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第12章 それぞれの過去
二日目の朝
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カウラの『ハコスカ』で男子下士官寮に送られた誠は待ち構えていた非番の隊員達に案内されてベッドや布団まで用意された寮で眠り、『特殊な部隊』の二日目を迎えた。
「二日目か……」
誠は下士官寮の二階の自室の窓を開けて空を見上げた。
どこまでも広い空が続いている。
大きく深呼吸をした誠はカバンに入った実働部隊の制服に着替えると、そのまま部屋を出て一階の食堂に向かった。
「おう!神前」
食堂では明らかに上座とわかる場所で寮長の島田がプリンを食べていた。
その正面にはなぜか二人の制服姿の女子隊員が腰かけて誠の方に視線を向けていた。
「あのー……ここって男子寮ですよね?」
そう言いながら近づく誠を見て二人は笑顔を浮かべた。
「神前君。昨日はどうだったの?」
水色のショートカットの女性隊員が笑顔を向けてきた。
「どうって……楽しかったですよ」
「ホント?アメリアやかなめにいじめられたでしょ?」
今度はピンクのソバージュの女子が誠の顔をのぞき込む。
「こいつは俺の舎弟なんだからそんなことねえだろ……あの三人もわかってるって」
島田はテーブルに足を投げ出してヤンキーらしく首に下げた金のネックレスを光らせている。
「うちは馬鹿しかいない『特殊な部隊』だから。早く逃げといた方がいいと私は思うわよ」
そう言うと水色の髪の女性は、隣に座った誠に手を差し伸べた。
「私はパーラ・ラビロフ中尉。運行艦『ふさ』の総括管理担当。つまり、アメリア達の『馬鹿』をフォローする『疲れるお仕事』担当……をやらされてる」
パーラはそう言って立ち上がり、前に見た誠の前のパシリだった少年下士官から朝食のプレートを受け取って誠の前に置いた。
『この人……まともだ』
そのどこか人工的な表情を見ながら誠はそう確信した。
「ラビロフ中尉……となりのピンクの髪の人は?」
「はーい!私はサラ・グリファン少尉です!島田君の彼女なんですよ!」
「へー……彼女ですか」
誠はそのまま白けた瞳を島田に向けた。
「俺は……『硬派』だかんな!つまらねえ詮索するとグーパンチだかんな!」
「正人!カッコいい!」
少し照れながら島田は食べ終えたプリンの容器を先ほどの下士官に渡した。サラは朝からわけもなく盛り上がっている。
誠はとりあえず部隊で一番『まとも』そうなパーラにこの部隊の真実を聞こうと思った。
「ラビロフ中尉。この部隊って……」
「ああ、いいわよ、『パーラさん』で。一応、神前君の先輩なんだから」
パーラはそう言ってほほ笑んだ。
「私達の髪の色、変でしょ」
落ち着いたその言葉に誠はどういう反応を返せばいいか迷っていた。
「うちの女子の九割は『ラスト・バタリオン』と呼ばれる存在なのよね。『ゲルパルト帝国』が『第二次遼州大戦』の末期に生み出した『戦闘用バイオロイド』つまり『戦うために作られた人工人間』なの。だから普通の人間と区別をつけるために髪の毛の色が変な訳」
パーラはとんでもないことをさらりと言った。まるで誠が『知っていて当然』と言うように言う姿に、誠はやはり彼女も『特殊な部隊』で思考回路が『特殊』になってしまったんだと思った。
「『戦闘用人工人間』なんですか?お二人とも。普通の『人間』にしか見えませんが……」
顔を引きつらせながら誠はそう言った。
誠が横を見た。そこには島田とサラは何故か窓の外を指さして立っていた。お互い誠にとっては意味不明な言葉をしゃべって、感涙にむせび泣いている。とりあえず誠はこいつ等は無視することにした。
「他にもいるわよ。運航部はアタシとサラを含め全員女子で、全員『ラスト・バタリオン』。あと、機動部隊の部屋の誠ちゃんの前に座ってる娘」
機動部隊の部屋の誠の席の前には二人の女性が座っているが、どう考えても『西園寺かなめ中尉』の方が戦闘的だった。しかも、『ロボ』である。
「あ、たぶん神前君の想像の逆。かなめちゃんは『甲武国』で一番のお姫様だったりする人だけど、本人が『それを知った人間は全員殺す』と言ってるから知らない方が良いわよ」
かなめではないことはパーラの人の良さそうな言葉から分かった。同時に、『かなめに確実に殺される』方法を知ってしまった誠は青ざめた。
「神前君!顔色が青い!面白い!」
誠を見たサラが大爆笑している。
誠はこの女に『戦闘用人工人間の悲劇』と言う過去があるとは信じられない。そこで誠は彼女を『無視』することに決めた。
『戦闘用人工人間の悲劇』と言うと……誠はひたすら考えた。
そうなると、当然誠の脳裏には『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ラン中佐の萌え萌えフェイスが浮かび上がる。
きっとクバルカ・ラン中佐だ、そうあってくれ!その方が安心して『萌え』られる!
