823 / 1,455
第26章 決起の日
敵対する義兄弟
しおりを挟む
赤松は国賊と恩人達が言う西園寺基義の右腕。そして自分は清原卿の決起に一枚噛んでこうして自宅に戻ってきたところだった。そしてその自宅には不治の病に心を蝕まれた妻。
「じゃあいい、そのまま聞いてくれ」
ふすまを閉ざす恭子にゆっくりと安東は話しかけた。
「現在、俺は烏丸公の一派として決起軍の一人となった……これも恩を返さなければならないからだ。烏丸公や清原さんには軍への復帰に関して大きな恩を買った俺だ。断ることなんてできない」
そこまで言ったところで恭子はふすまから手を離したようでカタリと言うふすまが動く音がした。ここで飛び込めば妻の心は傷つくとそのまま安東は言葉を続ける。
「つまり君の兄である忠満とは敵味方に分かれると言うことだ。あいつも今じゃあ第三艦隊の司令だ。その任務を放棄することも無いだろうし主君である西園寺公を裏切るような男じゃないことは君も知っているはずだ」
「だから……なんですか?」
冷たいかすれた声が安東の耳に届いた。
「兄が敵に回るのは分かっています。子供じゃないんですから。私だって烏丸公と西園寺公が対立していることやあなたが清原准将に恩があることは知っています」
声は震えていた。怒りか、悲しみか。安東はただ頭を垂れて恭子が落ち着くのを待つことにした。
「あなたはいいですよね。自分が信じているように動けばいいだけですから。たとえ烏丸公が負けても義に殉じたといえば済む話ですから。でも私は……」
言葉が途切れた。安東は何もいえなかった。暗い庭の静寂に耐えながら安東は静かに妻のいる部屋のふすまを見つめていた。
「すまない」
安東に口にできる言葉はその一言しかなかった。次第に暮れていく空に染められる白い襖。ただ安東は諦めたと言うように立ち上がり大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けることしかできなかった。
「じゃあいい、そのまま聞いてくれ」
ふすまを閉ざす恭子にゆっくりと安東は話しかけた。
「現在、俺は烏丸公の一派として決起軍の一人となった……これも恩を返さなければならないからだ。烏丸公や清原さんには軍への復帰に関して大きな恩を買った俺だ。断ることなんてできない」
そこまで言ったところで恭子はふすまから手を離したようでカタリと言うふすまが動く音がした。ここで飛び込めば妻の心は傷つくとそのまま安東は言葉を続ける。
「つまり君の兄である忠満とは敵味方に分かれると言うことだ。あいつも今じゃあ第三艦隊の司令だ。その任務を放棄することも無いだろうし主君である西園寺公を裏切るような男じゃないことは君も知っているはずだ」
「だから……なんですか?」
冷たいかすれた声が安東の耳に届いた。
「兄が敵に回るのは分かっています。子供じゃないんですから。私だって烏丸公と西園寺公が対立していることやあなたが清原准将に恩があることは知っています」
声は震えていた。怒りか、悲しみか。安東はただ頭を垂れて恭子が落ち着くのを待つことにした。
「あなたはいいですよね。自分が信じているように動けばいいだけですから。たとえ烏丸公が負けても義に殉じたといえば済む話ですから。でも私は……」
言葉が途切れた。安東は何もいえなかった。暗い庭の静寂に耐えながら安東は静かに妻のいる部屋のふすまを見つめていた。
「すまない」
安東に口にできる言葉はその一言しかなかった。次第に暮れていく空に染められる白い襖。ただ安東は諦めたと言うように立ち上がり大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けることしかできなかった。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)
れ
SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。
主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、
それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
いつか日本人(ぼく)が地球を救う
多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。
読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。
それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。
2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。
誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。
すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。
もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。
かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。
世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。
彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。
だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ
黒陽 光
SF
その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。
現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。
そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。
――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。
表紙は頂き物です、ありがとうございます。
※カクヨムさんでも重複掲載始めました。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる