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第9章 飲み会

佳境

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「エイひれお待ち!」 

 誠がお盆を持って現われる。誠は慣れた手つきで次々と鉄板の横のスペースに皿を並べる。

「ずいぶん慣れたね誠ちゃんも」 

「まあこういう生活長いですから」 

 こちらもまた疲れたような表情。菰田とソンは下のマリア達を接待しているようで二階に上がってくるそぶりすらない。

「あとは私がやるから。誠ちゃんは飲んでて」 

 シャムの提案に一瞬不審そうな顔をする誠。思わずシャムは口をとがらせて彼からお盆をひったくるとそのまま階段を駆け下りた。

「あ、師匠。ありがとうございます」 

 カウンターでビールを運ぼうとしていた小夏がシャムに声をかける。四人がけのテーブルには金髪のマリアが警備部の古参の士官達とちびちびと酒を飲んでいるところだった。

「シャムか。上は相変わらずみたいだな」 

 笑顔のマリアの声に直属の部下達も興味深そうにシャムを見つめている。

「まあいつものことだから」 

「休めるときは休むのがこの業界のしきたりだ。一度ことが起こればもう取り返しがつかないからな」

 厳しい口調のマリアに周りが凍り付くような気配を感じた。幸い他の客はいなかった。

 シャムはマリアのことは好きだが、どうもこの不意に訪れる緊張感というものに耐えきれない。ただ愛想笑いを浮かべて周りを見渡す。

「そう言えば菰田君達は?」 

 シャムの言葉にマリアは首をひねる。その時小夏がシャムの肩を叩いた。

「逃げましたよ、アイツ等なら。どうせまたぐだぐだになるなら巻き込まれたくないっていった感じで……」 

 そんな小夏の告げ口にシャムは大きくため息をついた。

「そんなだからカウラちゃんに嫌われるんだよ。写真を部屋に飾って喜ぶのが好きってことじゃないぞ!」 

「おう、シャム。いいことを言うじゃないか」 

 テーブルに肘をつきながらマリアはショットグラスをちらつかせる。シャムもそんなほろ酔いのマリアは美しいといつでも思っている。

「そうだよ、だっていつも好きだ好きだって言ってるくせに本人の前では堅くなっちゃって……かと思えば誠ちゃんに嫌がらせをしたりとか……本当に卑怯だよ」 

「まあ卑怯ついでなら神前の奴も相当な卑怯者だと思うがな」 

 マリアの言葉にマリアが故郷の第六惑星系連邦の独立戦争に参加してきたときから付き従っている猛者達も大きくうなづく。

「誠ちゃんが卑怯?」 

 今ひとつ言葉の意味が分からずにシャムは首をひねった。そんなシャムをからかうような笑みを浮かべた後、マリアは軽く手にしていたショットグラスの中のウォッカを煽った。

「そうじゃないか。カウラが常に自分のことを気にしているのにそれに誠実に応えるようなところは見えないじゃないか。西園寺のへそ曲がりやアイシャの馬鹿とは違って見たまんま本気で自分に関心がある女に何も応えないのは誠実と言えるか?」 

 シャムはマリアの少し上から見ているような視線に戸惑いながらしばらくその言葉の意味を考えていた。

「確かにカウラちゃんが一番普通に誠ちゃんのことが好きみたいだけどね」 

「そう思うだろ?」 

 上機嫌でマリアは自分の名前の書かれたウォッカの瓶を傾ける。

 シャムも三人とも誠を嫌いでは無いことは分かっている。でも誰を応援したいと言うことは特になかった。かなめは一緒に騒ぐのにはいいが本心で自分と騒いでくれているのか微妙なところがあると感じていた。アイシャも自分の人造人間という生まれを必死に克服しようとしすぎていてその為に誠を利用しているのではないかと感じることもあった。

 だがカウラはまだ培養液から出て8年しか経っていない最終ロットの人造人間だった。アイシャのような余裕は無いし、かなめほどすれてもいない。

 マリアはそんなところでカウラを気に入っているのだろうか。そんな疑問を感じながらしばらくカウンターの前で立ち尽くしていた。

『脱げ!ほら神前!脱げ!』 

 かなめの叫び声が響く。

「いよいよ佳境と言うところかな」 

 マリアの口元に皮肉を込めた笑みが浮かぶ。シャムはどうにも情けない出来事にただ照れ笑いを浮かべるだけだった。
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