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第8章 手がかり
在東和遼南人協会
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端末に集中しようとした誠の視界に、島田が久しぶりに見る整備班員のつなぎ姿で廊下を見ながら部屋に入ってきたのが見えた。隣にはサラがニヤニヤ笑いながら廊下の騒動を眺めているのが見える。
「ベルガー大尉。あれ、何とかした方が良いですよ」
そう言って島田は隊長室の辺りを指差す。カウラとランが飛び出していく。誠もつられて出て行くとそこにはかなめとかえでがいた。かえではかなめにしがみつきながら泣いている。ドサクサ紛れに胸を揉む彼女の手をかなめは思い切りつねり上げている。
「お姉さまー!お姉さまが解雇なら僕もー!」
「だから違うって言ってるだろ!人の話を聞けよ!」
叫ぶかえでをかなめはなんとかたしなめようとする。その隣ではその様をかえでの愛人である渡辺要大尉が黙って見つめている。その異常な光景に誠達はただ唖然としていた。
「まあ……あれは一つのレクリエーションだからな」
カウラは自分に言い聞かせるようにそう言って冷ややかな目を騒動の本人達に向けていた。
「どうなんだ、そっちは?」
ひとたび呆れたようにそのまま席に戻ったランが島田に声をかける。頭を掻きながらかなめ達の騒動を見つめているサラを振り返ると諦めたような笑みを浮かべる。
「どうもねえ。口が堅い人が多いのか、それとも本当に何も知らないのか微妙なところでしてね。とりあえず今日は独自のルートで捜査するからって茜お嬢さん達は出かけたわけですが……」
明らかに煮詰まっているのがわかって誠も島田に同情した。
「アタシ等も第三者に監視されている状態だしな。どこかの馬鹿がかなめみたいに状況にいらだって動いてくれると楽なんだけどなー」
「不謹慎な発言は慎んでください」
ランの言葉にカウラが慎重にそう突っ込む。それを見て舌を出すランを見て誠は萌えを感じていた。
「でもこの監視している画像を撮った人は何者なんですかね」
誠の言葉にランは首をひねる。実働部隊の詰め所のドアにはようやくかえでを引き剥がしたかなめが息を荒げて部屋に入ってくる。
「それか?出所は在東和遼南人協会のサーバーからのアクセスだそうだ」
そう言ってかなめは詰め所に押し入った。誠達もそれに続く。かなめに逃げられたかえでは廊下で指をくわえてかなめに熱い視線を送っている。
「在東和遼南人協会。初めて聞く名前ですね。それってどう言う組織ですか?」
誠の何気ない発言にカウラが失望したようにため息をつく。
「遼南内戦で敗北した共和軍の亡命者が作った団体だ。主に構成員は前政権の官僚や軍の関係者が多かったが、最近では嵯峨の親父さんが遼南皇帝時代に叩き潰した遼南東海州の花山院軍閥の関係者が多いな。一時期の人民党の圧政や経済の混乱で発生した難民の相互利益の確保を目的としていると言うのが建前だが、実際のところは嵯峨朝とその後の政権の悪口を喧伝して回っている暇人の集団だ」
カウラの言葉にかなめが苦々しげにさらに話を続けた。
「表向きはそうだが実際には裏ルートでの物資の流通を管理していると言う話もある……まあ胡散臭い団体だな。近藤事件でも非合法物資の売却で得た資金のロンダリングを一部を近藤忠久中佐に頼んでいた資料はお前も見てるはずだから覚えておけよ」
カウラの言葉でようやく誠も親胡州系のシンジケートの中にその名前があったのを思い出した。
「でもなんでそこの関係者がこんな画像を撮れたんですか?」
「サーバーを使ったからってこのビデオの撮影をした人間が在東和遼南人協会の関係者とは限らねーだろうが」
キーボードを叩きながらランが突っ込む。
「無関係では無いとは思うが少なくとも吉田にそのサーバーを介して情報を流す意図を持った人物が、アタシ等の監視をしていることを印象付けたかったと言うことは間違いないだろうな」
ようやくかえでから解放されたかなめは、そう言って自分の端末の画面を開いた。
「でも……僕達を監視しているって宣言してみせる意味が分からないんですけど」
そんな誠の言葉に一番に落胆した表情を浮かべたのはかなめだった。
「あのなあ、アタシ等の監視をしていると言うことはだ。いずれこの監視をしている連中の利害の範囲にアタシ等が関わればただじゃすまないぞ、と言う脅しの意味があるんだと思うぞ。実際、物理干渉型の空間展開なんかを見せ付けているわけだからな。どんな強力な法術師を擁しているか分かったもんじゃねえよ」
モニターを見ながら首筋のジャックにコードをつなげながらかなめがそう言って苦虫をかみつぶしたような顔をした。そしてようやく吉田の手から脱出したシャムが誠の端末の画面を覗き込んできた。
「なんでこんなことしたのかな」
純粋なシャムが正直な疑問を面々に投げかける。
「アホか?今の話聞いてただろ?脅しだよ脅し」
かなめはそう言うと始末書の作成に取り掛かる。だが、シャムは相変わらず首をひねっている。
「だって、ただ邪魔をしたいとか監視していることを知ってほしいなら、直接かなめちゃん達に攻撃を仕掛ければ良いじゃないの」
シャムの何気ない一言にランが顔を上げた。
って実働部隊の詰め所から更衣室へと向かった。
「ベルガー大尉。あれ、何とかした方が良いですよ」
そう言って島田は隊長室の辺りを指差す。カウラとランが飛び出していく。誠もつられて出て行くとそこにはかなめとかえでがいた。かえではかなめにしがみつきながら泣いている。ドサクサ紛れに胸を揉む彼女の手をかなめは思い切りつねり上げている。
「お姉さまー!お姉さまが解雇なら僕もー!」
「だから違うって言ってるだろ!人の話を聞けよ!」
叫ぶかえでをかなめはなんとかたしなめようとする。その隣ではその様をかえでの愛人である渡辺要大尉が黙って見つめている。その異常な光景に誠達はただ唖然としていた。
「まあ……あれは一つのレクリエーションだからな」
カウラは自分に言い聞かせるようにそう言って冷ややかな目を騒動の本人達に向けていた。
「どうなんだ、そっちは?」
ひとたび呆れたようにそのまま席に戻ったランが島田に声をかける。頭を掻きながらかなめ達の騒動を見つめているサラを振り返ると諦めたような笑みを浮かべる。
「どうもねえ。口が堅い人が多いのか、それとも本当に何も知らないのか微妙なところでしてね。とりあえず今日は独自のルートで捜査するからって茜お嬢さん達は出かけたわけですが……」
明らかに煮詰まっているのがわかって誠も島田に同情した。
「アタシ等も第三者に監視されている状態だしな。どこかの馬鹿がかなめみたいに状況にいらだって動いてくれると楽なんだけどなー」
「不謹慎な発言は慎んでください」
ランの言葉にカウラが慎重にそう突っ込む。それを見て舌を出すランを見て誠は萌えを感じていた。
「でもこの監視している画像を撮った人は何者なんですかね」
誠の言葉にランは首をひねる。実働部隊の詰め所のドアにはようやくかえでを引き剥がしたかなめが息を荒げて部屋に入ってくる。
「それか?出所は在東和遼南人協会のサーバーからのアクセスだそうだ」
そう言ってかなめは詰め所に押し入った。誠達もそれに続く。かなめに逃げられたかえでは廊下で指をくわえてかなめに熱い視線を送っている。
「在東和遼南人協会。初めて聞く名前ですね。それってどう言う組織ですか?」
誠の何気ない発言にカウラが失望したようにため息をつく。
「遼南内戦で敗北した共和軍の亡命者が作った団体だ。主に構成員は前政権の官僚や軍の関係者が多かったが、最近では嵯峨の親父さんが遼南皇帝時代に叩き潰した遼南東海州の花山院軍閥の関係者が多いな。一時期の人民党の圧政や経済の混乱で発生した難民の相互利益の確保を目的としていると言うのが建前だが、実際のところは嵯峨朝とその後の政権の悪口を喧伝して回っている暇人の集団だ」
カウラの言葉にかなめが苦々しげにさらに話を続けた。
「表向きはそうだが実際には裏ルートでの物資の流通を管理していると言う話もある……まあ胡散臭い団体だな。近藤事件でも非合法物資の売却で得た資金のロンダリングを一部を近藤忠久中佐に頼んでいた資料はお前も見てるはずだから覚えておけよ」
カウラの言葉でようやく誠も親胡州系のシンジケートの中にその名前があったのを思い出した。
「でもなんでそこの関係者がこんな画像を撮れたんですか?」
「サーバーを使ったからってこのビデオの撮影をした人間が在東和遼南人協会の関係者とは限らねーだろうが」
キーボードを叩きながらランが突っ込む。
「無関係では無いとは思うが少なくとも吉田にそのサーバーを介して情報を流す意図を持った人物が、アタシ等の監視をしていることを印象付けたかったと言うことは間違いないだろうな」
ようやくかえでから解放されたかなめは、そう言って自分の端末の画面を開いた。
「でも……僕達を監視しているって宣言してみせる意味が分からないんですけど」
そんな誠の言葉に一番に落胆した表情を浮かべたのはかなめだった。
「あのなあ、アタシ等の監視をしていると言うことはだ。いずれこの監視をしている連中の利害の範囲にアタシ等が関わればただじゃすまないぞ、と言う脅しの意味があるんだと思うぞ。実際、物理干渉型の空間展開なんかを見せ付けているわけだからな。どんな強力な法術師を擁しているか分かったもんじゃねえよ」
モニターを見ながら首筋のジャックにコードをつなげながらかなめがそう言って苦虫をかみつぶしたような顔をした。そしてようやく吉田の手から脱出したシャムが誠の端末の画面を覗き込んできた。
「なんでこんなことしたのかな」
純粋なシャムが正直な疑問を面々に投げかける。
「アホか?今の話聞いてただろ?脅しだよ脅し」
かなめはそう言うと始末書の作成に取り掛かる。だが、シャムは相変わらず首をひねっている。
「だって、ただ邪魔をしたいとか監視していることを知ってほしいなら、直接かなめちゃん達に攻撃を仕掛ければ良いじゃないの」
シャムの何気ない一言にランが顔を上げた。
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