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第12章 卑怯者の挽歌

突入

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 そう言うと嵯峨はカネミツを着地させ、目の前に横穴を空けている古い鉱山跡の中に機体を進めた。クリスはただ呆然とその一部始終を見ていた。今、画面に映っているのは逃げ惑う民兵と技術顧問らしいアメリカ陸軍の戦闘服を着た兵士達だった。

「さてと、どこまで入れそうかね 」 

 カネミツはゆっくりと坑道を奥へと進む。嵯峨は自動操縦に切り替えて、足元のコンテナからアサルト・ライフルを取り出す。

「カラシニコフライフルですか 」 

 嵯峨は折りたたみストックのライフルをクリスに手渡した。

「AKMS。まあ護身用ってことでね 」 

 嵯峨は立てかけてあった愛刀兼光を握り締めている。

「銃なんてのは弾が出ればいいんすよ。さて、自殺志願者もいないみたいですから、奥に行きましょうか? 」 

 とぼけた調子で嵯峨は坑道の奥でカネミツを停止させて装甲板とコックピットハッチを跳ね上げた。

「さーて、逃げ遅れた人はいませんか? 」 

 そう叫びながら嵯峨がアサルト・モジュールの整備に使っていたらしいクレーンを伝って地面に降りた。クリスはライフルのストックを展開して小脇に抱えるようにしてその後に続く。

「居ないみたいっすねえ。それじゃあお邪魔しまーす 」 

 肩に抜刀した長船兼光を担いで、完全に場所を把握しているようにドアを開く。

「ドアエントリーとかは…… 」 

「ああ、そうでしたね 」 

 クリスに言われて嵯峨が剣を構えながら進む。確かに嵯峨はこの訓練キャンプの内部の情報をすべて知った上でここにいる。クリスには中腰で曲がり角を覗き込んでいる嵯峨を見てそう確信した。ハンドサインで敵が居ないことをクリスにわざとらしく知らせると、そのまま嵯峨は奥へと進む。クリスも軍務の経験はあった。そして室内戦闘が現在の歩兵部隊の必須科目であることも熟知していた。そして何よりも嵯峨は憲兵実働部隊の出身である。室内戦などは彼の十八番(おはこ)だろう。クリスはそう思いながら大げさに手を振る嵯峨の背中に続いた。

 さすがに剣を構えるのが疲れたのか、鞘に収めて左手に拳銃、右手にライトを持って薄暗い坑道を進んでいく嵯峨。クリスは二人が進んでいる区画が明らかに何かの研究施設のようなものであることに気づいた。

 一番手前の鉄格子の入った部屋をクリアリングする嵯峨。中には粗末なベッドのようなものが置かれている。

「見ると聞くとじゃ大違いだな 」 

 嵯峨はそのままライトでベッドの上の毛布を照らす。毛布には真新しい弾痕が残り、その下から血が流れてきているのが見えた。

「死人に口無しってことですか? 」 

 クリスがそのまま毛布に手を伸ばそうとするのを嵯峨は押しとどめた。

「なあに、もうすぐちゃんと喋れる証人のところに案内しますから 」 

 嵯峨はそう言うと拳銃を構えなおす。そしてライトを消して、クリスに物音を立てないようにハンドサインを送った。数秒後、明らかに誰かが近づいてくる気配をクリスも感じていた。嵯峨は腰の雑嚢から手榴弾を取り出して安全装置を外す。外に転がされた手榴弾。飛び出す嵯峨の拳銃発射音が3発。そのまま部屋に戻ると爆風がクリスを襲った。

「大丈夫ですか? 」 

 嵯峨はそう言うとそのまま廊下に出た。かつて人だったものが三つ転がっている。

「あんまり見つめると仏さんが照れますよ。行きましょうか 」 

 そう言うと嵯峨は死体を残したままで彼の目的の場所に向けて走り出した。

 しばらく通路を走ったところで、嵯峨は止まるように合図した。そのまま腰をかがめ、ライフルを構えながら3メートル程距離をとって音を立てないように立ち止まるクリス。嵯峨は懐から手鏡のようなものを出し、大き目のドアの隙間に翳す。しばらくの沈黙の後、嵯峨の手が動いた。出されたハンドサインは、三人の敵が部屋の奥で背中を向けているという状況とその一人を嵯峨が撃ったら突入しろと言うものだった。

 クリスの左手が持っているライフルのハンドガードが汗で滑る。

 嵯峨はすばやく突入した。拳銃の発射音が一つ。クリスが中で見たのは、倒れようとするアメリカ陸軍の制服を着た将校と、白衣の二人の技術者が手を上げる様だった。
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