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第4章 低殺傷兵器(ローリーサルウェポン)

低殺傷兵器・ローリーサルウェポン

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 会議室を出ると冷たい風が吹きぬけたので誠は思わず首を竦めた。後ろに続くかなめはそれを見て何か言いたいことがありそうだがあえて黙っていると言う表情でそのままアイシャの後に続いて進んでいく。

「早くしろ」

 ランに背中を叩かれて我に返った誠はそのまま廊下を小走りに進んで勤務服のポケットに手を突っ込んだまま足早に歩くかなめに追いついた。

「制圧用の火器ってガス弾ですか?」 

 誠の問いにいかにも不機嫌そうな顔をしてかなめが振り向く。そして大きくため息をついて後ろを歩いているカウラに目をやってまたため息をついた。

「そんなもん警察の機動隊がデモ隊相手に使う道具じゃねえか。うちはもっと非常事態に適したのを使うんだよ。そもそもショットガン撃ちが言うことじゃねえぞ、そんなこと」 

 それだけ言うと満足したように早足でアイシャの後を追うかなめ。誠の携帯小火器は確かに9ミリ拳銃弾用に改造されたAR15アサルトライフルの下にショットガンを実装した銃であることは確かだった。誠はまだかなめの言葉の意味もつかめずに彼女達の後を追った。そのまま実働部隊詰め所と管理部の前を通り過ぎハンガーの広がる景色を見ながら階段を下りる。

 ハンガーでは修羅場の様相が展開されていた。部隊長の嵯峨曰く『上から押し付けられた』と表現される高性能機の運用状態へ持ち込むための整備手順の確認訓練がいまだに続いていた。司法局実働部隊の制式採用機である『05式』よりもより古代遼州文明が使用していた人型汎用兵器に近いとされるオリジナル・アサルト・モジュール『カネミツ』、『クロームナイト』、『ホーンオブルージュ』。

 たった三機増えただけだと言うのにハンガーを走り回る技術部の技師、島田正人准尉の部下を叱る怒声はいつもよりもはるかに鋭く感じられた。

「お疲れさんです!」 

 誠は寮長を兼ねている島田に頭を下げた。島田はそれを見るとにんまりと笑いながら駆けつけてきた。

「おっ!皆さんおそろいで。キムの野郎のところですか?」 

「なんだよ、お前等には関係ねえだろ?」 

 さすがに死にそうな表情で作業をこなしている部下に背を向けて声をかけてきた島田にかなめは呆れたようにそう答えた。

「西園寺さん。あれは次にはうちの餓鬼どもに撃たせる予約が入っているんですよ」 

「へえ、お前等もあれを撃つのか?」 

 かなめの声に頭を掻いて周りを見回す島田。島田の言葉が聞こえたと思われる隊員はさらに続くだろう訓練を想像したらしくげんなりした表情で機材の影に消えていく。

「おい!西園寺!」

「無理するなよ!」 

 ランの怒鳴り声がハンガーに響く。かなめは舌を出すとそのままランのところに急いだ。

「神前、お前も呼ばれてるみたいだぞ」

 二人の会話に呆然としていた誠に島田が声をかける。誠も我に返って島田を置いて技術部の詰め所が入っている一階のフロアーに駆け込んだ。

「技術部の人もやるんですか?」 

 誠の問いにかなめはただニヤニヤ笑うだけ。そして先頭のアイシャは小火器の管理を担当するキム・ジュンヒ技術少尉が主を務める技術部第二分室の扉のドアをノックした。

「開いてますよ!」 

 キムの声が響いたのでランは先頭になり部屋に入った。

「これかよ……」 

 先に入ったかなめの声に少し興味を持ちながら続いた誠だが、そこに待っていたのは明るい青色の樹脂でできたショットガンが並んでいる光景だった。そのうちの一丁を長身の作業着に汚れた前掛けをつけた士官がランに持たせて小声で説明している。ランは何度かうなづきながらその隣に置かれた弾薬の入ったケースを叩きながら振り向いた。

