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第8章 仕事終わりに
監督
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「早くしろよ!馬鹿野郎!」
マウンド付近で叫んでいるのはかなめだった。監督だということで試合用のユニフォームを着込んでいる。
「行きますか……」
シャムはそう言うと走り出した。カウラ達も後に続く。すでに他の部員達はキャッチボールを始めていた。技術部の面々は今日はエンジン交換作業でこのまま徹夜に突入するのだろう。さすがに俊足の外野手である島田の姿はそこには無い。
「あ、ベルガー大尉」
ファースト付近に達したシャム達を笑顔で迎える菰田。一応、彼も野球部の部員でレギュラー。ライトの守備を任されている。
「おい!菰田!鼻の下伸ばしている暇があったら、ソンと一緒に遠投でもやってろ!」
かなめの檄が飛ぶ。シャムは再びマウンドの用具入れに向かった。
「ミットはタコがメンテしてくれたからな。感謝しとけよ。とりあえずカウラは久々にタコに受けてもらえ。シャムとサラはキャッチボールでアップ」
用具入れの上に並んでいたグラブをそれぞれに手にする。シャムも自分の大き目のグラブに滑らかに光る表面を見ると笑顔でホームベース付近で話し合っている明石と岡部に頭を下げた。
「サラ、始めるよ」
シャムはそう言うと自分のポジションのショートの守備位置に走った。サラも定位置のセカンドに走る。
「やっぱり暗いね」
サラがそう言いながらポールを投げてくる。動きながらそのボールを掴むとランニングスローの要領でシャムは投げ返す。
「仕方ないよ。専用グラウンドととりあえずの照明があるだけましでしょ」
シャムの愚痴を聞きながらボールを受け取るサラ。彼女もシャムを真似て少しサイド気味に送球のつもりでボールを投げる。
「お前等!遊んでるんじゃねえぞ!やるなら神前も入れてやれ!」
かなめの声にシャム達はファーストに目をやる。そこには右手にファーストミットを構える誠の姿があった。
「誠ちゃん!投球練習はいいの?」
シャムに言われて誠は少しばかり落ち込んだようにマウンドの上のかなめを見ていた。
「出ると負けのピッチャーはいいんだよ!」
苛立たしげにマウンドの横の用具入れを押しながらかなめが叫ぶ。そんなかなめの横にはいつの間にか明石の巨体が並んでいた。
「な……なんだよ」
「ええから、な?神前!久しぶりに受けさしてくれや」
ミットを叩きながら叫ぶ明石。神前はしばらく立ち尽くした後、諦めたようにため息をつくかなめを見るとそのままマウンドに上がった。
シャムとサラはその誠の後姿を眺めていた。
明らかに自信はそこには無かった。186cmの長身がどこと無く小さく見える。マスクを付けてすでに構えを始めている明石。だが明らかに誠は投げたくないというようにしばらく手にしたボールを弄っていた。
「はよ投げんかいな」
そんな明石の声でようやく誠はセットに入る。
「構えが小さく見えるね」
シャムはサラに思わずそう言っていた。サラもうなづく。豊川市社会人リーグの第一戦の時に見たどこと無くおびえた誠の姿がそこにあった。
振りかぶる。その動きはかつての誠と違いは無いように見える。だがシャムにはこのピッチャーなら打てるというような直感が働く躍動感の欠けたモーションだった。
左腕がしなりボールが放たれ、ストレートが明石のミットにズバリと収まる。
「ああ、とりあえずキャッチボールからしようや」
ボールを投げ返しながらの明石の言葉。誠はまるで責苦から開放されたとでも言うようにそのままマスクを投げ捨てた明石に続いてマウンドを降りていった。
「やっぱり重症かな」
シャムはそう言うとサラにボールをトスした。突然のことだがさすがに人造人間で反射神経に優れているサラは何とかそのボールを受け取った。
「どうしてああなっちゃったのかなあ……」
サラが下がりながらボールをシャムに投げる。シャムはただ首を振るだけ。
シャムも誠の不調は受けるのが岡部のリードがカウラに合わせて強気一辺倒に変わったからだと思っていた。しかし肩が温まってはいないとはいえ、マウンドに上がる時点で誠の投球には期待ができないのが見て取れたところからそれが原因でないことは明らかにわかった。
「たぶん本人も分かってないんじゃないかな、原因は。今までは岡部さんのリードと相性が悪いからだと思っていただろうけど……あれほどびくびくして投げてるなんて……」
サラはシャムからのボールを受け取りながらつぶやく。
すでに日は西に沈んでいた。照明の明かりだけがグラウンドに光をともしている。
「おーい、内野の面子は集まれ!」
ホームベースにはいつの間にかバットを持ったかなめが立っていた。彼女の隣には箱が置かれている。
「ノックだね」
シャムはそう言うとそのままかなめのところに走り出した。
まずサラとシャムが集まる。そして嵯峨の代わりにファーストの守備を担当する警備部の工兵のヤコブ・ラビン伍長がたどり着いた。
「他の面子は?」
いらだっているかなめの声に三人は顔を見合わせた。
「めんどくさいの」
「サラ!何か言ったか?」
「いえいえ何でもございません監督殿」
サラは半分ふざけてかなめのにらみつける視線をやり過ごした。
マウンド付近で叫んでいるのはかなめだった。監督だということで試合用のユニフォームを着込んでいる。
「行きますか……」
シャムはそう言うと走り出した。カウラ達も後に続く。すでに他の部員達はキャッチボールを始めていた。技術部の面々は今日はエンジン交換作業でこのまま徹夜に突入するのだろう。さすがに俊足の外野手である島田の姿はそこには無い。
「あ、ベルガー大尉」
ファースト付近に達したシャム達を笑顔で迎える菰田。一応、彼も野球部の部員でレギュラー。ライトの守備を任されている。
「おい!菰田!鼻の下伸ばしている暇があったら、ソンと一緒に遠投でもやってろ!」
かなめの檄が飛ぶ。シャムは再びマウンドの用具入れに向かった。
「ミットはタコがメンテしてくれたからな。感謝しとけよ。とりあえずカウラは久々にタコに受けてもらえ。シャムとサラはキャッチボールでアップ」
用具入れの上に並んでいたグラブをそれぞれに手にする。シャムも自分の大き目のグラブに滑らかに光る表面を見ると笑顔でホームベース付近で話し合っている明石と岡部に頭を下げた。
「サラ、始めるよ」
シャムはそう言うと自分のポジションのショートの守備位置に走った。サラも定位置のセカンドに走る。
「やっぱり暗いね」
サラがそう言いながらポールを投げてくる。動きながらそのボールを掴むとランニングスローの要領でシャムは投げ返す。
「仕方ないよ。専用グラウンドととりあえずの照明があるだけましでしょ」
シャムの愚痴を聞きながらボールを受け取るサラ。彼女もシャムを真似て少しサイド気味に送球のつもりでボールを投げる。
「お前等!遊んでるんじゃねえぞ!やるなら神前も入れてやれ!」
かなめの声にシャム達はファーストに目をやる。そこには右手にファーストミットを構える誠の姿があった。
「誠ちゃん!投球練習はいいの?」
シャムに言われて誠は少しばかり落ち込んだようにマウンドの上のかなめを見ていた。
「出ると負けのピッチャーはいいんだよ!」
苛立たしげにマウンドの横の用具入れを押しながらかなめが叫ぶ。そんなかなめの横にはいつの間にか明石の巨体が並んでいた。
「な……なんだよ」
「ええから、な?神前!久しぶりに受けさしてくれや」
ミットを叩きながら叫ぶ明石。神前はしばらく立ち尽くした後、諦めたようにため息をつくかなめを見るとそのままマウンドに上がった。
シャムとサラはその誠の後姿を眺めていた。
明らかに自信はそこには無かった。186cmの長身がどこと無く小さく見える。マスクを付けてすでに構えを始めている明石。だが明らかに誠は投げたくないというようにしばらく手にしたボールを弄っていた。
「はよ投げんかいな」
そんな明石の声でようやく誠はセットに入る。
「構えが小さく見えるね」
シャムはサラに思わずそう言っていた。サラもうなづく。豊川市社会人リーグの第一戦の時に見たどこと無くおびえた誠の姿がそこにあった。
振りかぶる。その動きはかつての誠と違いは無いように見える。だがシャムにはこのピッチャーなら打てるというような直感が働く躍動感の欠けたモーションだった。
左腕がしなりボールが放たれ、ストレートが明石のミットにズバリと収まる。
「ああ、とりあえずキャッチボールからしようや」
ボールを投げ返しながらの明石の言葉。誠はまるで責苦から開放されたとでも言うようにそのままマスクを投げ捨てた明石に続いてマウンドを降りていった。
「やっぱり重症かな」
シャムはそう言うとサラにボールをトスした。突然のことだがさすがに人造人間で反射神経に優れているサラは何とかそのボールを受け取った。
「どうしてああなっちゃったのかなあ……」
サラが下がりながらボールをシャムに投げる。シャムはただ首を振るだけ。
シャムも誠の不調は受けるのが岡部のリードがカウラに合わせて強気一辺倒に変わったからだと思っていた。しかし肩が温まってはいないとはいえ、マウンドに上がる時点で誠の投球には期待ができないのが見て取れたところからそれが原因でないことは明らかにわかった。
「たぶん本人も分かってないんじゃないかな、原因は。今までは岡部さんのリードと相性が悪いからだと思っていただろうけど……あれほどびくびくして投げてるなんて……」
サラはシャムからのボールを受け取りながらつぶやく。
すでに日は西に沈んでいた。照明の明かりだけがグラウンドに光をともしている。
「おーい、内野の面子は集まれ!」
ホームベースにはいつの間にかバットを持ったかなめが立っていた。彼女の隣には箱が置かれている。
「ノックだね」
シャムはそう言うとそのままかなめのところに走り出した。
まずサラとシャムが集まる。そして嵯峨の代わりにファーストの守備を担当する警備部の工兵のヤコブ・ラビン伍長がたどり着いた。
「他の面子は?」
いらだっているかなめの声に三人は顔を見合わせた。
「めんどくさいの」
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