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第11章 捜査権限

いつも通りの独断専行

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「なんだよ、神前。アタシ等に付き合う必要なんて無いんだぜ」 

 かなめが出口の前に立って笑みを浮かべている。カウラはすでに端末を開いて遼南軍の情勢を探っていた。

「遼南山岳レンジャー部隊。どれほどの実力か見せてもらえるのはありがたいな」 

 不敵に笑うカウラを見てアイシャは肩をすくめて誠を見つめていた。

「そう言えばムジャンタ・ライラ中佐と西園寺さんや警視正って……」 

 暗がりの中足早に基地を出ようとするかなめに誠が声をかけた。

「ああ、ライラさんと私達の関係は複雑ですからねえ」 

 茜の声が冷たい冬の空気に消える。先ほどショックで貧血を起こしかけたとは思えない厳しい表情が基地のスポットライトを浴びながら輝いて見える。

「遼南王族の家系は複雑だからなあ。先の皇帝ムジャンタ・カバラの数多くの妻のうち正妻のカグラーヌバ・エニカの子供は叔父貴とライラの父親の故バスバ殿下のみだ。そのカグラーヌバ・エニカの妹がカグラーヌバ・リキュル、現在の名前は西園寺康子でアタシのおふくろ、つまりアタシもあのおばさんは母方の親戚でってわけだ」 

 そう言うとかなめはタバコを取り出す。嵯峨の兄弟、皇帝ムジャンタ・ムスガの子は百人以上いることは誠も知っていた。しかしその多くが庶子であり、司法局実働部隊の管理部部長、高梨渉参事のように母方の苗字を名乗るのが普通だった。

「叔父貴も本当は自分が遼南皇帝を退位した後にはライラにすえるつもりだったらしいぞ。まあ血統順なら茜が第一帝位継承者になるわけだが一度は王室を離れて胡州の戸籍を持っているということで国内での支持を得られる見込みが無いからな」 

 かなめの吐き出すタバコの煙が冬の澄んだ空気の中、ライトに照らされてなびいている。

「でもなああいつは見ての通りの頑固者で、結局未だに帝位の継承を拒否していやがる。おかげで叔父貴は名目上はいまだに遼南の元首だ」 

 誠はかなめの苦笑いに合わせるように笑いを浮かべる。一方タバコの煙を吐きながらかなめがいやらしい笑いを口元に浮かべた。

「本当に頑固だからねえ。ライラの姐御もそんなだから旦那にも逃げられるんだよ」 

「それは関係ないんじゃないですの?」 

 冗談に答える時も茜は真面目な表情を崩さなかった。カウラは二人のやり取りに呆れたような視線を送った後、先頭を歩いて作戦開始地点に止めてあるワゴン車への道を急ぐ。

「でも良いんですか?軍が動き出したら僕達は用済みになるんじゃないですか?」 

「逆だな。私達はある意味目的はこれで一つは達成したことになるな。これ以上非人道的な実験を行わせないというのも今回の作戦行動の目的の一つだ。軍が動けば私達が追っている研究施設の連中もやすやすとは動くに動けなくなる。そうなれば実験は中止に追い込まれる公算も無いとはいえない」 

 カウラはそう言うと基地を制圧し、非常線を張っている山岳部隊の兵士に敬礼する。だが一人島田は浮かない顔で一番後ろを歩いていた。

「どうしたの正人」 

 サラの心配そうな声に誠達は立ち止まった。いつもの陽気な島田の姿はそこには無かった。

「そう言えばさっき叔父貴に呼ばれてたけど何かあったのか?」 

 そう言いながらかなめは携帯灰皿を取り出す。カウラや茜、そしてこういう時は先頭に立っていじりに行くアイシャも不思議そうに島田を見つめていた。

「別に良いじゃないですか。俺も遼州系ですから今回の事件への憤りは……」 

「そんなきれいごとが出てくるような顔じゃないぜ。何かあったんだろ?」 

 かなめの言葉を無視して島田は歩き始めた。サラは心配そうに島田の肩にすがりつく。苦笑いを浮かべる島田は彼女の肩に手を乗せた。

「まあどうでも良いけど。それよりランちゃん。啖呵は切ったのは良いけどどうするつもり?」 

 いつもと違う島田を眺めながらアイシャが小さなランの頭に手を載せる。どうせ何を言ってもアイシャには無駄だと分かっているのでランはそのままの体勢でしばらく考え込んだ。

「隊長が島田に何かを見せてけしかけたってことは、アタシ等の出番が終わりじゃないって事を言いたかったんだろうな。それにアタシも遼南軍の動きを耳にしてなかったから恐らく正式な出動手続きが行われたとしてもそれは臨時的措置で権限もかなり制約されているだろうからなあ」 

「そうですわね。私達の捜査権限を法的に取り上げることを意味する出動なら早い段階で私やクバルカ中佐に話が降りてくるのが普通ですから。ライラ様もあのようにおっしゃったのは恐らく手柄を取られたくないからけん制したおつもりなんでしょう」 

 茜もランの言葉に頷いていた。

「じゃあ決まりだな。明日から忙しくなるぞ」 

 銃を吊り下げたままかなめが再びタバコを取り出す。誠は呆れた顔で歩き出すかなめに続いていった。
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