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第26章 決起の日

戻らぬ日々

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 高等予科で将来の士官として過ごしていたとき。喧嘩ばかりの彼の日常に西園寺家の三男の西園寺新三郎、その学友として付いて回る赤松忠満、そしてなぜか馬が合って共にすごしていた濃州候の時期当主である斎藤一学。士族などの子弟の通う陸軍予科などの不良と悶着を起こして怒鳴られるのは赤松と安東。二人は自然とお互いの家に入り浸るようになった。そんな中で次第にお互いの姉と妹に引かれていったのは不思議なことだった。

「実はな……」 

 ようやく士官学校に進むという日、赤松家の洋風のリビングで寝転んで漫画を読んでいた安東に正座をしている赤松の姿を見つけてめんどくさそうに安東は起き上がった。

「恭子がな……貴様のことを好きなんやて」 

 赤松の言いにくそうな表情の後ろの扉にじっと張り付いている恭子。赤松の知らない話だったが当時すでに恭子と安東は付き合っていた。それを赤松が知らないと言うことに気づいて噴出しそうになるのを我慢して尋ねる。

「で?」 

 真剣な赤松の表情が面白くて安東は漫画を脇においてソファーの上から見下ろすように土下座する親友の姿を見下ろしていた。

「別に……そんな、特にお願いは無いんやけど」 

「そうか、なら野暮なことは辞めとけ」 

 そう言いながら静かに扉の隙間から笑みを浮かべている恭子と笑っていた。

「いや、ワシも言わなアカンことがあってな」 

「ほう、聞こうじゃねえか」 

 うつむいたままじっとしている赤松。その姿を余裕を持って見つめていた安東だが次の赤松の一言に思わずソファーから転げ落ちそうになった。

「ワシ、明日貴子さんと入籍すんねん」 

 突然の言葉に安東はソファーから滑り落ちた。貴子、それが自分の姉のことであることは間違いなかった。三人兄弟の末っ子で要領のいい赤松が色々家に来ては勝手口で姉と話しているのは見かけていたがそんな話は姉から聞いていなかった。

「なんだよそれ!俺達が馬鹿だったみたいじゃないか!」 

「結果的にはそやな」 

 赤松の超然とした態度に呆然とさせられたその瞬間。だが今の安東の立場はそんなコメディーを思い出して微笑むくらいのことしかできない状況だった。
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