上 下
379 / 1,413
第12章 謹慎

戦う意味

しおりを挟む
「まあ、僕も死にたくは無いですけどね……でも……」

 誠は頭を掻き、照れながらそう言った。

「まあ、誰でも死にたくは無いわな。じゃあ、それで良いんだな」

 そう言ってかなめは周りを見まさす。

「西園寺さん!僕の話を聞いてください!僕が言いたいのはですね……」

「なんだよ神前。死にたくないでそれでいいじゃないか、それで十分だぜそれで」

 かなめは真剣な表情の誠をなだめすかせるようにそう言う。

「いえ、それじゃあ納得できないんです。クバルカ中佐。一つ、質問があります」

「誠ちゃんが珍しくかなめちゃんに逆らったわね……」

 いつになく真剣な誠を冷やかすようにアイシャがそう言って見つめる。

「質問だ?……まーいーや。聞こうじゃねーか。なんだ、言ってみろ」

 自分を見つめる強い意志を持った誠にランはそう言って穏やかな視線を返した。

 ランのにらむような視線に見つめられて誠にいつもの気弱な表情が戻る。だが、誠はすぐに意を決したような表情を浮かべて口を開いた。

「何をしても生き延びろ。まあ、僕も無駄死にはしたくありません。でも、そうして生き延びた先。僕達はなぜ、そうまでして生き延びなければならないんですか……そうまでして戦い続ける理由は何ですか?戦う理由。それを教えてください」

 言葉を一つ一つ選びながらそう言った。そのいつもに無い気の弱い誠の視線。しかし、ランはそれにひるむことなく誠を見つめ続ける。

「戦う意味だ?……神前……オメエ何が言いたい……」

 誠の言葉にあきれ果てたという口調でかなめはそう言った。

「おい、西園寺。オメーは浅はかだぜ……神前よりはるかに場数を踏んでるのに……オメーは本当に浅はかだ。いいぜ、聞かせてやろう。神前、オメーが望むもの。そして、司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐からアタシが聞いた戦う意味って奴をさ……同席した連中は僥倖だぜ……聞き逃すなよ……」

 そう言ったランの顔には満足げな笑みが浮かんでいた。

「アタシが知らない話だ。聞こうじゃねえか」

 満足げな笑みを浮かべながらかなめがつぶやく。

「急くなよ、西園寺。まあ普通の兵隊さんの目的は勝利だわな……要するに勝ちゃあいい。まあ、その際に国際法だ、政治力だ、経済力だ、まあ色々あるが、目的ってのは勝利ってことになってる。この勝利ってのも単純じゃない……まあそんなことはこの際どーでもいーこった。要するに軍の目的は勝利だ。まあ、うちと性格の似ているお巡りさんなら治安維持、国民の財産と生命を守る。まあ兵隊の勝利が目的ってのと比べると多少分かりにくいが、ようするにみんなの命を守る。まあ目的ははっきりしてるわな」

 さっぱりとした口調でランは言い切る。隣でかなめが凄味を利かせた目で小さなランを見つめた。

「一般論を利かせるたあ……随分と……」

「だから西園寺。最後まで聞け、戦う意味、アタシ達が戦い続けなきゃならねー目的ってのは……命を救う事だ」

 静かに。そして言い切るようにランは言った。その言葉にアイシャが納得できないように頭を掻いた。

「期待させておいてそれ?ランちゃん。それならさっきランちゃんがお巡りさんの仕事だって言ってたことじゃない。何か違いでもあるの?」

 不服そうなアイシャにランは呆れたようにため息をついた。

「そんなこと誰かが言うと思ったよ。アタシ等の命を守るってのはそんなに単純なもんじゃねーんだ。ちゃんと聞いとけ……」

 そう言ってランは余裕のある笑みを浮かべた。それはその姿の少女のそれとはとても思えない老成したものだった。

「確かにお巡りさんのお仕事は命を守るってことだ。まあ、時には持ってる拳銃なんかを抜くが、まあそれも人命救助って目的のためだ。西園寺、ここで茶々を入れるなよ。怪しいってだけで無実の人をぶっ殺す馬鹿も警察官をやってるって言いたいんだろ?テメーは。そんな例外はアタシの話にゃ上がってこねー。あくまでまともなお巡りさんの話だ。まあ、これから話すことっを聞けば。アタシ等がはたから見ればまともには見えないこともあるってことは言っといたほうがいいかな。まあ、人さんの意見などどうでもいいが……」

 静かにそして冷静にランは話を続けた。

「まあ、アタシや隊長の命令が時に最低で人の道に反していると思えることもあるかも知れねー。まあ、そん時それに従うかどうかはテメー等の勝手だ……そん時言う事を聞かなくてもアタシや隊長は怒らねーよ。ただ、そんな時、オメー等に非道な悪魔になれとアタシと隊長が指示を出した時。指示を出した責任を取るのがアタシや隊長の務めだ。オメー等の責任じゃねー。ただそいつは人の命を救うためだ。目の前の一人を殺すことでその背後にいる数百、数千の命を救えるなら……アタシ等はどんな酷い命令でも出す……そう言う事だ」

 ランの非情で冷たい言葉に一同は沈黙した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第四部 『魔物の街』

橋本 直
SF
いつものような日常を過ごす司法局実働部隊の面々。 だが彼等の前に現れた嵯峨茜警視正は極秘の資料を彼らの前に示した。 そこには闇で暗躍する法術能力の研究機関の非合法研究の結果製造された法術暴走者の死体と生存し続ける異形の者の姿があった。 部隊長である彼女の父嵯峨惟基の指示のもと茜に協力する神前誠、カウラ・ベルガー、西園寺かなめ、アメリア・クラウゼ。 その中で誠はかなめの過去と魔都・東都租界の状況、そして法術の恐怖を味わう事になる。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

処理中です...