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第13話 新たな世代

地下佐賀家

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「まあ、これが組織って奴なのかも知れませんねえ。お互い信じる正義を曲げるつもりはさらさらないと……」 

 そう言いながら再び嵯峨はタバコの煙を大きく肺に取り入れる。

「文隆!」 

 突然の声の主に醍醐は驚いたように振り向いた。醍醐文隆一代公爵の兄に当たる、地下《ぢげ》佐賀家の当主、佐賀高家侯爵が紫色の武家装束で通用口から顔を出していた。彼ははじめは弟、醍醐の顔を見つめていたが、その話し相手が嵯峨だとわかるとその笑顔が引きつって見えた。

 弟と同じ嵯峨家の被官という立場だが、佐賀高家の立場は複雑だった。

 嵯峨家は60年前に当主が跡継ぎを残さず死去した。その家格と2億の領民を抱える領邦のコロニー群は四大公筆頭である西園寺家に預けられた。嵯峨家の分家である佐賀家。特に現当主佐賀高家は殿上嵯峨家の家督にこだわった。その巨大な財力と四大公の家格は胡州ばかりでなく地球までも影響を持ちえる権力を手にすることを意味する。

 だが、西園寺家はこの要求を黙殺した。先代の当主西園寺重基は三男西園寺新三郎の妻の死で残された子供である茜の安全を図ると言う目的で嵯峨惟基の名で殿上嵯峨家の家名を継がせた。このことは佐賀高家にとっては屈辱でしかなかった。

 敗戦後、西園寺家現当主、義基が貴族の特権の廃絶を目指す政治活動を開始すると佐賀高家は主家と決別し、四大公家の一つ、烏丸家を中心とする貴族主義的なグループの一人として活動を開始した。そうして佐賀高家はいわゆる『官派』と呼ばれるその貴族主義的な勢力の一員として西園寺家の
『民派』との対立の構図にはまり込むこととなった。

 その対立は『官派の乱』と呼ばれたたった一月あまりの内戦で終わった。決起した官派は決戦に敗れて武装解除させられた。そして嵯峨惟基は官派に属しながら内戦時には傍観を決め込んだ嵯峨家の被官である佐賀高家に切腹を命じた。民派の軍の中心人物だった腹違いの弟である醍醐文隆の助命嘆願で何とか首と胴がつながっていたが、それからは土下座をした主君嵯峨惟基を見る目はどうしても卑屈なものになるのを佐賀高家は感じていた。

「兄上。それでは失礼しましょう」 

 そんな弟、醍醐文隆の言葉が遠くに聞こえるのを佐賀高家は感じていた。殿上嵯峨家と地下佐賀家。かつてその差を越えられると信じていた時代があったことがまるで嘘のように佐賀高家は感じていた。嵯峨惟基。彼は揚げ足を取ろうと狙っている佐賀高家から見ても優秀な領邦領主であり、政治の場における発言力、そして最後の決断においても恐ろしい敵であった。

 弟の冴えない表情を見て、彼は弟とこの敵に回せばただで済むことが考えられない主君の間に険悪な雰囲気が漂っていることにただならぬ恐怖を感じていた。

「文隆、来い」 

 そう言って佐賀高家は弟を引っ張って建物の中に消えた。嵯峨は黙って缶コーヒーの缶に吸い終えたタバコを入れてそのまま道に置いて建物の中に入った。
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