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第3章 懲戒
停職
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司法局実働部隊隊長室の椅子に体を沈めていた嵯峨惟基特務大佐が大きなため息をついた。
彼の目の前の机には組み立て途中の拳銃の部品が散らかっているのはいつものことだ。誠はただそれを見ながら嵯峨の片付けられない性格を思い出して何とか気を楽にしようとしたが、そのなんとも悲しそうな瞳を見ると何も考えることが出来ずにただ黙り込んだ。
「あのさあ。俺達の仕事は警察の手に負えない超国家犯罪に対応すると言うのが建前なんだよね……」
嵯峨は気がついたというように拳銃の銃身を手にを伸ばす。誠のとなりではかなめがめんどくさそうに大きなあくびをしていた。
「それがだ……東都警察のお世話になるのが……これで何回目だ?」
そう言って再び嵯峨は大きくため息をついた。カウラは一人直立不動で正面に立ってじっと嵯峨を見つめている。不満そうなかなめとアイシャ。いつでも反論してやろうと睨みをきかせる二人になんとか黙っていてくれと祈りながら誠は胃を押さえて立ち尽くしていた。
「特にクラウゼ……お前さんはこれからしばらく運行部の25人をまとめなきゃならないわけだ……自覚あるの?」
「今回は吉田少佐の策にはまったんです!正面の家に監視を頼むなんて……」
「ばれなきゃ良いってもんじゃないだろ?まあお前さん達が吉田の野郎の策にハマったのは事実だけどさ……俺にも立場ってもんがあるんだよ」
泣き言のようないつもの嵯峨の言葉に誠は隣のかなめの表情をうかがった。口元を緩めていつでも嵯峨に噛み付く準備は出来ているようだった。警察への通報は吉田自身によるものだと分かっているのに、吉田の足取りはさっぱりつかめなかった。その鬱憤を叔父である嵯峨にぶつけて晴らそうというかなめの表情に誠の胃がきりきり痛む。
誠は黙って隊長の執務机の隣に立つ小柄に過ぎる実働部隊長クバルカ・ラン中佐の表情をうかがった。こちらと言えばあきれ果てたという表情。その多少寝不足のような表情からかなめとアイシャがいくら騒いでも四人の処分は決まっていることが誠にも察しられた。
「先月の違法法術発動事件の時に散々豊川署の面々を挑発しただろ?おかげですっかり東都警察は俺達を敵扱いだ。今回だって俺に直接本庁まで出て来いって話まで来た」
「応じたのか?」
「俺達は同盟機構直属の機関だぞ?これで俺が出て行ったらいつでも俺達は頭を下げると舐められるからな……お前等を買っている親身な中佐殿の土下座外交のおかげで、マスコミ対策付きでなんとか話を付けてきたんだ。感謝しろよ……部下思いの中佐殿に」
嵯峨は隣に立つランに目を向ける。ランはただ黙ってカウラの方を眺めるだけだった。その口元に浮かぶ不器用な笑みはおそらくは相当な激しいやりとりがあっただろうと言うことは誠にも想像がつく。
「しかし、オメエ等もついてないな。あのオメエ等を通報したのは東都警察のお偉いさんの奥方様だそうだ」
「それがどうしたってんだよ!」
待ってましたとばかりにかなめが叫ぶ。アイシャはその肩に手を伸ばすと直立不動の姿勢で状況を眺めているカウラに目をやる。
「はいはい、かなめちゃんはそこまで。カウラちゃん。とりあえずこの場の反省の言葉……お願いね」
「反省の言葉?確かに自分達の行動が法に反していたのは事実ですがあくまで私的な行動ですし……その私的な行動にこういった反応をするのはいかがなものかと……」
アイシャがしまったというような表情を作ったのを見て、誠はアイシャがカウラの性格を読み間違えたことに気が付いた。カウラはこういうときは正論をぶつけるタイプである。本質的に事なかれ主義の嵯峨の配慮を無視するだろうと言うことは最初からわかっていたはずだった。
「そりゃあ理屈はそうだがね。世の中真っ当な意見が通る事なんてほとんど無いんだから……司法局本局に明石達管理スタッフも直接は言わねえが、報告書を送る度にオメエ等の処分はまだかって言葉の終わりにつけやがる」
「処分?うちの内部の話だろ?これもすべて吉田の馬鹿が……」
「黙れ!西園寺!」
それまで黙っていたランの激しい言葉にさすがのかなめも口をつぐんだ。ランの表情は先ほどと変わらず厳しい。再び沈黙が司法局実働部隊隊長室を支配する。
「北上川町で住居不法侵入……他の街ならまだしもあそこは止めて欲しかったんだよな……俺の本音を言うとね。でもまあ……お前等も吉田探し……続けたいだろ?」
嵯峨が不気味な笑みを浮かべた。誠はその舌なめずりでも始めそうな表情を見て明らかに嫌な予感がするのを感じていた。
「吉田少佐殿の捜索を……続ける?」
カウラは嵯峨の言葉の意味が分からずに首をひねった。かなめとアイシャは大きくうなづいた。
「テメー等は二週間の停職だ。この意味……分かるな?」
厳しい表情のランの口から放たれた言葉に誠はただ呆然としていた。停職はさすがに初めてである。当然のことながら謹慎の時もそうだがその間の給料は天引きされる。誠は思い出せば配属以来まともな給料が支給されたことが無い事に気づいた。
「停職?」
「そう、これで心置きなくあのイカレ電卓を探せるだろ?それに来月頭に第2惑星旧資源加工コロニー跡地で演習やるから。それまでに納得できる結論を出せ!それとも寮でうじうじといじけるか?」
「探します!」
ランの言葉にアイシャが食ってかかる。かなめも天井を向いて何か策でも考えているように見えた。
「停職……圧力ですか?」
冷静なのはカウラ一人だった。嵯峨はその言葉にしばらくランの顔を見た後、腕を頭の後ろに回しながらつぶやきを始める。
「まあね……東都警察はもううちを天敵扱いだからな。何かって言うとやれ証拠がどうだだの、捜査方法の遵法性に問題があるだの……この前の水島とか言う法術師なんだけどさ。結構いい弁護士がついてね……どこから金が出てるのか知らないけど」
「金の出所は米軍だろ?あの時の重武装のサイボーグ。他のどこがあんなの作れるんだよ。まあ直接金を出せば東和の法務省ががなり立てるだろうからダミー会社か人権がらみのNGOでも装って金出してるんだろ」
かなめの自分を真似をしたような言葉に嵯峨はとりあえず頭を掻く。
「うちは全部報告書にまとめて送ってるから義務は果たしているわけだが……そもそも直接の捜査権のないうちが捜査に噛んだことを弁護士が相当突き上げてるみたいでね。東都地検はそのことで攻め手が見つけられなくて……まあ俺達のせいじゃないが、検察としては順序ってものがあるだろうと……こんな強引な逮捕はやめてくれと、これからはおんなじ捜査方式なら犯人の起訴は出来かねると言われたよ」
「ケツの穴の小さい連中だな。物的証拠と自白でなんとでもできるだろうが」
「裁判屋さんなんてみんなそんなもんでしょ。知らなかったの?かなめちゃん」
冷やかすアイシャにかなめが鋭い視線を向ける。嵯峨はとりあえず言うことは言い終わったとそのまま手を机の上の組みかけの拳銃に手を伸ばした。
「じゃあ荷物まとめて寮に帰って良いから。あと吉田の足取りがつかめたら報告してね」
「やなこった!」
気楽につぶやく叔父に頭に来たと言うように吐き捨てるとかなめは敬礼もせずにそのまま部屋を出ていった。カウラの敬礼を見て我に返った誠とアイシャはとりあえずの敬礼をして部屋を後にする。
「どうするの?」
挑発的なアイシャの言葉にかなめの顔はすでに笑みに支配されていた。
「叔父貴がまだ掴んでない情報だ。鼻を明かしてやろうじゃねえか!」
にんまりと笑いながらかなめが叫んだ。その様子を見て誠はこれからさらに面倒な事になりそうだと言うことで頭を抱えて詰め所への道を歩き出した。
彼の目の前の机には組み立て途中の拳銃の部品が散らかっているのはいつものことだ。誠はただそれを見ながら嵯峨の片付けられない性格を思い出して何とか気を楽にしようとしたが、そのなんとも悲しそうな瞳を見ると何も考えることが出来ずにただ黙り込んだ。
「あのさあ。俺達の仕事は警察の手に負えない超国家犯罪に対応すると言うのが建前なんだよね……」
嵯峨は気がついたというように拳銃の銃身を手にを伸ばす。誠のとなりではかなめがめんどくさそうに大きなあくびをしていた。
「それがだ……東都警察のお世話になるのが……これで何回目だ?」
そう言って再び嵯峨は大きくため息をついた。カウラは一人直立不動で正面に立ってじっと嵯峨を見つめている。不満そうなかなめとアイシャ。いつでも反論してやろうと睨みをきかせる二人になんとか黙っていてくれと祈りながら誠は胃を押さえて立ち尽くしていた。
「特にクラウゼ……お前さんはこれからしばらく運行部の25人をまとめなきゃならないわけだ……自覚あるの?」
「今回は吉田少佐の策にはまったんです!正面の家に監視を頼むなんて……」
「ばれなきゃ良いってもんじゃないだろ?まあお前さん達が吉田の野郎の策にハマったのは事実だけどさ……俺にも立場ってもんがあるんだよ」
泣き言のようないつもの嵯峨の言葉に誠は隣のかなめの表情をうかがった。口元を緩めていつでも嵯峨に噛み付く準備は出来ているようだった。警察への通報は吉田自身によるものだと分かっているのに、吉田の足取りはさっぱりつかめなかった。その鬱憤を叔父である嵯峨にぶつけて晴らそうというかなめの表情に誠の胃がきりきり痛む。
誠は黙って隊長の執務机の隣に立つ小柄に過ぎる実働部隊長クバルカ・ラン中佐の表情をうかがった。こちらと言えばあきれ果てたという表情。その多少寝不足のような表情からかなめとアイシャがいくら騒いでも四人の処分は決まっていることが誠にも察しられた。
「先月の違法法術発動事件の時に散々豊川署の面々を挑発しただろ?おかげですっかり東都警察は俺達を敵扱いだ。今回だって俺に直接本庁まで出て来いって話まで来た」
「応じたのか?」
「俺達は同盟機構直属の機関だぞ?これで俺が出て行ったらいつでも俺達は頭を下げると舐められるからな……お前等を買っている親身な中佐殿の土下座外交のおかげで、マスコミ対策付きでなんとか話を付けてきたんだ。感謝しろよ……部下思いの中佐殿に」
嵯峨は隣に立つランに目を向ける。ランはただ黙ってカウラの方を眺めるだけだった。その口元に浮かぶ不器用な笑みはおそらくは相当な激しいやりとりがあっただろうと言うことは誠にも想像がつく。
「しかし、オメエ等もついてないな。あのオメエ等を通報したのは東都警察のお偉いさんの奥方様だそうだ」
「それがどうしたってんだよ!」
待ってましたとばかりにかなめが叫ぶ。アイシャはその肩に手を伸ばすと直立不動の姿勢で状況を眺めているカウラに目をやる。
「はいはい、かなめちゃんはそこまで。カウラちゃん。とりあえずこの場の反省の言葉……お願いね」
「反省の言葉?確かに自分達の行動が法に反していたのは事実ですがあくまで私的な行動ですし……その私的な行動にこういった反応をするのはいかがなものかと……」
アイシャがしまったというような表情を作ったのを見て、誠はアイシャがカウラの性格を読み間違えたことに気が付いた。カウラはこういうときは正論をぶつけるタイプである。本質的に事なかれ主義の嵯峨の配慮を無視するだろうと言うことは最初からわかっていたはずだった。
