533 / 1,473
第12章 休みのようなもの
斜め上の展開
しおりを挟む
しばらくの沈黙。
腹の中がおはぎで満たされた誠は窓から注ぐ秋の柔らかな日差しを見ながらゆったりと伸びをした。安心できる冬のからりと晴れた青空が窓越しに心地よい日差しをくれた。隣の席ではカウラが頬杖を付いて端末のモニターをいじっている。
「ようやく静かになりましたね」
そう言いながらかえではうどんを啜っていた。
「でも嵯峨少佐は本当に麺類が好きですね。昨日はたぬき蕎麦……しかも冷やし」
話題を振った誠にかえではうどんをかみ締めながらうなづく。
「まあな、胡州軍では麺類は絶対に出ないからな……縁起が悪いんだそうな」
かえでの語気が強くなる。渡辺も大きくうなづく。
麺類と言えば遼南帝国と遼州星系では言われている。先の地球との大戦では戦闘中だろうが平気で戦闘をやめてうどんを茹でたと言う都市伝説があるほどうどんとの組み合わせで語られる遼南。その同盟国として苦戦を強いられた胡州軍にうどん禁止と言うような風潮があってもおかしくないと思いながら、乾いた笑いを浮かべて誠は消えている画面を戻そうとキーボードを叩いた。
まるで反応がなかった。
仕方なくリセットしてみる。それでも反応がない。
「モニターが切り替わらないのか?西園寺の奴が設定まで変更したとか」
焦ってぱちぱちとリセットボタンを押す誠の姿を見てカウラがそう言った。
「そうすると西園寺さんじゃないと直らないってことですか?」
泣きそうな顔で誠はカウラを見つめる。
他に策はなかった。誠に仕事を頼んだのは嵯峨の長女で法術特捜本部の部長、嵯峨茜警視正。穏やかなお姫様らしい雰囲気とは正反対に厳格な上司である彼女が書類の提出期限を延ばしてくれることなど考えられなかった。
「じゃあ行ってきます」
そう言って誠は詰め所を後にした。
廊下に出ると相変わらずあの撮影をしている第四会議室の前では運行部の女性士官達が雑談をしていた。
「ああ、アイシャ来たよ。誠ちゃん、来たから!」
その中で明らかに一回り小さいシャムが、いつものように猫耳カチューシャをつけた状態で誠に手招きをしている。
「ナンバルゲニア中尉、一体……」
誠はそのまま急に歓迎ムードになった女性士官達の前をシャムに引っ張られて部屋に入った。
「おう、来たか」
そう言って首の周りにいくつもの配線をまわした首輪のようなものをつけた吉田がキーボードを叩く手を止めて誠を見つめる。
「あれ?昼休みじゃないんですか?」
「なに間抜けなこといってるんだよ。こう言う人様にあまり顔向けできない仕事はさっさと片付けるに限るだろ」
そう言いながら吉田がキーボードを叩くと再び目の前のカプセルのふたが開いた。先ほど誠が入ったカプセル。それを指差しながら吉田はニヤニヤ笑う。
「またやるんですか?」
誠は恨みがましい目を吉田に向けた。
「どうせあっちで見てたんだろ?この中に入って見てても同じじゃないか」
吉田と目配せをしたシャムが誠にヘルメットをかぶせる。仕方なく誠は顔まで覆うヘルメットを再びかぶるとカプセルの中に寝転がった。
誠の被ったバイザーの中に先ほどかなめが鞭打たれていた洞窟が見える。
『かなめちゃん!準備できた?』
アイシャの声が響く。誠はサブモニターで自分の姿が黒いマントに変な仮面をした魔法使いになっていることに気づいた。
「アイシャさん!いきなりですか?台本ではここは西園寺さんが一人で脱出するんじゃなかったでしたっけ?」
『良いのよ、吉田さんがこっちの方が盛り上がるからって言ってたし』
『なんだよ俺のせいかよ』
いかにも吉田が不服そうにつぶやく。モニターの下には変更された台本がある。自然と誠の目はそれを見ていた。そこには手枷で拘束されているかなめを誠の役『マジックプリンス』が助けると言う筋書きが書いてあった。
『なんだよ名前の変更無しかよ!マジックプリンス。まんまじゃん。もっとひねれよ!』
頭の中でそう思うものの、のらりくらりかわして自分の意見を通すと言う術を嵯峨から一番良く学び取っているアイシャに言うのは無茶だと思って誠は口をつぐむ。
『じゃあ、行くわよ!ハイ!』
さすがに飽きたというような調子でアイシャがシーンの始まりを告げる。
