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第20章 大乱の予感

城氏討伐

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 殺気だった雰囲気。それを収めるには言葉が必要だった

「ああ……予想はしとったけどなあ」 

 明石は教導部隊の隊長室の机に足を乗せて目の前の端末を眺めていた。隊員達も席に座ってそれぞれに端末に目を走らせていた。流れているのはニュース。そこでは越州鎮台府の城一清大佐が西園寺政権を認めずに篭城に入ったと叫ぶアナウンサーの声が響いていた。

「やはりあそこは動きますか……清原さんと越州鎮台府の城さんは懇意ですからね。恐らくつぶしにかかるとしたら濃州ですよ」 

 ソファーに腰掛けて楓が茶を啜っている。『濃州』と言う言葉に明石の顔はさらに苦々しいものへと変貌した。先日の民派の士官達の会議で慎重にことを進めようとしていた髭面の斎藤一実というなの大尉の落ち着いた横顔を思い出す。間違いなく戦闘配備の進んでいるだろう濃州。その緊迫した空気を思い浮かべると明石の視線は厳しいものへと変わった。

「まあ……ある程度予想してた話やから。城はんと言えば清原はんの数少ない親友ちゅうことになっとる。恐らく囮を頼まれたんやろな」 

「囮?」 

 少し不思議そうな表情を浮かべて自分を見つめてくる楓にまだ予科の初等科と同じ年だという幼さが見えて明石は苦笑した。

「今、城氏討伐に動ける軍は限られとる。赤松はんの第三艦隊、醍醐はんの近衛師団のどちらかやろなあ。池はんの四条畷鎮台は国際宇宙港の防衛が一番の優先課題やさかい動かれへんやろ?そうなれば赤松はんにしろ醍醐はんにしろ西園寺はんにはお世話になっとる方々や。帝都の西園寺派が一挙に留守になるやろな」 

 明石の言葉に楓は納得したように頷いた。

「赤松公が動けばそのまま軌道上エレベータの豊州にいる首都防衛が主任務の佐賀高家侯爵の強襲戦術部隊で帝都を制圧。そのまま機動エレベータに駐屯中の泉州艦隊で第三艦隊を挟み撃ちにするわけですか」 

 納得したように楓はうなづいた。

「ただそうすると問題は南極基地を醍醐はんの部隊が制圧するのにどれだけ時間がかかるかやな。池はんは先の大戦ではたいした功はあげてないよって必死で来るで。しかも醍醐はんは徹底的にお人よしやさかいのう」 

 明石はそう言うと天井を見上げた。

「出撃準備は必要でしょうか?」 

「まあ心の中だけにしておいたほうがええやろな。実際何事もあらへんのが一番や。あくまで現状としてワシ等が備えておくべきは城はんの叛乱の多部隊への伝播や。気は引き締めとらなあかんで」 

 そう言いながらも明石は半分以上このまま胡州を舞台とした動乱が始まるのを予期していた。そしてそれを心待ちにしていたような自分にも気が付いていた。先の大戦。特攻隊の隊長として死ぬはずだった自分が今まで生きてきたことに時々後悔する自分に驚く日々。そしてその意味を見出せるような今回の政治と軍事の混乱。

『死に場所を見つけたんとちゃうか……』 

 心の中でそう思いながら真剣な視線を浴びせてくる楓に笑顔をこぼした。
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