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第14章 同志達

貴族と家臣

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「君が明石君か。話は聞いているよ」 

 そう上座から声をかけてきたのは写真では何度も見たことのある人物だった。

「これは醍醐少将!」 

 明石は身が固まるのを感じた。だが、醍醐文隆陸軍少将は明石が連れてきた楓の方に目が行くと突然立ち上がり楓の前に額づいた。先の大戦では参謀としてアフリカ方面戦線で活躍し、遼南軍の崩壊にあわなければ要衝モガディシオを陥落させたとも言われる人物である。しかし醍醐の視線が隣に立っている楓に動くと急変した。

「これは姫様!申し訳ございません!」 

 突然の醍醐の懺悔に硬直したままその禿かけた頭を見つめる楓。彼女は視線で明石にどうしたら良いか訪ねてくるようなそぶりを見せた。

「ああ、将軍。頭上げてくださいよ。コイツはワシの部隊の代表で来とるだけなんで」 

 明石がそう言っても醍醐は頭を上げようとしない。

「醍醐さん。いつも父上が迷惑をかけています。こんな状況になったのも……」 

「いえ!私の独断で未来ある若者達に危険なことをさせているんです!これは……」 

「醍醐さん!」 

 凛と響く楓の声が本堂に響く。苦笑いを浮かべながら土下座する醍醐を見つめていた同志達はその声に呼び起こされるようにして立ち上がった。

「同志の一人じゃないですか!あくまで我々は胡州の変化を作り出すべく立ち上がったんです!」 

「そうだ!家柄など無意味!」 

「志を持っているんだ、歓迎するよ」 

 彼等はそう言って楓に握手の手を伸ばしてくる。自分の言葉が呼んだ状況だと言うのに戸惑うように明石を見つめた後、それぞれの手に握手を返す楓。

「将軍。頭を上げてください」 

 一通り握手が終わると、楓はまだ頭を垂れている醍醐の肩を叩いた。醍醐はゆっくりと立ち上がり上座に戻って皿の上のスルメを手に取る。

「隊長。これは?」 

 楓は珍しそうにスルメを眺めている。

「ああ、酒のつまみやけど……ああ、ワレはあかんで。酒のつまみやさかい」 

 そう言うと明石は楓からスルメを取り上げて自分の口に運ぶ。

「いいじゃないですか、酒じゃなくてスルメくらいなら」 

 隣の髭面の海軍大尉がそう言って笑った。どちらかと言えば酒で何とか先日のテロへの怒りを静めていると言う血の気の多い面々と比べると一回り上の年齢で落ち着きを感じる姿に明石は好意を持っていた。
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