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第2章 生と死

秘密へ向かう道

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 誠達が無意識領域にパスワードを入力する儀式を終えて戻ったエレベータルームには相変わらず人の気配が無い。

「これだけの機密ってことは……本当に俺等が来て良かったんですか?」 

 前線部隊ではない技術部整備班長の島田が頭を掻く。そして運用艦『高雄』の管制オペレータであるサラも同じようにうなづいた。

「まあ現物をごらんいただければその機密がどういう性格のものかわかりますわ」 

 それだけ言うと茜は黙り込んだ。その突然の沈黙に誠の好奇心は再び不安に変わった。エレベータのドアが開いて一同は乗り込む。最後に乗ったラーナがエレベータにポケットから出したキーを差し込む。

「隠し部屋ですか。さらに厄介だ」 

 島田の一言にランの鋭い視線が突き刺さる。驚いた島田はそのままサラを見てごまかした。動きだしたエレベータの中。浮いたような感覚、そしてすぐに押しつぶそうとする感覚。パイロットの誠には慣れた感覚だが、それがさらに不安を掻き立てる。

 そして当然のようにドアが開いた。薄暗い廊下。壁も天井もコンクリートの打ちっ放しで、訪れるものの不安をさらにかきたてる。あえて救いがあるとすれば若干の人の気配がするくらいのことだった。

 廊下に出た茜に続くと、誠はそこで白衣を着た研究者のような人達が行き来する活気に心が救われる思いだった。

「人体実験でもやっているのかねえ」 

 かなめの無責任な言葉に茜が振り向いて棘のある微笑を浮かべる。かなめはそのまま後ろに引っ込みカウラの陰に隠れた。

「これは……嵯峨警視正」 

 部屋の奥から低い声が響いた。到着したのは生物学の実験室のような部屋だった。遠心分離機に検体を配置している若い女性研究者の向こうの机に張り付いていた頭の禿げ上がった眼鏡の研究者が茜に声をかけてくる。

「例のものを見に来ましたわ……それとその処理を行える人材もいましてよ」 

 研究者があまりにも研究者らしかったのがおかしいとでも言うように噴出しかけたかなめを一瞥した後、茜はそう言って巾着からマイクロディスクを取り出す。

「そうですか。失礼」 

 そう言うと眼鏡の研究者はそれを受け取り手元の端末のスロットにそれを差し込んだ。画面にはいくつものウィンドウが開き、何重にもかけられたプロテクトを解除していく。

「なんだよ、ずいぶん手間がかかるじゃないか」 

 かなめはそう言いながら部屋を見渡した。

「サンプル……人間の臓器だな」 

 カウラの言葉に誠は改めて並んでいる標本に目を向けた。いくつかはその中身が人間の脳であることが誠にもすぐにわかった。他にもさまざまな臓器のサンプルがガラスの瓶の中で眠っているように見える。

「ちょっと、そこ」 

 明らかに緊張感の無い様子でアイシャがつついたのは島田の手にしがみついているサラを見つけたからだった。

「ランちゃんは……平気なの?」 

 島田から引き剥がされたサラがランを見下ろす。

「オメーなー。アタシが餓鬼だとでも言いてーのか?」 

 そうランが愚痴った時、ようやく研究者の端末の画面がすべてのプロテクトの解除を知らせる画面へと切り替わった。

「それでは参りましょう」 

 茜はそう言うといつものように緊張感の無い誠達に目を向けた。

 奥には金庫の扉のようにも見えるものが鎮座している。迷うことなく茜は進む。彼女はそのまま扉の横のセキュリティーにパスワードを打ち込む。

「ここまでは一般向けのセキュリティーか」 

 かなめはそう言うと開いていくドアの中を伸びをして覗き込む。そんなかなめを冷めた目で見ながら茜はそのまま中へと歩き出す。

 無音。ただ足音だけが聞こえている。

「遅れるんじゃねーぞ。全員のパスワードが次のセキュリティー解除に必要だからな」 

 ランの言葉に誠は思わず手を握り締めた。彼の後ろでは観光気分のサラとニヤニヤしている島田がついてきていた。そして30メートルほど歩いたところで道は行き詰るかに見えた。しかし、すぐに機械音が響き、行き止まりと思った壁が開く。

「ずいぶん分厚い扉だねえ。なんだ?化け物でも囲ってるのか?」 

 軽口を叩くかなめを無視して茜は歩き続ける。

「わくわくしない?神前君」 

 後ろからサラに声をかけられるが誠はつばを飲み込むばかりで答えることが出来なかった。

 カウラは通路の壁を触ったりしながらこの場所の雰囲気を確認しようとしているようだった。かなめは後頭部で両腕を組みながらまるで普段と変わりなく歩いている。アイシャは首が疲れるんじゃないかと誠が思うくらいきょろきょろさせながらアトラクション気分で歩いていた。

 そして再び行き止まりにたどり着く。

「おい、島田。もっとこっちに来い!パスワードがそろわねーだろ!」 

 ランがそう言って最後尾を歩いていた島田を呼ぶ。

 彼がサラにくっつくようにやってきたとき再び扉が開いた。
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