765 / 1,536
第3章 首都の近景
ボディーガード
しおりを挟む
遼州星系第四惑星『胡州』、その首都である帝都。首都らしく行きかう車と人に戸惑いながら明石は荷物を地面に置くと懐かしい赤い空を見上げた。今から14年前に帝都大学を早期終業し出陣して以来の帝都は明石には活気に満ちているように見えた。芸州や播州のような鬱屈した敗戦国の雰囲気はそこには微塵も残っていなかった。軍の施設から公用車を呼んだ別所は明石をそこに押し込みそのまま黒田に車を運転させて大通りを走る。
「さすがに帝都やな。人もぎょうさんおるわ」
後部座席の窓から街を眺める明石。その前では貴賎、老若、男女を問わず忙しく歩き回る帝都の人々の姿が見えた。
「タコ、これからどこに行くことになると思う?」
いたずらをする子供のような顔で魚住が話しかけてくる。その姿に呆れたような表情で助手席から顔を覗かせる別所。
「なんや、海軍省にでも出頭するんちゃうか?」
明石の言葉に呆れたような顔をする魚住。
「ならなんでタコの私物をトランクに積んだんだ?海軍省にそのまま住み着くつもりか?」
そんな魚住の言葉を聞いて噴出す運転中の黒田。
「おい、監物。言うんじゃねえぞ!面白くないからな!」
だが、車が帝都の中心部ではなくそのまま郊外の屋敷町に入った時点で明石には疑問が頭をもたげた。
「この辺りは近衛師団の先任区域で……でも……近衛の連中は陸軍の管轄や思うとったけど……」
「ぷふっ」
ここに来て我慢できずに黒田が声に出して噴出す。
「気になるのう。どこに向かっとる?」
さすがにおもちゃにされるのもしゃくで明石は助手席の別所のシートを小突いた。
「お前のことを気に入った殿上貴族の方が貴様をボディーガード代わりに下宿させたいんだと。興味深い話だろ?」
別所の言葉で明石の不審は一気に晴れた。この豪勢な貴族の邸宅が続く街。それでも今だ西園寺派、烏丸派の過激派のテロが新聞記事に載らない日は無い状況で明石に一番似合う仕事は用心棒だと自分でも納得できた。
「じゃあ、赤松家か?それとも西園寺……」
「馬鹿だねえ。西園寺家はタコみたいな無粋な輩には居場所がねえよ。赤松様のお屋敷の方だ」
魚住の言葉で行き先が分かると納得して明石はまた外の景色を眺めた。屋敷町らしく警官の姿が多い、人通りも軍港の周りの歓楽街とは違い閑散としている。ただ高級乗用車が猛スピードで行き来する様はこの国の政治が切羽詰った状況にあることを露呈していた。
「裏口から入るからな。黒田、そこの門をくぐれ」
別所の言葉で黒田がハンドルを切る。車の存在を察知して自動的に裏門と呼ぶには大きすぎる門が自動的に開く。
赤松家の裏門。代々西園寺家の傍に仕える名門らしく、裏門とは言え大きな館の玄関前には車止めがあり、庭は手が行き届いて新鮮な緑を明石達に見せた。
「よし、そこでいい」
そのまま車を横付けするように言うと別所は真っ先に車を降りた。
「さすがに帝都やな。人もぎょうさんおるわ」
後部座席の窓から街を眺める明石。その前では貴賎、老若、男女を問わず忙しく歩き回る帝都の人々の姿が見えた。
「タコ、これからどこに行くことになると思う?」
いたずらをする子供のような顔で魚住が話しかけてくる。その姿に呆れたような表情で助手席から顔を覗かせる別所。
「なんや、海軍省にでも出頭するんちゃうか?」
明石の言葉に呆れたような顔をする魚住。
「ならなんでタコの私物をトランクに積んだんだ?海軍省にそのまま住み着くつもりか?」
そんな魚住の言葉を聞いて噴出す運転中の黒田。
「おい、監物。言うんじゃねえぞ!面白くないからな!」
だが、車が帝都の中心部ではなくそのまま郊外の屋敷町に入った時点で明石には疑問が頭をもたげた。
「この辺りは近衛師団の先任区域で……でも……近衛の連中は陸軍の管轄や思うとったけど……」
「ぷふっ」
ここに来て我慢できずに黒田が声に出して噴出す。
「気になるのう。どこに向かっとる?」
さすがにおもちゃにされるのもしゃくで明石は助手席の別所のシートを小突いた。
「お前のことを気に入った殿上貴族の方が貴様をボディーガード代わりに下宿させたいんだと。興味深い話だろ?」
別所の言葉で明石の不審は一気に晴れた。この豪勢な貴族の邸宅が続く街。それでも今だ西園寺派、烏丸派の過激派のテロが新聞記事に載らない日は無い状況で明石に一番似合う仕事は用心棒だと自分でも納得できた。
「じゃあ、赤松家か?それとも西園寺……」
「馬鹿だねえ。西園寺家はタコみたいな無粋な輩には居場所がねえよ。赤松様のお屋敷の方だ」
魚住の言葉で行き先が分かると納得して明石はまた外の景色を眺めた。屋敷町らしく警官の姿が多い、人通りも軍港の周りの歓楽街とは違い閑散としている。ただ高級乗用車が猛スピードで行き来する様はこの国の政治が切羽詰った状況にあることを露呈していた。
「裏口から入るからな。黒田、そこの門をくぐれ」
別所の言葉で黒田がハンドルを切る。車の存在を察知して自動的に裏門と呼ぶには大きすぎる門が自動的に開く。
赤松家の裏門。代々西園寺家の傍に仕える名門らしく、裏門とは言え大きな館の玄関前には車止めがあり、庭は手が行き届いて新鮮な緑を明石達に見せた。
「よし、そこでいい」
そのまま車を横付けするように言うと別所は真っ先に車を降りた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第五部
遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。
訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。
そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。
同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。
こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。
誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。
四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。
そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。
そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』
橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』
いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。
そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。
予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。
誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。
閑話休題的物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅
シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。
探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。
その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。
エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。
この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。
--
プロモーション用の動画を作成しました。
オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
理想世界の創り方
無限キャラ
SF
「あらゆる魂たちにとって最高の世界とはどんな世界だろうか?」
というテーマで新世界の設計図を考えてゆく感じの小説です。「無限世界の無限キャラ」という小説の外伝です。
「空想できることは実現可能である…」という前提で制限を設けないで空想してゆくので、たまに現実離れした話も出てくると思いますが、ご興味のある方はあらゆる世界のあらゆる魂にとって最高最良の世界の設計図とはどんな感じになるのだろうか…というテーマについてご一緒に考えてゆきましょう^^
いわゆる現実の常識だとか、物理法則とか、時空間の束縛……なども全部無視して完全に制限なしで空想してゆくので、空想小説だと思って広い心で楽しめる方だけよろしければ読んでみてくださいませ。
現実完全無視で可能なかぎりあらゆる魂たちにとって最高最良と思える世界をいろいろな角度や視点から描いてみようと思います。
皆様も空想の翼を広げて、ご一緒に理想の新世界の設計図の作成をどうぞよろしくお願いいたします。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる