701 / 1,474
第4章 捜索初日
魔都の飛び地
しおりを挟む
カウラは静かにハンドルを切った。高速道路から降りた車はそのまま走り抜けいつの間にか大きめの国道に入り込んでいた。一台として続く車は無い。そして下りた道路には街灯も無く、周りには明かりが一つとして灯らないビル群が現われた。
「薄気味悪い街ね」
思わずつぶやくアイシャの言葉に誠は自然とうなづいていた。まるで生気のない街。一時期の地球諸国の在遼州諸国に対する国債の償還停止処分でこの近くに巨大な工場を抱えていた製鉄会社が倒産した話を誠は思い出した。
「酷い街。だからこそアタシ等みたいな連中には住みやすい」
かなめはそう言うと窓の外のゴーストタウンを見て笑った。時折見せる、疲れたようなその笑いに誠はどこか彼女が遠くの存在になってしまうように感じられて不安になる。
そのまま車は真っ暗な道を進んだ。時々すれ違う車はどれも地球製の高級車ばかり。明らかに富とは無縁のこの街の景色とは相容れない存在に見えるが誰もそのことを指摘することは無かった。
「そのまま真っ直ぐだ。そして突き当たりを右」
かなめは淡々とそう言うとそのまま窓の景色に視線を飛ばしてしまった。カウラはそんな身勝手に見える要を特にとがめることもなく車を走らせる。
「本当に不気味な街ね……ここって本当に東和?」
皮肉めかしたアイシャの言葉。しかし誰一人その言葉に答えるものは無い。車はそのままヘッドライトの明かりが照らす範囲に突き当たりが見えたところで右にカーブする。
突如その正面にビル群がが現われた。これまでの幽霊ビルとは違う確かに人の気配のする明かりの灯ったビル。そのきらびやかなネオンサインの並ぶビル群は背後の製鉄所の廃墟の中に浮かぶオアシスのように見える。
「まるで魔法ね。ここの住人は何者かしら?まともな神経じゃないのはわかるけど」
再びのアイシャの独り言。誠は目の前の人の気配にようやく安心して呼吸を整えた。車の数が急激に増え、カウラは車の速度を落とす。両脇には明らかに派手なネオン街が広がっている。人通りもそれなりにある。歓楽街といった感じだが、歩く人の姿はどう見ても東都の歓楽街のそれとは違った。
派手な化粧とドレスの女。スーツの男はどう見ても堅気とは思えない鋭い眼光で店の前でタバコをふかしている。
「らしい街だろ?情報屋が隠れ住むには」
かなめはにんまりと笑って生気を帯びた瞳で誠を見つめる。誠は数ヶ月前に初めて訪れた東都の湾岸に浮かぶ租界を思い出していた。
ここは確かに租界によく似ていた。街を歩く人間はすべてアウトローを気取り、ネオンの下の女達は退廃的なけだるい表情で周りを見回す。あえて租界とこの街の違いを述べるとすれば、租界にいた同盟機構から派遣された兵士達の代わりに黒い背広の男達が街のブロックの角ごとに立っていることくらいだった。
「かなりやばそうな人がいるわね……かなめちゃんのお友達?」
「友達になれるかどうかはこれ次第だな」
アイシャの皮肉にかなめはバッグを叩いた。カウラが乾いた笑みを浮かべるとそのままゆっくりとヨーロッパ製の高級車の停まる酒場の前で車を止めた。
「ここか?」
カウラの言葉にかなめは静かにうなづいた。
「面倒な事にならなければいいけど……」
助手席を跳ね上げ、皮肉混じりの笑みを浮かべながらアイシャが降りる。続いて降り立ったかなめは、にやけながら胸のポケットからタバコを取り出して火をつける。誠もまたアイシャの後に続いて淫猥な雰囲気が漂う街に静かに降り立つことになった。
ビルの階下につながる階段の周りには黒い背広の男が数人雑談をしている。そしてその手が時々左の胸に触ることがあるのを誠は見逃さなかった。
「黙っていろ……この町の主人公達に嫌われたくないだろ?」
それと無い笑みを浮かべながらかなめがつぶやく。カウラも明らかに顔を顰めてそのまま男達の脇を通り抜けて階段を下り始めた。
「東和は民間人の銃の所持は禁止されているはずだがな」
「なに、どこにでも例外はあるものさ」
カウラの皮肉にもかなめは動ずることなくそのまま階段を下りきって街のごちゃごちゃした猥雑な空間とは無縁な洒落た雰囲気の踊り場からバーの重い扉を開いて店に入る。
ピアノの演奏が心地よく響く空間。薄暗い明かりの中に客の姿はまばらだった。街を闊歩していた淫猥な雰囲気の男女とは少し毛色の違うどちらかと言えば上流階級にも見えそうな落ち着いた雰囲気のカップルの客が数人静かに談笑している。
カウンターでは初老の物腰の柔らかそうなバーテンが穏やかな表情でシェイカーを振っている。
「外の下卑た風景とは別世界……と言うところかしら。かなめちゃんの言うこの町の主人公がいる場所ってことね」
アイシャがバーと呼ぶには広い店の中を見渡しながらつぶやいた。かなめは迷うことなく奥のボックス席を目指す。
「ここだ……とりあえず水割り三つとコーラ。当然モノはジュラの24年もので」
「ジュラねえ……私はスコッチはどうも」
「贅沢言うな、アタシの奢りだ」
そう言うとかなめはどっかりとシートに腰を下ろした。遠慮がちにアイシャはカウラとかなめを挟むようにして座ることになった。仕方なく誠はその正面に座る。
「さてそのお金を受け取るのは誰かしら?」
去っていくウェイターを見送りながらアイシャは不敵な笑みを浮かべつつかなめの手にあるボストンバックを指さした。
「薄気味悪い街ね」
思わずつぶやくアイシャの言葉に誠は自然とうなづいていた。まるで生気のない街。一時期の地球諸国の在遼州諸国に対する国債の償還停止処分でこの近くに巨大な工場を抱えていた製鉄会社が倒産した話を誠は思い出した。
「酷い街。だからこそアタシ等みたいな連中には住みやすい」
かなめはそう言うと窓の外のゴーストタウンを見て笑った。時折見せる、疲れたようなその笑いに誠はどこか彼女が遠くの存在になってしまうように感じられて不安になる。
そのまま車は真っ暗な道を進んだ。時々すれ違う車はどれも地球製の高級車ばかり。明らかに富とは無縁のこの街の景色とは相容れない存在に見えるが誰もそのことを指摘することは無かった。
「そのまま真っ直ぐだ。そして突き当たりを右」
かなめは淡々とそう言うとそのまま窓の景色に視線を飛ばしてしまった。カウラはそんな身勝手に見える要を特にとがめることもなく車を走らせる。
「本当に不気味な街ね……ここって本当に東和?」
皮肉めかしたアイシャの言葉。しかし誰一人その言葉に答えるものは無い。車はそのままヘッドライトの明かりが照らす範囲に突き当たりが見えたところで右にカーブする。
突如その正面にビル群がが現われた。これまでの幽霊ビルとは違う確かに人の気配のする明かりの灯ったビル。そのきらびやかなネオンサインの並ぶビル群は背後の製鉄所の廃墟の中に浮かぶオアシスのように見える。
「まるで魔法ね。ここの住人は何者かしら?まともな神経じゃないのはわかるけど」
再びのアイシャの独り言。誠は目の前の人の気配にようやく安心して呼吸を整えた。車の数が急激に増え、カウラは車の速度を落とす。両脇には明らかに派手なネオン街が広がっている。人通りもそれなりにある。歓楽街といった感じだが、歩く人の姿はどう見ても東都の歓楽街のそれとは違った。
派手な化粧とドレスの女。スーツの男はどう見ても堅気とは思えない鋭い眼光で店の前でタバコをふかしている。
「らしい街だろ?情報屋が隠れ住むには」
かなめはにんまりと笑って生気を帯びた瞳で誠を見つめる。誠は数ヶ月前に初めて訪れた東都の湾岸に浮かぶ租界を思い出していた。
ここは確かに租界によく似ていた。街を歩く人間はすべてアウトローを気取り、ネオンの下の女達は退廃的なけだるい表情で周りを見回す。あえて租界とこの街の違いを述べるとすれば、租界にいた同盟機構から派遣された兵士達の代わりに黒い背広の男達が街のブロックの角ごとに立っていることくらいだった。
「かなりやばそうな人がいるわね……かなめちゃんのお友達?」
「友達になれるかどうかはこれ次第だな」
アイシャの皮肉にかなめはバッグを叩いた。カウラが乾いた笑みを浮かべるとそのままゆっくりとヨーロッパ製の高級車の停まる酒場の前で車を止めた。
「ここか?」
カウラの言葉にかなめは静かにうなづいた。
「面倒な事にならなければいいけど……」
助手席を跳ね上げ、皮肉混じりの笑みを浮かべながらアイシャが降りる。続いて降り立ったかなめは、にやけながら胸のポケットからタバコを取り出して火をつける。誠もまたアイシャの後に続いて淫猥な雰囲気が漂う街に静かに降り立つことになった。
ビルの階下につながる階段の周りには黒い背広の男が数人雑談をしている。そしてその手が時々左の胸に触ることがあるのを誠は見逃さなかった。
「黙っていろ……この町の主人公達に嫌われたくないだろ?」
それと無い笑みを浮かべながらかなめがつぶやく。カウラも明らかに顔を顰めてそのまま男達の脇を通り抜けて階段を下り始めた。
「東和は民間人の銃の所持は禁止されているはずだがな」
「なに、どこにでも例外はあるものさ」
カウラの皮肉にもかなめは動ずることなくそのまま階段を下りきって街のごちゃごちゃした猥雑な空間とは無縁な洒落た雰囲気の踊り場からバーの重い扉を開いて店に入る。
ピアノの演奏が心地よく響く空間。薄暗い明かりの中に客の姿はまばらだった。街を闊歩していた淫猥な雰囲気の男女とは少し毛色の違うどちらかと言えば上流階級にも見えそうな落ち着いた雰囲気のカップルの客が数人静かに談笑している。
カウンターでは初老の物腰の柔らかそうなバーテンが穏やかな表情でシェイカーを振っている。
「外の下卑た風景とは別世界……と言うところかしら。かなめちゃんの言うこの町の主人公がいる場所ってことね」
アイシャがバーと呼ぶには広い店の中を見渡しながらつぶやいた。かなめは迷うことなく奥のボックス席を目指す。
「ここだ……とりあえず水割り三つとコーラ。当然モノはジュラの24年もので」
「ジュラねえ……私はスコッチはどうも」
「贅沢言うな、アタシの奢りだ」
そう言うとかなめはどっかりとシートに腰を下ろした。遠慮がちにアイシャはカウラとかなめを挟むようにして座ることになった。仕方なく誠はその正面に座る。
「さてそのお金を受け取るのは誰かしら?」
去っていくウェイターを見送りながらアイシャは不敵な笑みを浮かべつつかなめの手にあるボストンバックを指さした。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる