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第14章 終業
終業
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誠が予想したとおり空気を読めるアイシャはおとなしくなった。誠達にはアイシャからの呼び出しもかからず何事も無く終業時間を迎えた。法術系事件との関連を疑われていると言うことで整理していた事件のファイル。そんな茜から渡された資料のまとめがようやく終わり、あとは最終チェックをするだけになっていた。隣の席で襟首のジャックに直接コードをつないでずっと音楽を聴いていたかなめが机から足を下ろす。
「さてと、今日も終わりか。カウラ、神前。着替えるぞ」
そう言うかなめに専用端末のキーボードをずっと叩いていたカウラが疲れたというように伸びをした。誠も端末のデータを保存する処理を行った後、軽くこった肩を叩いた。
「良いねえ、第二小隊の連中は。こっちは徹夜になりそうだな」
新型アサルト・モジュールの運用データの整理をしていた第四小隊。いつもこらえしょうがないフェデロはそう言うと恨みがましい目で誠を見つめてきた。
「そんな目で見ないでくださいよ」
「まあ諦めることだ。在外武官というものは常に忙しいか暇かどちらかだと父上も言っていたぞ」
フェデロの顔を哀れむように見ながらモニターの電源を落としたかえでが立ち上がる。その言葉で誠は彼女の義父であり司法局実働部隊の部隊長、嵯峨惟基が始めて任官したのはこの東和の大使館付き武官だったと言うことを思い出した。その時に道場破り同然に誠の実家の剣道場に現れた嵯峨惟基、当時は西園寺新三郎と名乗っていた胡州陸軍士官がいたという。その様子は母から何度も聞かされていて誠の頭の中にしっかりと残っていた。
「さてと、今日は寮の飯は……ロールキャベツだったよな」
そう言うとかなめがカウラの肩に手を乗せた。
「おごるからあまさき屋に行くってのはどうだ?」
かなめは非常に好き嫌いが多いたちなのは有名だった。ロールキャベツのキャベツ。そして付け合せのにんじん。どちらもかなめの嫌いな食材だった。
「貴様のおごりならかまわないが……神前も行くだろ?」
普段の安心したような顔でカウラは誠に笑いかける。
「ええ、悪いですねいつもおごってもらってばかりで」
「決まりだな!じゃあ……」
「待ちなさいよ!」
部屋を出ようとしたかなめの前にはアイシャが立ちはだかっている。
「なんだよ。オメエはまた泊りか?ご苦労なこったな」
アイシャはそう言って彼女をすり抜けようとするかなめの肩をつかむ。
「あまさき屋に行くつもりでしょ?私達にも……」
「やなこった!」
かなめはアイシャの顔にキスできるほど近づいてそう言うと部屋を出ようとするがそこには小夏とシャム、そしてサラとパーラが立っていた。
「おい!こいつ等の分まで出せっていうのか?」
「外道!おごると言ったら気前良く行くのが胡州侍の心意気だろ?」
サラの後ろに隠れていた小夏が叫ぶ。その言葉にかなめはつかつかと小夏に迫って行った。
「あのなあ、アタシは客なんだぞ。いつも外道呼ばわりしやがって。カウンターを三回壊したくらいで偉ぶるんじゃねえ!」
「西園寺、壊したのは四回だ。それとテーブルを三つ、椅子を10脚くらい付け足しておけ」
そう言うとカウラはかなめと小夏の脇を通り抜けて誠をつれて更衣室へ向かう廊下を早足で歩いた。
「良いんですか?カウラさん。西園寺さん喧嘩を始めそうですよ」
先に立って歩いていくカウラに誠は恐る恐る声をかける。
「いや、喧嘩にはならないだろ。あいつは金のことでは喧嘩をしないからな」
かなめのことはすべて分かっているというようにカウラは歩き続ける。
「でも……」
「安心しろ。あいつの持ってるカードはサイン一つで巡洋艦が買えるようなカードだ。西園寺の家の裏書にはその位の価値があるということだ」
あっさりそう言うとカウラは女子更衣室に消えてしまう。誠は振り向いた。遠くに見えるかなめ達はなにやら耳を寄せ合いながら時々誠を眺めるようなそぶりをしていた。
その時、急に誠の体は体重を預けていた男子更衣室に引きずり込まれた。
「神前先輩!」
倒れそうになった誠を抱き起こしたのは第二小隊のアン・ナン・パク軍曹だった。思わずあわててアンの手の中から誠は逃げ出す。
「先輩!」
「あのなあ……くっつくな!」
「先輩……」
そう言うとアンは涙目で誠を見つめてくるン。西と同じ19歳の最年少と言うことで隊の女性陣に可愛がられているアンを泣かせるのは本意ではない。しかし誠はねっとりとしたアンの視線はどうしても苦手だった。
「着替え終わったら外で待ってろ。俺達はあまさき屋に行くから連れて行ってやる!」
「え!本当ですか!」
満面の笑みを浮かべるアンはそのままダウンジャケットを手にしたまま浮かれて更衣室を飛び出して行った。誠は安堵のため息を漏らすと自分のロッカーを開く。背中で再び更衣室のドアが開いた気配を感じて振り向いた誠の前には整備班のつなぎ姿の島田が立っていた。
「おう、お前なあ。あれどうにかしろよな!」
入ってくるなり誠にそう言うと廊下の先で騒いでいるかなめとアイシャを指差した。
「あれ、僕の責任ですか?」
「クラウゼ少佐と西園寺大尉はお前の担当だろ?」
「担当とかそう言うことでは無いと思うんですけど」
苦笑いを浮かべながら上着をハンガーにかける。
「それじゃあアンだけじゃなくて俺とサラの分もお前が払えよ」
「なんですか?それは!」
島田の突然の発言に驚く誠だが、すぐに島田がアンとの会話を聞いていたことに気づいて顔を赤く染めた。
「男女を問わないモテモテ野郎の有名税だ。あれだろ?最近アイシャさんが始めた同人誌の通販がうまく行ってるらしいじゃないの。俺にもたまにはその環境を整えてあげている感謝の念を持ってもらわないとねえ」
そう言いながら島田は素早くつなぎを脱ぐとビンテージモノのジーンズに足を通しながら誠を見つめていた。
「分かりましたよ!でも今回だけですよ」
そう言うと誠はジャンバーを羽織る。目の前では、してやったりと顔をほころばせる島田がいた。
「まあ俺としてはお前のことは買ってるんだ。俺もパイロット志願だったから分かるが操縦技術の上達速度はやっぱりお前さんの方がずっと上だからな」
島田はそう言いながらロッカーからヘルメットの入った大きなかばんを取り出し、その後ろから手鏡を取り出すと髪の毛を整え始めた。
「あ、ありがとうございます」
「まあそれじゃ……」
立ち上がろうとした島田の首筋に外から手が伸びてきてそのまま入り口に引っ張られる。
「ほお、島田。後輩に飯をおごらせるとはずいぶん了見の狭い先輩じゃねえか……え?」
ぎりぎりと島田の首を締め付けながらそう言ったのはかなめだった。
「西園寺さん、ちょっと……首!」
「おう、神前。こいつとサラとアンの飯代はアタシが出すぜ。まあその分こうして……」
さらに締め上げるかなめの腕に島田がばたつく動きを弱め始めた。
「おい、西園寺。殺すなよ」
茶色いコートに長い明るい緑のポニーテールを光らせるカウラが笑顔でかなめにそう言った。
「た……た……」
「正人、自業自得よ」
思わずサラに助けを求めようとした島田だが、サラもまたこの状況でかなめを説得できるなどとは思ってはいない。
「ちょっと!死んじゃいますよ!やめてくださいよ!顔が青くなって来ましたよ!」
誠の言葉を聞いて初めてかなめは手を離した。そのまま島田は四つんばいになって咳き込む。
「大丈夫?正人」
そう言って駆け寄るサラだが、本気で心配しているような様子は無い。
「じゃあいいわ。アタシのおごりだ!吐くまで飲めよ!」
そう言ってかなめは女子更衣室に消えていく。続いて入ろうとするアイシャを誠は呼び止めた。
「どういう話し合いをしたんですか!また二日酔いで出勤は嫌ですよ!」
真剣な顔でそう言う誠だが、アイシャはそれに楽しそうに笑みを浮かべただけで彼の手を振り切って更衣室に消える。
「まあ、残念としか言えないな。とりあえず胃薬を用意しておいたが……飲むか?」
カウラはコートのポケットから錠剤の胃薬の入ったビンを取り出す。彼女がこういうものを必要としない自制心のある女性だとは知っていたので、それが自分に飲ませるために買ったものだと言うことは誠にも分かった。