「模擬弾使って射的ごっこか?つまらねえな」 

「模擬弾とは失敬な!一応鎮圧用の低殺傷弾入りのショットガンですよ」 

 それまでランと小声で話していた作業着の将校、キム・ジュンヒ技術少尉がきつい調子でかなめに反論した。

「威力が半端なだけになお悪りいや」 

 かなめは頭を掻いて銃に手を伸ばす。誠はランの手元のオレンジ色の派手な弾薬の箱に目を向けていた。

 一応司法執行機関と言う実働部隊の名目上、当然暴動や治安維持任務には低殺傷能力の武器の使用も考慮されており、それに適した銃も抱えていたところで不思議は無かった。事実、以前ベルルカン大陸での選挙監視活動で第四小隊と随伴した警備部の部隊が現地で活動した際の映像にも目の前の青いショットガンを抱えて警備に当たる島田達整備班長の姿を眼にしていた。

「これってどれくらいの威力があるんですか?」 

 弾の入っていないショットガンを手に弄り回しているかなめに誠が尋ねる。振り返ったかなめの顔は明らかにがっかりしたような表情に変わっていた。

「あのなあ、そんな子供がエアガン買うときみたいなこと言うなよ。名前の通りの威力だ」 

 そう言うとかなめは静かにガンラックにショットガンを戻す。その隣ではこの小火器管理を担当する隊の隊長であるキムがランの手元の箱を開けてバスケットに中のオレンジ色の弾薬を入れているところだった。

「まあ当たり所が悪くない限りは打撲ぐらいで済むんじゃねーかなあ……何ならお前が的になるか?」

 そのままランはショットガンを手に取ろうとする。誠は身の危険を感じてそのまま壁にまで飛びのいた。 

「いい事言うじゃねえか。じゃあ防弾プレート入りベストを貸してもらってお前は標的役を……」 

 同じようにかなめはオレンジ色の銃を手に取ろうとする。

「西園寺さん!ふざけないでくださいよ!」 

 本当にやりかねないかなめを見ながら誠は泣くような調子で叫んでいた。

「それじゃあ……っとふざけてないで行くぞー」 

 ランはそう言うと一挺のオレンジ色のショットガンを手に取る。カウラもアイシャも静かにそれを手にした。

「おめえはどっちにする?」 

 かなめは手にした派手なオレンジ色の樹脂製のセミオートマチックショットガンとポンプアクションショットガンを誠に手渡した。

「僕はこっちが慣れているんで」 

 そう言うと誠は迷わずポンプアクションショットガンを選んだ。

 部屋を出ながらまじまじと銃を見る。派手なオレンジ色の銃が並ぶ姿は異様だった。考えれば使用弾薬が殺傷用のバックショットやスラグが入っているのと低殺傷能力の布製弾が入っている銃に見分けをつけるのは合理的だがそれにしても明らかに毒々しく塗られた銃は異様だった。

「早速訓練ですか?」 

 誠達を待ち構えていたと言うような表情の島田にランは思わず手にしていた銃を肩に背負った。

「おー、ちょっくら鴨撃ちだ」 

「冗談よしてくださいよクバルカ中佐!」 

 ニヤニヤ笑いながらボルトを磨いていた部隊で二人しかいない10代の隊員、西高志兵長が叫ぶ。

「くだらないことばっかり言ってるとボコにすんぞ!」 

 かなめの脅しに西の後ろで端末をいじっていたアメリカ海軍からの出向技官のレベッカ・シンプソン中尉が西の前に立ちはだかる。

「お熱いことで!おっぱいお化け!」 

 いつもレベッカの豊かな胸に嫉妬しているかなめが叫ぶのを聞くと今度はアイシャが笑い出した。

「なんだよ!」 

「いやあ、かなめちゃんの反応がいつもどおりで平和だなあって思っちゃったから」 

 そう言うとアイシャは手にしたショットガンのフォアードレバーをガチャガチャと動かして見せた。
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