そう思いながら誠はパーラを期待の目で見つめた。
「これも私の予想だけど神前君の期待には沿えられそうにないわね。クバルカ中佐は『遼帝国』出身。ゲルパルトで製造された私達『ラスト・バタリオン』とは無関係よ」
誠は心底がっかりした。
この二つの消去法の結果に誠は驚愕した。
残りは……どう考えてもあの第一小隊小隊長、カウラ・ベルガー大尉しか残らない。
彼女の髪の色が緑な時点で気づくべきだった。
「カウラさんは確かにどこか人工的なところがありますからね」
誠の言葉にパーラの表情が曇る。
「そう?あの娘、意外とパチンコが好きだったりするのよ」
「パチンコ?」
思わず声が裏返る。誠はあの氷のような表情でパチンコ屋の開店を待っている姿を思いえがいて少し驚愕した。
「まあ、うちに配属された当初はかなりの依存症だったけど、クバルカ中佐の『荒治療』で、まあ週に一回程度に収まってるけど……」
「カウラちゃん『パチンコの無い生活は想像できない』とか言ってたわよね」
パーラの言葉にサラのフォローが入る。あの無表情なカウラにそんな意外な一面があることを知って誠はなぜか親近感を覚えている自分を見つけた。
「そんな『パチンコの無い生活は想像できない』って言ってるんですよね。パチンコチェーンがあるんですか『ゲルパルト』には」
好奇心に駆られて誠はそう言った。
「ああ、私達の『製造プラント』は大戦末期に敵対する『連合軍』に接収されたから。私もサラも、当然カウラちゃんも、ここ『東和共和国』で『ロールアウト』したのよ。だから出身国や国籍は『東和共和国』よ。カウラちゃんが『ロールアウト』した施設の周りには、当然ながら『パチンコ屋』が周りにいっぱいあったでしょうね」
パーラが言う『ロールアウト』の意味が『出荷』という意味らしいことは分かった。そして、カウラの出荷先がどうやら『パチンコ屋』の近くだったことは想像がついた。
そこでパーラは突如、目を潤ませて誠に寄り添ってくる。
「そんなつまらない過去より……」
『悲劇的な生まれの過去を持つ』女性。パーラ・ラビロフ中尉の心からの救済を求める視線を感じた。
「神前君……一緒に逃げましょう……この『特殊な部隊』から……」
パーラはそう言って誠の胸に飛び込んできた。
ここで抱きしめて一緒に逃避行をするべきなのだ。
彼女も誠と同じこの『特殊な部隊』の異常なノリの被害者である自覚がある。
「パーラさん……」
感極まった誠。涙を浮かべるパーラ。見つめあう二人。
同じ不幸な境遇を共有する二人が見つめあった瞬間だった。
「逃げられると思うなよ……甘ちゃん」
誠の腹部に激痛が走った。顔を見上げるとにやりと笑う島田の姿が見える。
島田の右ストレートが腹部に炸裂したのがその痛みの原因だった。
「神前君!」
パーラの叫びがむなしく響く。
「そうよ!今日も出勤!お仕事お仕事!」
元気にサラが立ち上がり、食べ残しのある朝食のプレートを食堂のカウンターに運んでいく。
「神前……逃げたらどうなるか……分かってんだろうな?オメエは俺の舎弟なの。ちゃんと落とし前をつけろよ……」
場末のヤンキーが言いそうな言葉と表情に震えあがる誠を見て、パーラは少し諦めたような表情を浮かべて立ち上がる。
「さっきのは冗談よ。準備してきなさい。私の車があるから乗せてあげる」
パーラはそう言って立ち上がった。
誠はころころと表情を変えるパーラに振り回されている自分を笑いながら立ち上がるとそのまま食堂を後にした。
「二日目か……」
誠は下士官寮の二階の自室の窓を開けて空を見上げた。
どこまでも広い空が続いている。
大きく深呼吸をした誠はカバンに入った実働部隊の制服に着替えると、そのまま部屋を出て一階の食堂に向かった。
「おう!神前」
食堂では明らかに上座とわかる場所で寮長の島田がプリンを食べていた。
その正面にはなぜか二人の制服姿の女子隊員が腰かけて誠の方に視線を向けていた。
「あのー……ここって男子寮ですよね?」
そう言いながら近づく誠を見て二人は笑顔を浮かべた。
「神前君。昨日はどうだったの?」
水色のショートカットの女性隊員が笑顔を向けてきた。
「どうって……楽しかったですよ」
「ホント?アメリアやかなめにいじめられたでしょ?」
今度はピンクのソバージュの女子が誠の顔をのぞき込む。
「こいつは俺の舎弟なんだからそんなことねえだろ……あの三人もわかってるって」
島田はテーブルに足を投げ出してヤンキーらしく首に下げた金のネックレスを光らせている。
「うちは馬鹿しかいない『特殊な部隊』だから。早く逃げといた方がいいと私は思うわよ」
そう言うと水色の髪の女性は、隣に座った誠に手を差し伸べた。
「私はパーラ・ラビロフ中尉。運行艦『ふさ』の総括管理担当。つまり、アメリア達の『馬鹿』をフォローする『疲れるお仕事』担当……をやらされてる」
パーラはそう言って立ち上がり、前に見た誠の前のパシリだった少年下士官から朝食のプレートを受け取って誠の前に置いた。
『この人……まともだ』
そのどこか人工的な表情を見ながら誠はそう確信した。
「ラビロフ中尉……となりのピンクの髪の人は?」
「はーい!私はサラ・グリファン少尉です!島田君の彼女なんですよ!」
「へー……彼女ですか」
誠はそのまま白けた瞳を島田に向けた。
「俺は……『硬派』だかんな!つまらねえ詮索するとグーパンチだかんな!」
「正人!カッコいい!」
少し照れながら島田は食べ終えたプリンの容器を先ほどの下士官に渡した。サラは朝からわけもなく盛り上がっている。
誠はとりあえず部隊で一番『まとも』そうなパーラにこの部隊の真実を聞こうと思った。
「ラビロフ中尉。この部隊って……」
「ああ、いいわよ、『パーラさん』で。一応、神前君の先輩なんだから」
パーラはそう言ってほほ笑んだ。
「私達の髪の色、変でしょ」
落ち着いたその言葉に誠はどういう反応を返せばいいか迷っていた。
「うちの女子の九割は『ラスト・バタリオン』と呼ばれる存在なのよね。『ゲルパルト帝国』が『第二次遼州大戦』の末期に生み出した『戦闘用バイオロイド』つまり『戦うために作られた人工人間』なの。だから普通の人間と区別をつけるために髪の毛の色が変な訳」
パーラはとんでもないことをさらりと言った。まるで誠が『知っていて当然』と言うように言う姿に、誠はやはり彼女も『特殊な部隊』で思考回路が『特殊』になってしまったんだと思った。
「『戦闘用人工人間』なんですか?お二人とも。普通の『人間』にしか見えませんが……」
顔を引きつらせながら誠はそう言った。
誠が横を見た。そこには島田とサラは何故か窓の外を指さして立っていた。お互い誠にとっては意味不明な言葉をしゃべって、感涙にむせび泣いている。とりあえず誠はこいつ等は無視することにした。
「他にもいるわよ。運航部はアタシとサラを含め全員女子で、全員『ラスト・バタリオン』。あと、機動部隊の部屋の誠ちゃんの前に座ってる娘」
機動部隊の部屋の誠の席の前には二人の女性が座っているが、どう考えても『西園寺かなめ中尉』の方が戦闘的だった。しかも、『ロボ』である。
「あ、たぶん神前君の想像の逆。かなめちゃんは『甲武国』で一番のお姫様だったりする人だけど、本人が『それを知った人間は全員殺す』と言ってるから知らない方が良いわよ」
かなめではないことはパーラの人の良さそうな言葉から分かった。同時に、『かなめに確実に殺される』方法を知ってしまった誠は青ざめた。
「神前君!顔色が青い!面白い!」
誠を見たサラが大爆笑している。
誠はこの女に『戦闘用人工人間の悲劇』と言う過去があるとは信じられない。そこで誠は彼女を『無視』することに決めた。
『戦闘用人工人間の悲劇』と言うと……誠はひたすら考えた。
そうなると、当然誠の脳裏には『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ラン中佐の萌え萌えフェイスが浮かび上がる。
きっとクバルカ・ラン中佐だ、そうあってくれ!その方が安心して『萌え』られる!