「とりあえず後で頂きます」
「いや、これは食前に飲むのが良いらしいぞ」
そう言って少し笑みを浮かべながらカウラは錠剤の蓋を開けるラ。そのまま彼女から三錠の胃薬を受け取るとそのまま誠は一息にその錠剤を飲み下した。
「さてと、今日も終わりか。カウラ、神前。着替えるぞ」
そう言うかなめに専用端末のキーボードをずっと叩いていたカウラが疲れたというように伸びをした。誠も端末のデータを保存する処理を行った後、軽くこった肩を叩いた。
「良いねえ、第二小隊の連中は。こっちは徹夜になりそうだな」
新型アサルト・モジュールの運用データの整理をしていた第四小隊。いつもこらえしょうがないフェデロはそう言うと恨みがましい目で誠を見つめてきた。
「そんな目で見ないでくださいよ」
「まあ諦めることだ。在外武官というものは常に忙しいか暇かどちらかだと父上も言っていたぞ」
フェデロの顔を哀れむように見ながらモニターの電源を落としたかえでが立ち上がる。その言葉で誠は彼女の義父であり司法局実働部隊の部隊長、嵯峨惟基が始めて任官したのはこの東和の大使館付き武官だったと言うことを思い出した。その時に道場破り同然に誠の実家の剣道場に現れた嵯峨惟基、当時は西園寺新三郎と名乗っていた胡州陸軍士官がいたという。その様子は母から何度も聞かされていて誠の頭の中にしっかりと残っていた。
「さてと、今日は寮の飯は……ロールキャベツだったよな」
そう言うとかなめがカウラの肩に手を乗せた。
「おごるからあまさき屋に行くってのはどうだ?」
かなめは非常に好き嫌いが多いたちなのは有名だった。ロールキャベツのキャベツ。そして付け合せのにんじん。どちらもかなめの嫌いな食材だった。
「貴様のおごりならかまわないが……神前も行くだろ?」
普段の安心したような顔でカウラは誠に笑いかける。
「ええ、悪いですねいつもおごってもらってばかりで」
「決まりだな!じゃあ……」
「待ちなさいよ!」
部屋を出ようとしたかなめの前にはアイシャが立ちはだかっている。
「なんだよ。オメエはまた泊りか?ご苦労なこったな」
アイシャはそう言って彼女をすり抜けようとするかなめの肩をつかむ。
「あまさき屋に行くつもりでしょ?私達にも……」
「やなこった!」
かなめはアイシャの顔にキスできるほど近づいてそう言うと部屋を出ようとするがそこには小夏とシャム、そしてサラとパーラが立っていた。
「おい!こいつ等の分まで出せっていうのか?」
「外道!おごると言ったら気前良く行くのが胡州侍の心意気だろ?」
サラの後ろに隠れていた小夏が叫ぶ。その言葉にかなめはつかつかと小夏に迫って行った。
「あのなあ、アタシは客なんだぞ。いつも外道呼ばわりしやがって。カウンターを三回壊したくらいで偉ぶるんじゃねえ!」
「西園寺、壊したのは四回だ。それとテーブルを三つ、椅子を10脚くらい付け足しておけ」
そう言うとカウラはかなめと小夏の脇を通り抜けて誠をつれて更衣室へ向かう廊下を早足で歩いた。
「良いんですか?カウラさん。西園寺さん喧嘩を始めそうですよ」
先に立って歩いていくカウラに誠は恐る恐る声をかける。
「いや、喧嘩にはならないだろ。あいつは金のことでは喧嘩をしないからな」
かなめのことはすべて分かっているというようにカウラは歩き続ける。
「でも……」
「安心しろ。あいつの持ってるカードはサイン一つで巡洋艦が買えるようなカードだ。西園寺の家の裏書にはその位の価値があるということだ」
あっさりそう言うとカウラは女子更衣室に消えてしまう。誠は振り向いた。遠くに見えるかなめ達はなにやら耳を寄せ合いながら時々誠を眺めるようなそぶりをしていた。
その時、急に誠の体は体重を預けていた男子更衣室に引きずり込まれた。
「神前先輩!」
倒れそうになった誠を抱き起こしたのは第二小隊のアン・ナン・パク軍曹だった。思わずあわててアンの手の中から誠は逃げ出す。
「先輩!」
「あのなあ……くっつくな!」
「先輩……」
そう言うとアンは涙目で誠を見つめてくるン。西と同じ19歳の最年少と言うことで隊の女性陣に可愛がられているアンを泣かせるのは本意ではない。しかし誠はねっとりとしたアンの視線はどうしても苦手だった。
「着替え終わったら外で待ってろ。俺達はあまさき屋に行くから連れて行ってやる!」
「え!本当ですか!」
満面の笑みを浮かべるアンはそのままダウンジャケットを手にしたまま浮かれて更衣室を飛び出して行った。誠は安堵のため息を漏らすと自分のロッカーを開く。背中で再び更衣室のドアが開いた気配を感じて振り向いた誠の前には整備班のつなぎ姿の島田が立っていた。
「おう、お前なあ。あれどうにかしろよな!」
入ってくるなり誠にそう言うと廊下の先で騒いでいるかなめとアイシャを指差した。
「あれ、僕の責任ですか?」
「クラウゼ少佐と西園寺大尉はお前の担当だろ?」
「担当とかそう言うことでは無いと思うんですけど」
苦笑いを浮かべながら上着をハンガーにかける。
「それじゃあアンだけじゃなくて俺とサラの分もお前が払えよ」
「なんですか?それは!」
島田の突然の発言に驚く誠だが、すぐに島田がアンとの会話を聞いていたことに気づいて顔を赤く染めた。
「男女を問わないモテモテ野郎の有名税だ。あれだろ?最近アイシャさんが始めた同人誌の通販がうまく行ってるらしいじゃないの。俺にもたまにはその環境を整えてあげている感謝の念を持ってもらわないとねえ」
そう言いながら島田は素早くつなぎを脱ぐとビンテージモノのジーンズに足を通しながら誠を見つめていた。
「分かりましたよ!でも今回だけですよ」
そう言うと誠はジャンバーを羽織る。目の前では、してやったりと顔をほころばせる島田がいた。
「まあ俺としてはお前のことは買ってるんだ。俺もパイロット志願だったから分かるが操縦技術の上達速度はやっぱりお前さんの方がずっと上だからな」
島田はそう言いながらロッカーからヘルメットの入った大きなかばんを取り出し、その後ろから手鏡を取り出すと髪の毛を整え始めた。
「あ、ありがとうございます」
「まあそれじゃ……」
立ち上がろうとした島田の首筋に外から手が伸びてきてそのまま入り口に引っ張られる。
「ほお、島田。後輩に飯をおごらせるとはずいぶん了見の狭い先輩じゃねえか……え?」
ぎりぎりと島田の首を締め付けながらそう言ったのはかなめだった。
「西園寺さん、ちょっと……首!」
「おう、神前。こいつとサラとアンの飯代はアタシが出すぜ。まあその分こうして……」
さらに締め上げるかなめの腕に島田がばたつく動きを弱め始めた。
「おい、西園寺。殺すなよ」
茶色いコートに長い明るい緑のポニーテールを光らせるカウラが笑顔でかなめにそう言った。
「た……た……」
「正人、自業自得よ」
思わずサラに助けを求めようとした島田だが、サラもまたこの状況でかなめを説得できるなどとは思ってはいない。
「ちょっと!死んじゃいますよ!やめてくださいよ!顔が青くなって来ましたよ!」
誠の言葉を聞いて初めてかなめは手を離した。そのまま島田は四つんばいになって咳き込む。
「大丈夫?正人」
そう言って駆け寄るサラだが、本気で心配しているような様子は無い。
「じゃあいいわ。アタシのおごりだ!吐くまで飲めよ!」
そう言ってかなめは女子更衣室に消えていく。続いて入ろうとするアイシャを誠は呼び止めた。
「どういう話し合いをしたんですか!また二日酔いで出勤は嫌ですよ!」
真剣な顔でそう言う誠だが、アイシャはそれに楽しそうに笑みを浮かべただけで彼の手を振り切って更衣室に消える。
「まあ、残念としか言えないな。とりあえず胃薬を用意しておいたが……飲むか?」
カウラはコートのポケットから錠剤の胃薬の入ったビンを取り出す。彼女がこういうものを必要としない自制心のある女性だとは知っていたので、それが自分に飲ませるために買ったものだと言うことは誠にも分かった。
「とりあえず後で頂きます」
「いや、これは食前に飲むのが良いらしいぞ」
そう言って少し笑みを浮かべながらカウラは錠剤の蓋を開けるラ。そのまま彼女から三錠の胃薬を受け取るとそのまま誠は一息にその錠剤を飲み下した。
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