引っぺがせ!」

 島田の叫び声にはじかれるようにしてそれまで野次馬を気取っていた隊員達が駆け回り始める。

「やるじゃねえか……」

 かなめとカウラ、そしてランが地上に降りた誠とアメリアを迎えた。

「オメーの機体は05式特戦乙型って言うんだ……『法術増幅システム』搭載の初の実戦型アサルト・モジュールなんだぜ」

 ランは得意げにそう言って笑った。

「あのー……その『法術増幅システム』ってなんなんです?」

「教えねー!動くからいいんだよ!要は動けばいいの!邪魔になるもんじゃねーから」

 誠は予想通りの反応をして誠に背を向けるランを見送る。

「動けばいいか……」

 誠はランの言葉を聞きながら自分の命を預けることになる機体を見上げた。

「僕の機体……」

 誠は感慨深げに自分の『専用機』を見上げた。ここにとりあえず居る理由にはなるかも知れない。誠はそんな後ろ向きの考え方をする青年だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...