「そりゃあ理屈はそうだがね。世の中真っ当な意見が通る事なんてほとんど無いんだから……司法局本局に明石達管理スタッフも直接は言わねえが、報告書を送る度にオメエ等の処分はまだかって言葉の終わりにつけやがる」
「処分?うちの内部の話だろ?これもすべて吉田の馬鹿が……」
「黙れ!西園寺!」
それまで黙っていたランの激しい言葉にさすがのかなめも口をつぐんだ。ランの表情は先ほどと変わらず厳しい。再び沈黙が司法局実働部隊隊長室を支配する。
「北上川町で住居不法侵入……他の街ならまだしもあそこは止めて欲しかったんだよな……俺の本音を言うとね。でもまあ……お前等も吉田探し……続けたいだろ?」
嵯峨が不気味な笑みを浮かべた。誠はその舌なめずりでも始めそうな表情を見て明らかに嫌な予感がするのを感じていた。
「吉田少佐殿の捜索を……続ける?」
カウラは嵯峨の言葉の意味が分からずに首をひねった。かなめとアイシャは大きくうなづいた。
「テメー等は二週間の停職だ。この意味……分かるな?」
厳しい表情のランの口から放たれた言葉に誠はただ呆然としていた。停職はさすがに初めてである。当然のことながら謹慎の時もそうだがその間の給料は天引きされる。誠は思い出せば配属以来まともな給料が支給されたことが無い事に気づいた。
「停職?」
「そう、これで心置きなくあのイカレ電卓を探せるだろ?それに来月頭に第2惑星旧資源加工コロニー跡地で演習やるから。それまでに納得できる結論を出せ!それとも寮でうじうじといじけるか?」
「探します!」
ランの言葉にアイシャが食ってかかる。かなめも天井を向いて何か策でも考えているように見えた。
「停職……圧力ですか?」
冷静なのはカウラ一人だった。嵯峨はその言葉にしばらくランの顔を見た後、腕を頭の後ろに回しながらつぶやきを始める。
「まあね……東都警察はもううちを天敵扱いだからな。何かって言うとやれ証拠がどうだだの、捜査方法の遵法性に問題があるだの……この前の水島とか言う法術師なんだけどさ。結構いい弁護士がついてね……どこから金が出てるのか知らないけど」
「金の出所は米軍だろ?あの時の重武装のサイボーグ。他のどこがあんなの作れるんだよ。まあ直接金を出せば東和の法務省ががなり立てるだろうからダミー会社か人権がらみのNGOでも装って金出してるんだろ」
かなめの自分を真似をしたような言葉に嵯峨はとりあえず頭を掻く。
「うちは全部報告書にまとめて送ってるから義務は果たしているわけだが……そもそも直接の捜査権のないうちが捜査に噛んだことを弁護士が相当突き上げてるみたいでね。東都地検はそのことで攻め手が見つけられなくて……まあ俺達のせいじゃないが、検察としては順序ってものがあるだろうと……こんな強引な逮捕はやめてくれと、これからはおんなじ捜査方式なら犯人の起訴は出来かねると言われたよ」
「ケツの穴の小さい連中だな。物的証拠と自白でなんとでもできるだろうが」
「裁判屋さんなんてみんなそんなもんでしょ。知らなかったの?かなめちゃん」
冷やかすアイシャにかなめが鋭い視線を向ける。嵯峨はとりあえず言うことは言い終わったとそのまま手を机の上の組みかけの拳銃に手を伸ばした。
「じゃあ荷物まとめて寮に帰って良いから。あと吉田の足取りがつかめたら報告してね」
「やなこった!」
気楽につぶやく叔父に頭に来たと言うように吐き捨てるとかなめは敬礼もせずにそのまま部屋を出ていった。カウラの敬礼を見て我に返った誠とアイシャはとりあえずの敬礼をして部屋を後にする。
「どうするの?」
挑発的なアイシャの言葉にかなめの顔はすでに笑みに支配されていた。
「叔父貴がまだ掴んでない情報だ。鼻を明かしてやろうじゃねえか!」
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