そう思いながら誠はパーラを期待の目で見つめた。
「これも私の予想だけど神前君の期待には沿えられそうにないわね。クバルカ中佐は『遼帝国』出身。ゲルパルトで製造された私達『ラスト・バタリオン』とは無関係よ」
誠は心底がっかりした。
この二つの消去法の結果に誠は驚愕した。
残りは……どう考えてもあの第一小隊小隊長、カウラ・ベルガー大尉しか残らない。
彼女の髪の色が緑な時点で気づくべきだった。
「カウラさんは確かにどこか人工的なところがありますからね」
誠の言葉にパーラの表情が曇る。
「そう?あの娘、意外とパチンコが好きだったりするのよ」
「パチンコ?」
思わず声が裏返る。誠はあの氷のような表情でパチンコ屋の開店を待っている姿を思いえがいて少し驚愕した。
「まあ、うちに配属された当初はかなりの依存症だったけど、クバルカ中佐の『荒治療』で、まあ週に一回程度に収まってるけど……」
「カウラちゃん『パチンコの無い生活は想像できない』とか言ってたわよね」
パーラの言葉にサラのフォローが入る。あの無表情なカウラにそんな意外な一面があることを知って誠はなぜか親近感を覚えている自分を見つけた。
「そんな『パチンコの無い生活は想像できない』って言ってるんですよね。パチンコチェーンがあるんですか『ゲルパルト』には」
好奇心に駆られて誠はそう言った。
「ああ、私達の『製造プラント』は大戦末期に敵対する『連合軍』に接収されたから。私もサラも、当然カウラちゃんも、ここ『東和共和国』で『ロールアウト』したのよ。だから出身国や国籍は『東和共和国』よ。カウラちゃんが『ロールアウト』した施設の周りには、当然ながら『パチンコ屋』が周りにいっぱいあったでしょうね」
パーラが言う『ロールアウト』の意味が『出荷』という意味らしいことは分かった。そして、カウラの出荷先がどうやら『パチンコ屋』の近くだったことは想像がついた。
そこでパーラは突如、目を潤ませて誠に寄り添ってくる。
「そんなつまらない過去より……」
『悲劇的な生まれの過去を持つ』女性。パーラ・ラビロフ中尉の心からの救済を求める視線を感じた。
「神前君……一緒に逃げましょう……この『特殊な部隊』から……」
パーラはそう言って誠の胸に飛び込んできた。
ここで抱きしめて一緒に逃避行をするべきなのだ。
彼女も誠と同じこの『特殊な部隊』の異常なノリの被害者である自覚がある。
「パーラさん……」
感極まった誠。涙を浮かべるパーラ。見つめあう二人。
同じ不幸な境遇を共有する二人が見つめあった瞬間だった。
「逃げられると思うなよ……甘ちゃん」
誠の腹部に激痛が走った。顔を見上げるとにやりと笑う島田の姿が見える。
島田の右ストレートが腹部に炸裂したのがその痛みの原因だった。
「神前君!」
パーラの叫びがむなしく響く。
「そうよ!今日も出勤!お仕事お仕事!」
元気にサラが立ち上がり、食べ残しのある朝食のプレートを食堂のカウンターに運んでいく。
「神前……逃げたらどうなるか……分かってんだろうな?オメエは俺の舎弟なの。ちゃんと落とし前をつけろよ……」
場末のヤンキーが言いそうな言葉と表情に震えあがる誠を見て、パーラは少し諦めたような表情を浮かべて立ち上がる。
「さっきのは冗談よ。準備してきなさい。私の車があるから乗せてあげる」
パーラはそう言って立ち上がった。
誠はころころと表情を変えるパーラに振り回されている自分を笑いながら立ち上がるとそのまま食堂を後にした。
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