上 下
452 / 512
第17章 アイディア

コスチューム

しおりを挟む
「ご馳走様。それじゃあ僕は……」 

 誠が立ち上がるのを見るとアイシャも手を合わせる。

「ご馳走様です。おいしかったわね。それじゃあ、私も誠ちゃんの部屋に……」 

「なんで貴様が行くんだ?」 

 カウラの言葉にただ黙って笑みを浮かべてアイシャが立ち上がる。その様子を見てそれまで薫の動きに目を向けていたかなめも思い出したような笑みを浮かべる。

「じゃあアタシもご馳走様で」 

「貴様等は何を考えてるんだ?つまらないことなら張り倒すからな」 

 誠達の行き先が彼の部屋であることを悟ったカウラが見上げてくるのをかなめは楽しそうに見つめる。

「ちょっと時間がねえんだよな、のんびりと説明しているような」 

 そう言って立ち上がろうとするかなめを追おうとするカウラを薫が抑えた。

「なにか三人にも考えがあるんじゃないの。待ったほうが良いわよ、誠達が教えてくれるまでは」 

 カウラは薫の言葉に仕方がないというように腰掛けて誠達を見送った。

「なあ、悟られてるんじゃねえのか?」 

 階段を先頭で歩いていたかなめが振り向く。

「そんなの決まってるじゃないの。誠ちゃんが画材を買ったことはカウラちゃんも知ってるのよ。問題はその絵のインパクトよ」 

 そう言ってアイシャは誠の肩を叩いた。

「なんでお二人がついてくるんですか?」 

 さすがの誠も自分の部屋のドアを前にして振り返って二人の上官を見据える。

「それは助言をしようと思って」 

「だよな」 

 あっさりと答えるアイシャとかなめに誠はため息をついた。おそらく邪魔にしかならないのはわかっているが、何を言っても二人には無駄なのはわかっているので誠はあきらめて自分の部屋のドアを開いた。

「なんだ変な匂いだな、おい」 

「エナメル系の塗料の匂いよ。何に使ったのかしら」 

 部屋を眺めている二人を置いて誠は買ってきた画材が置いてある自分の机を見つめた。とりあえず誠は椅子においてあった画材を机に並べる。

「あ!こんなところにフィギュアの原型が」 

 幸いなことにアイシャは以前誠が作ったフィギュアの原型に目をやっている。誠はその隙にと買って来た並べた画材見回すと紙を取り出す。

「しかし……凄い量の漫画だな」 

 本棚を見つめているかなめを無視して机に紙を固定する。誠は昔から漫画を書いていたので机はそれに向いたつくりとなっていた。手元でなく漫画にかなめの視線が向いているのが誠の気を楽にした。

 そして紙を見て、しばらく誠は考えた。

 相手はカウラである。媚を売ったポーズなら明らかに軽蔑したような視線が飛んでくるのは間違いが無かった。胸を増量したいところだが、それも結果は同じに決まっていた。

 目をつぶって考えている誠の肩をアイシャが叩く。

「やっぱりすぐに煮詰まってるわね」 

 そんな言葉に自然と誠はうなづいていた。それまで本棚を見ていたかなめもうれしそうに誠に視線を向けてくる。

「まあ、アタシ等の方が奴との付き合いが長いからな」 

「そうよね。あの娘が何を期待しているかは誠ちゃんより私達のほうが良く知っているはずよね」 

 自信満々に答えるアイシャに嫌な予感がしていた。完全に冗談を連発するときの二人の表情がそこにある。そしてそれに突っ込んでいるだけで描く気がうせるのは避けたかった。

「じゃあ、どういうシチュエーションが良いんですか?」 

 誠は恐る恐るにんまりと笑う二人の女性士官に声をかけた。

「まず、ああ見えてカウラは自分がお堅いと言われるのが嫌いなんだぜ。知ってるか?」 

「ええ、まあ」 

 はじめのかなめの一言は誠も知っているきわめて常識的な一言だった。アイシャは例外としてもそれなりになじんだ日常を送っている人造人間達に憧れを抱いているように見えることもある。特にサラのなじんだ様子には時々羨望のまなざしを向けるカウラを見ることができた。

「それに衣装もあんまり薄着のものは駄目よ。あの娘のコンプレックスは知ってるでしょ?」 

 アイシャの指摘。たしかに平らな胸を常にかなめにいじられているのを見ても、誠も最初から水着姿などは避けるつもりでいた。

「あと、露出が多いのも避けるべきだな。あいつはああ見えて恥ずかしがり屋でもあるからな。太ももや腹が露出している女剣士とかは避けろよ」 

 そんな的確に指摘していくかなめを誠は真顔で覗き見た。一年以上の相棒として付き合ってきただけにかなめの言葉には重みを感じた。確かに先日海に行ったときも肌をあまり晒すような水着は着ていなかった。ここで誠はファンタジー系のイラストはあきらめることにした。