誠は黒の全身タイツに重心が高くて落ちそうなシルクハット、さらに引きずりそうになるほど長い黒いマントと言う奇妙奇天烈な格好で堂々と洞窟を歩いていく。その先には痛めつけられて弱ったかなめが手枷で吊るされていた。
肉のちぎれたひじの関節の内部の機械が露出し、切り裂かれた頬には血と金属で出来ているような骨格が見えている。明らかにやりすぎと言うか本当に子供にこれを見せるのかと突っ込みたくなる衝動を抑えて誠は手にした杖の一振りでかなめを吊っていた鎖を切った。
「な……なんだ……貴様は?」
かなめは力なく頭をもたげながら搾り出すようにして言葉を発する。いつも見慣れた強気一辺倒のかなめから想像も付かないような弱々しい姿に誠は台本通りに自分ではイケテルと思う流し目をかなめに向けた。明らかに噴出しそうな顔が一瞬浮かぶが、かなめは何とか我慢して痛めつけられた女性幹部の演技を続けた。
「動くんじゃない。今、修復魔法をかけてやる」
そう言って誠は傷ついているかなめの体に手を伸ばす。ぼんやりと淡い桃色の光を放つ手に撫でられると、わずかに発光しながら内部の機械が露出していたかなめの体が修復されていく。
「私を助けるだと?無用な機械。もはや用済みの機械の私を助けたところで……」
そう言って笑うかなめの頬を誠は平手で打つ。
「機械だろうが生物だろうが存在するものに無用なものなどないんだ!君には償わなければならないことがある。それを償ってもらうために私はここに来たんだ!」
そう言うと誠は再び修復魔法をかなめにかける。その言葉に笑顔を浮かべかなめは素直に誠の手に傷口を晒す。
『ありえないよ!こんなの!西園寺さんがこんなに素直なわけないじゃないか!』
そう叫びたくなる欲求を抑えながら胸を切り裂いていた鞭の跡に手を伸ばす。
突然かなめが体を倒してきた。すると修復魔法をかけていた誠の手がかなめの豊かな右の乳房にかぶさった。
「あっ……」
おもわずかなめが声を漏らす。誠はそのまま手をのけようとするが、その手はかなめの右腕につかまれてさらに胸を揉むような格好になった。
『あー!西園寺さんやばいよこれ。アイシャさんが見てるんでしょ?しかも僕の机のモニターつけっぱなしだからカウラさんが……いや!かえでさんに殺されるよ俺!』
一瞬で何重もの恐怖が誠の頭を駆け巡る。かなめはうれしそうな顔をしながらその手を放し、静かに立ち上がった。
「貴様……私をまだ必要とする者とは貴様のことか?」
そう言ってかなめは誠をにらみつける。明らかに悪役の女怪人と言う姿だが、妙に似合っているので誠はつい彼女に見とれてぼーっとしていた。
「気に入った。どうせ捨てられた命だ。力を貸すのも悪くはないか」
「ああ、君にはするべきことがあるんだ。力を貸してくれ」
そう言って誠はあまりにも直球な感じでつけられているマントを翻した。次第に自分の体が消えていくという奇妙な感覚に興奮している自分を押さえ込む。
「貴様!名は!」
「私はマジックプリンス!正義と真実の男!」
『おい!どこの多良尾判内ですか!俺は!』
呆れながら今度はカメラ目線になってかなめを見つめる。かなめはじっと手を握り誠が消えたあたりを眺める。
「マジックプリンス……ああ、覚えておこう。その名を」
そう言うとかなめも小走りで素早く洞窟を脱出した。その様を見ながら誠は突っ込みたかった。
『おい!戦闘員は?下っ端は?監視はどうした!』
目の前が暗くなり一幕が終わったことを告げる。
「あのー、アイシャさん?」
恐る恐る誠はしゃべり始める。一応、アイシャは上官である。しかも自分が面白いと感じたら絶対に譲らない彼女である。
『はい、なんでしょう?』
サブモニターに映るアイシャの満面の笑み。
「僕の格好ってこんなに間抜けでしたっけ?」
その言葉にアイシャの笑みが大きく見える感覚に誠は囚われた。
『ああ、それねデザインしたのはシャムだから』
あっさりとアイシャは答える。シャムが後ろでガッツポーズをしている。周りでは運行部の女性隊員が拍手をしていた。
『良いんだよ、どうせやるのはお前さんなんだから。まあ一部。ぶーたれてる奴もいることだしさ』
「吉田さんまで……」
誠はこのまま部屋に帰りたくなったが、帰ればカウラとかえでによる血の制裁が待っていると気づいて踏みとどまった。
『じゃあ次は女将さん……いえ、春子さんの場面ね』
アイシャの声に誠は興味を引かれた。
春子の役、魔獣ローズクイーンのデザインは誠がしたものだった。はっきり言って悪ふざけに過ぎたと自分でも思える。頭に薔薇の花のような冠を被り、両手から蔓のような鞭が生え、全身が緑色の素肌のような格好にところどころに棘が映えた姿。正直、エロゲ系RPGの敵モンスターみたいだなあと思いながら書いた落書きをどうアイシャが使うのか予想が付かなかった。
そして画面が開く。中央で明華は腕組みをして、人が入るほどの大きさの透明なカプセルを見上げる。顔のアップでの怪しげな笑みに誠は背筋が寒くなるのを感じた。
『うちの女性陣は何でこういう悪役やらせると映えるのかな』
これは絶対に口にはできないと思いながら誠は目の前の光景を眺めていた。
『ふっ。やはり所詮は出来損ないの試作品か。まあいい時間稼ぎになっただけましというところか……』
明華はそのまま目の前のカプセルを見上げた。そこには全裸の女性のようなものが入っていた。
『え?』
誠は目を疑った。それは彼がデザインしたまんまの魔獣ローズクイーンの姿だった。ローズクイーン役の春子は眼を開き、これもまた悪そうな笑みを浮かべて明華を見つめる。
『やっぱ怖いよ、うちがらみの女の人!』
冷や汗を流しながら誠は画面を見つめる。
『さて、あとはあのはねっかえりの王女様がどれだけの成果を上げるか、楽しみだねえ。貴様もそう思うだろ?』
再び明華はとてつもなく悪そうな笑みを浮かべる。それに答えるようにして春子が舌なめずりをしている。そして再び画面が暗くなった。
『アイシャちゃん、こんな感じで良いの?』
うれしそうに春子はアイシャに演技の感想を尋ねる。モニターにその姿は映ってはいないが彼女が非常に楽しんでいることだけは誠にもよく分かった。
『お母さん凄い!私達もがんばりましょう!師匠!』
『当然よ!』
小夏とシャムが割り込んでくる。誠はただカウラと楓の制裁が怖くてじっとして周りの人々から忘れられようと気配を消していた。
腹の中がおはぎで満たされた誠は窓から注ぐ秋の柔らかな日差しを見ながらゆったりと伸びをした。安心できる冬のからりと晴れた青空が窓越しに心地よい日差しをくれた。隣の席ではカウラが頬杖を付いて端末のモニターをいじっている。
「ようやく静かになりましたね」
そう言いながらかえではうどんを啜っていた。
「でも嵯峨少佐は本当に麺類が好きですね。昨日はたぬき蕎麦……しかも冷やし」
話題を振った誠にかえではうどんをかみ締めながらうなづく。
「まあな、胡州軍では麺類は絶対に出ないからな……縁起が悪いんだそうな」
かえでの語気が強くなる。渡辺も大きくうなづく。
麺類と言えば遼南帝国と遼州星系では言われている。先の地球との大戦では戦闘中だろうが平気で戦闘をやめてうどんを茹でたと言う都市伝説があるほどうどんとの組み合わせで語られる遼南。その同盟国として苦戦を強いられた胡州軍にうどん禁止と言うような風潮があってもおかしくないと思いながら、乾いた笑いを浮かべて誠は消えている画面を戻そうとキーボードを叩いた。
まるで反応がなかった。
仕方なくリセットしてみる。それでも反応がない。
「モニターが切り替わらないのか?西園寺の奴が設定まで変更したとか」
焦ってぱちぱちとリセットボタンを押す誠の姿を見てカウラがそう言った。
「そうすると西園寺さんじゃないと直らないってことですか?」
泣きそうな顔で誠はカウラを見つめる。
他に策はなかった。誠に仕事を頼んだのは嵯峨の長女で法術特捜本部の部長、嵯峨茜警視正。穏やかなお姫様らしい雰囲気とは正反対に厳格な上司である彼女が書類の提出期限を延ばしてくれることなど考えられなかった。
「じゃあ行ってきます」
そう言って誠は詰め所を後にした。
廊下に出ると相変わらずあの撮影をしている第四会議室の前では運行部の女性士官達が雑談をしていた。
「ああ、アイシャ来たよ。誠ちゃん、来たから!」
その中で明らかに一回り小さいシャムが、いつものように猫耳カチューシャをつけた状態で誠に手招きをしている。
「ナンバルゲニア中尉、一体……」
誠はそのまま急に歓迎ムードになった女性士官達の前をシャムに引っ張られて部屋に入った。
「おう、来たか」
そう言って首の周りにいくつもの配線をまわした首輪のようなものをつけた吉田がキーボードを叩く手を止めて誠を見つめる。
「あれ?昼休みじゃないんですか?」
「なに間抜けなこといってるんだよ。こう言う人様にあまり顔向けできない仕事はさっさと片付けるに限るだろ」
そう言いながら吉田がキーボードを叩くと再び目の前のカプセルのふたが開いた。先ほど誠が入ったカプセル。それを指差しながら吉田はニヤニヤ笑う。
「またやるんですか?」
誠は恨みがましい目を吉田に向けた。
「どうせあっちで見てたんだろ?この中に入って見てても同じじゃないか」
吉田と目配せをしたシャムが誠にヘルメットをかぶせる。仕方なく誠は顔まで覆うヘルメットを再びかぶるとカプセルの中に寝転がった。
誠の被ったバイザーの中に先ほどかなめが鞭打たれていた洞窟が見える。
『かなめちゃん!準備できた?』
アイシャの声が響く。誠はサブモニターで自分の姿が黒いマントに変な仮面をした魔法使いになっていることに気づいた。
「アイシャさん!いきなりですか?台本ではここは西園寺さんが一人で脱出するんじゃなかったでしたっけ?」
『良いのよ、吉田さんがこっちの方が盛り上がるからって言ってたし』
『なんだよ俺のせいかよ』
いかにも吉田が不服そうにつぶやく。モニターの下には変更された台本がある。自然と誠の目はそれを見ていた。そこには手枷で拘束されているかなめを誠の役『マジックプリンス』が助けると言う筋書きが書いてあった。
『なんだよ名前の変更無しかよ!マジックプリンス。まんまじゃん。もっとひねれよ!』
頭の中でそう思うものの、のらりくらりかわして自分の意見を通すと言う術を嵯峨から一番良く学び取っているアイシャに言うのは無茶だと思って誠は口をつぐむ。
『じゃあ、行くわよ!ハイ!』
さすがに飽きたというような調子でアイシャがシーンの始まりを告げる。
誠は黒の全身タイツに重心が高くて落ちそうなシルクハット、さらに引きずりそうになるほど長い黒いマントと言う奇妙奇天烈な格好で堂々と洞窟を歩いていく。その先には痛めつけられて弱ったかなめが手枷で吊るされていた。
肉のちぎれたひじの関節の内部の機械が露出し、切り裂かれた頬には血と金属で出来ているような骨格が見えている。明らかにやりすぎと言うか本当に子供にこれを見せるのかと突っ込みたくなる衝動を抑えて誠は手にした杖の一振りでかなめを吊っていた鎖を切った。
「な……なんだ……貴様は?」
かなめは力なく頭をもたげながら搾り出すようにして言葉を発する。いつも見慣れた強気一辺倒のかなめから想像も付かないような弱々しい姿に誠は台本通りに自分ではイケテルと思う流し目をかなめに向けた。明らかに噴出しそうな顔が一瞬浮かぶが、かなめは何とか我慢して痛めつけられた女性幹部の演技を続けた。
「動くんじゃない。今、修復魔法をかけてやる」
そう言って誠は傷ついているかなめの体に手を伸ばす。ぼんやりと淡い桃色の光を放つ手に撫でられると、わずかに発光しながら内部の機械が露出していたかなめの体が修復されていく。
「私を助けるだと?無用な機械。もはや用済みの機械の私を助けたところで……」
そう言って笑うかなめの頬を誠は平手で打つ。
「機械だろうが生物だろうが存在するものに無用なものなどないんだ!君には償わなければならないことがある。それを償ってもらうために私はここに来たんだ!」
そう言うと誠は再び修復魔法をかなめにかける。その言葉に笑顔を浮かべかなめは素直に誠の手に傷口を晒す。
『ありえないよ!こんなの!西園寺さんがこんなに素直なわけないじゃないか!』
そう叫びたくなる欲求を抑えながら胸を切り裂いていた鞭の跡に手を伸ばす。
突然かなめが体を倒してきた。すると修復魔法をかけていた誠の手がかなめの豊かな右の乳房にかぶさった。
「あっ……」
おもわずかなめが声を漏らす。誠はそのまま手をのけようとするが、その手はかなめの右腕につかまれてさらに胸を揉むような格好になった。
『あー!西園寺さんやばいよこれ。アイシャさんが見てるんでしょ?しかも僕の机のモニターつけっぱなしだからカウラさんが……いや!かえでさんに殺されるよ俺!』
