レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
964 / 1,536
第19章 戦士達

少女は

しおりを挟む
 クリスはそのまま本部を出た。難民達が陸路を行くトラックと空路を行く輸送機に振り分けられているのが見える。

「あーあ、詰まんないの 」 

 シャムはダンボールの中のカブトムシやクワガタムシを見つめながらつぶやいている。

「どうしたんだ、一人で 」 

 声をかけたクリスに目を輝かせているシャムがいた。隣の熊太郎も嬉しそうに舌を出している。

「これ、あげるね 」 

 虫の入った非常食が二十人分も入る大きなダンボールを押し付けてくるシャム。慌ててクリスはその箱を押し返す。

「逃がしてやればいいのに 」 

 クリスの言葉に、シャムは不思議そうにしていた。そしてちらちらとダンボールに目を落とすシャム。

「なんか、君。それを食べそうな目をしているんだけど…… 」 

「カブトムシの成虫は食べないよ! 」 

 シャムはそう言い切った。

「じゃあ幼虫は食べるんだね 」 

「うん! やわらかくて甘いんだよ! 」 

 クリスは昔、地球の東南アジアでの紛争によりこの星へ移民してきた人達が喜んで巨大なカブトムシの幼虫をほおばっている映像を見たのを思い出した。

「それよりシャムちゃん。君の機体見せてくれないかな? 」 

 クリスの言葉にしばらくまじまじと彼の顔を見つめた後、満面の笑みを浮かべてシャムは立ち上がった。

「いいよ! 次からは私の後ろに乗るんだよね! 」 

 箱を熊太郎の背中に乗せて歩き出すシャム。彼女は元気良くクリスを連れて格納庫に向かう。

「隊長の機体って大変なんだねえ 」 

 シャムはそう言うと稼動部分と動力炉を外されてフレームだけの姿になっているカネミツを見つめた。その隣には取り外した部品を冷却しているコンテナから湯気が上がっている。

「あれだよ 」 

 シャムに言われるまでも無く、その白い機体は一際目立っていた。そのまま足元に立つシャムとクリス。シャムが自分を『騎士 』と呼ぶ理由が、この気品を感じさせるアサルト・モジュールのパイロットであることからもよくわかるとクリスは思っていた。どこか西洋の甲冑を思わせる姿は二式が戦闘用の機械にしか見えないことに比べるとかなり優美な姿を誇っているように見えた。

「シャム、カブトムシくれるんだろ? 」 

 若い整備員が声をかけるのを聞くと、シャムは熊太郎の背中の箱を彼に渡した。整備員達がそれに群がり、談笑を始めたのを見計らうように、シャムはそのままコックピットに上がるエレベータにクリスを案内した。

「コックピットは掃除しといたからな! 」 

 下でカブトムシの取り合いをしている整備員が叫ぶ。シャムは笑いながら彼に手を振った。

「そう言えばこれまでは熊太郎が乗ってたんだな 」 

「うん! 広いからちゃんと椅子を乗せても大丈夫だったんだよ 」 

 エレベータが止まる。コックピットハッチがシャムの手で解放され、内部が天井の透明になった部分からの昼の日差しに照らされた。コックピットが広いというより、明らかにシャムの座席が小さめに出来ていた。

「これははじめからこうだったのか? 」 

「違うよ。明華ちゃんがアタシが乗りやすい様に調整してくれたの 」 

 そう言うとシャムはコックピットの前に立った。クリスはその隣から中を覗いた。全周囲モニターが新しい。他の内部装置もすべて二式やカネミツの部品の流用のように見えた。

「中はずいぶん手を入れたんだね 」 

「明華とキーラがやってくれたんだ。だから凄く乗りやすくなったよ 」 

 シャムは満面の笑みを浮かべながらクリスの顔を見つめた。

「そう言えばクリスはキーラのこと嫌いなの? 」 

 コックピットに頭を突っ込んでいたクリスは、背中を見ているシャムの言葉に思わず咳き込んだ。

「何言ってるんだ、それに会ってからそう日も経ってないし…… 」 

「恋に時間は関係ないって明華も言ってたよ 」 

 振り向いたシャムがニヤニヤと笑っている。彼女に自分が宗教右派の家庭に生まれてその呪縛からキーラと向き合えないなどと言い出したい衝動に駆られながら静かに彼女を見つめるだけのクリス。だが続く生暖かい視線に呆れたように無難な話題で切り抜けることを彼は選んだ。

「だから、俺は取材に来ただけだ。たぶん北兼台地の戦いが終われば国に帰るつもりだ 」 

「えー! クリス帰っちゃうの? 」 

 驚いたように叫ぶシャム。クリスは困惑した。

「そんなに驚くこと無いじゃないか。北兼台地が人民軍の手に落ちれば地球各国の部隊は撤退を決断する国も出てくるだろう。今度、遼南に来たらそちらの取材をするつもりなんだ 」 

 シャムはしばらくクリスの言葉が理解できないと言う顔をしていたが、どうにか彼女なりの理解が出来たところでなんとなく下を向いた。

「あっ! 」 

 そのままシャムが凍りつく。何かとクリスが下を見れば、工具箱を落としたのか工具を拾い集めているキーラがいた。クリスは何も言えずにいた。下のキーラはシャムの視線に気付いて上を見上げた。キーラとクリスの視線が合った。そしてお互い避けるように目を反らした。

「あんまり大人をからかわない方が良いぞ 」 

 クリスはそう言うと再びコックピットの中を覗きこむ。

「重力制御システムは既存のものを使っているみたいだな 」 

「きぞん? なにそれ 」 

 帽子を直しながらシャムが訪ねる。

「そう言えばエンジン出力と関節動力装置のバランスはどうしたんだ? この前はかなり技術者にエンジンを絞れと言われていたみたいだけど…… 」 

 クリスの前に立つシャムが不思議そうな顔で見つめ返してくる。

「無駄よ。シャムにそんなこと聞いても 」 

 はしごを上って来てそう言ったのはキーラだった。

「その問題はかなり改善しているわ。カネミツの予備部品を組み込んでみたのよ。規格があっていたから使えたんだけど、それでも出力の70パーセントくらいで動かしてもらわないといけないけどね 」 

 キーラはそう言うとクリスを見た。先ほどのシャムの言葉を聞いていたクリスは笑顔を作ろうとするが、どこと無く不自然な感じがした。それを見て少し失望したような顔をしたキーラはそのままクリスの隣に立ってコックピットの中を覗きこんだ。

 黙り込む二人に戸惑うシャム。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』

橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』 いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。 そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。 予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。 誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。 閑話休題的物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

処理中です...