「それならお二人は何が……」 

『メイド服』 

 二人の声があわさって響く。それと同時に誠は耐え難い疲労感に襲われた。

「かなめちゃんまねしないでよね!それにメイド服なら……」 

「着せてそれを参考にして描けばいいじゃねえか。それに神前……」 

 ニヤニヤと笑いながら近づいてくるかなめに誠は苦笑いで答える。かなめのうれしそうな表情に誠は思わず身構える。

「考えにはあったんだろ?メイドコスのカウラに萌えーとか」 

 心理を読むのはさすが嵯峨の姪である。誠は思わず頭を掻いていた。

「ええ、まあ一応」 

 そんな誠の言葉にかなめは満足げにうなづく。だが突然真剣な、いつも漫画を読むときの厳しい表情になったアイシャがいつもどおりに誠に声をかける。

「まあ冗談はさておいて、何が良いかしら」 

「冗談だったのか?」 

 かなめの言葉。彼女が本気だったのは間違いないが、それにアイシャは大きなため息で返す。そんな彼女をかなめはにらみつける。いつもどおりの光景がそこにあった。

「当たり前でしょ?メイド服は私のプレゼントだけで十分。他のバリエーションも考えなきゃ」 

 自信満々にアイシャは答える。かなめは不満げに彼女を見上げた。

「そこまで言うんだ、何か案はあるのか?」 

 もはや絵を描くのが誠だということを忘れたかのような二人の言動に突っ込む気持ちも萎えた誠は椅子に座ってじっと二人を見上げていた。

「一応案はあるんだけど……誠ちゃんも少しはこういうことを考えてもらいたい時期だから」 

 アイシャは神妙な顔でそう言った。

「何の時期なんだよ!」 

 かなめが突っ込む。だが、アイシャのうれしそうな瞳に誠は知恵を絞らざるを得なかった。

「そうですね……野球のユニフォーム姿とか」 

 誠はとりあえずそう言ってみた。アンダースローの精密コントロールのピッチャーとして草野球リーグでのカウラの評判は高かった。俊足好打で知られているアイシャを別格とすれば注目度は左の技巧派として知られる誠の次に評価が高い。

「なるほどねえ……」 

 サイボーグであるため大の野球好きでありながらプレーができずに監督として参加しているかなめが大きくうなづいた。

「でも、意外と個性が出ないわよね。ユニフォームと背番号に目が行くだろうし」 

 アイシャの指摘は的確だった。アンダースローで司法局実働部隊のユニフォームを着て背番号が18。そうなればカウラとはすぐわかるがそれゆえに面白みにかけると誠も思っていた。

「それにカウラちゃんのきれいな緑の髪が帽子で見えないじゃない。それは却下」 

 そんな一言に誠は少しへこむ。

「そう言えば去年の時代行列の時の写真があっただろ?あれを使うってのはどうだ?」 

 かなめはそう言って手を打った。豊川八幡宮での節分のイベントに去年から加わった時代行列。源平絵巻を再現した武者行列の担当が司法局実働部隊だった。鎧兜に身を固めたカウラやかなめの姿は誠の徒歩武者向けの鎧を発注するときに見せてもらっていた。凛とした女武者姿の二人。明らかに時代を間違って当世具足を身につけているアイシャの姿に爆笑したことも思い出された。

「あの娘、馬に乗れないわよね。大鎧で歩いているところを描く訳?それとも無理して馬に乗せてみせる?」 

 アイシャの言葉にまた誠の予定していたデザインが却下された。鉢巻に太刀を構えたカウラの構図が浮かんだだけに誠の落ち込みはさらにひどくなる。

「あとねえ……なんだろうな。パイロットスーツ姿は胸が……。巫女さんなんて言うのはちょっとあいつとは違う感じだろ?」 

「巫女さん萌えなんだ、かなめちゃん」 

 アイシャがかなめの言葉を聞くと満面の笑みを浮かべる。

「ちげえよ馬鹿!」 

 ののしりあう二人を置いて誠は頭をひねる。だが、どちらかといえば最近はアイシャの企画を絵にすることが多いこともあってなかなか形になる姿が想像できずにいた。

 かなめも首をひねって考えている。隣で余裕の表情のアイシャを見れば、いつものかなめならすぐにむきになって手が出るところだが、いい案をひねり出そうとして思案にくれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

変態な俺は神様からえっちな能力を貰う

もずく
BL
変態な主人公が神様からえっちな能力を貰ってファンタジーな世界で能力を使いまくる話。 BL ボーイズラブ 総攻め 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。

ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。 王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。 しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!? 全18話。

猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

咲良緋芽
恋愛
あの雨の日に、失恋しました。 あの雨の日に、恋をしました。 捨てられた猫と一緒に。 だけど、この恋は切な過ぎて……。 ――いつか、想いが届くと願ってます。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...