一瞬で何重もの恐怖が誠の頭を駆け巡る。かなめはうれしそうな顔をしながらその手を放し、静かに立ち上がった。
「貴様……私をまだ必要とする者とは貴様のことか?」
そう言ってかなめは誠をにらみつける。明らかに悪役の女怪人と言う姿だが、妙に似合っているので誠はつい彼女に見とれてぼーっとしていた。
「気に入った。どうせ捨てられた命だ。力を貸すのも悪くはないか」
「ああ、君にはするべきことがあるんだ。力を貸してくれ」
そう言って誠はあまりにも直球な感じでつけられているマントを翻した。次第に自分の体が消えていくという奇妙な感覚に興奮している自分を押さえ込む。
「貴様!名は!」
「私はマジックプリンス!正義と真実の男!」
『おい!どこの多良尾判内ですか!俺は!』
呆れながら今度はカメラ目線になってかなめを見つめる。かなめはじっと手を握り誠が消えたあたりを眺める。
「マジックプリンス……ああ、覚えておこう。その名を」
そう言うとかなめも小走りで素早く洞窟を脱出した。その様を見ながら誠は突っ込みたかった。
『おい!戦闘員は?下っ端は?監視はどうした!』
目の前が暗くなり一幕が終わったことを告げる。
「あのー、アイシャさん?」
恐る恐る誠はしゃべり始める。一応、アイシャは上官である。しかも自分が面白いと感じたら絶対に譲らない彼女である。
『はい、なんでしょう?』
サブモニターに映るアイシャの満面の笑み。
「僕の格好ってこんなに間抜けでしたっけ?」
その言葉にアイシャの笑みが大きく見える感覚に誠は囚われた。
『ああ、それねデザインしたのはシャムだから』
あっさりとアイシャは答える。シャムが後ろでガッツポーズをしている。周りでは運行部の女性隊員が拍手をしていた。
『良いんだよ、どうせやるのはお前さんなんだから。まあ一部。ぶーたれてる奴もいることだしさ』
「吉田さんまで……」
誠はこのまま部屋に帰りたくなったが、帰ればカウラとかえでによる血の制裁が待っていると気づいて踏みとどまった。
『じゃあ次は女将さん……いえ、春子さんの場面ね』
アイシャの声に誠は興味を引かれた。
春子の役、魔獣ローズクイーンのデザインは誠がしたものだった。はっきり言って悪ふざけに過ぎたと自分でも思える。頭に薔薇の花のような冠を被り、両手から蔓のような鞭が生え、全身が緑色の素肌のような格好にところどころに棘が映えた姿。正直、エロゲ系RPGの敵モンスターみたいだなあと思いながら書いた落書きをどうアイシャが使うのか予想が付かなかった。
そして画面が開く。中央で明華は腕組みをして、人が入るほどの大きさの透明なカプセルを見上げる。顔のアップでの怪しげな笑みに誠は背筋が寒くなるのを感じた。
『うちの女性陣は何でこういう悪役やらせると映えるのかな』
これは絶対に口にはできないと思いながら誠は目の前の光景を眺めていた。
『ふっ。やはり所詮は出来損ないの試作品か。まあいい時間稼ぎになっただけましというところか……』
明華はそのまま目の前のカプセルを見上げた。そこには全裸の女性のようなものが入っていた。
『え?』
誠は目を疑った。それは彼がデザインしたまんまの魔獣ローズクイーンの姿だった。ローズクイーン役の春子は眼を開き、これもまた悪そうな笑みを浮かべて明華を見つめる。
『やっぱ怖いよ、うちがらみの女の人!』
冷や汗を流しながら誠は画面を見つめる。
『さて、あとはあのはねっかえりの王女様がどれだけの成果を上げるか、楽しみだねえ。貴様もそう思うだろ?』
再び明華はとてつもなく悪そうな笑みを浮かべる。それに答えるようにして春子が舌なめずりをしている。そして再び画面が暗くなった。
『アイシャちゃん、こんな感じで良いの?』
うれしそうに春子はアイシャに演技の感想を尋ねる。モニターにその姿は映ってはいないが彼女が非常に楽しんでいることだけは誠にもよく分かった。
『お母さん凄い!私達もがんばりましょう!師匠!』
『当然よ!』
小夏とシャムが割り込んでくる。誠はただカウラと楓の制裁が怖くてじっとして周りの人々から忘れられようと気配を消していた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる