283 / 1,410
第11章 デート
アイシャの思い付き
しおりを挟む
「そうだ、ゲーセン行きましょうよ、ゲーセン」
どうせ良い案が誠から引き出せないことを知っているアイシャは、そう言うとハンバーガーの最後の一口を口の中に放り込んだ。
「ゲーセンですか……そう言えば最近UFOキャッチャーしかしていないような気が……」
「じゃあ決まりね」
そう言うとアイシャはジュースの最後の一口を飲み干した。誠もトレーの上の紙を丸めてアイシャの食べ終わった紙の食器をまとめていく。
「気が利くじゃない誠ちゃん」
そう言うとアイシャと誠は立ち上がった。トレーを駆け寄ってきた店員に渡すと二人はそのまま店を出ることにした。
「ちょっと寒いわね」
アイシャの言葉に誠も頷いた。山から吹き降ろす北風はすでに秋が終わりつつあることを知らせていた。高速道路の白い線の向こう側には黄色く染まった山並みが見える。
「綺麗よね」
そう言いながらアイシャは誠に続いてパーラから借りた車に乗り込んだ。
「じゃあ、とりあえず豊川市街に戻りましょう」
アイシャの言葉に押されるように誠はそのまま車を発進させる。親子連れが目の前を横切る。歩道には大声で雑談を続けるジャージ姿で自転車をこぐ中学生達が群れている。
「はい、左はOK!」
そんなアイシャはそう言ってアクセルを踏んで右折した。
平日である。周りには田園風景。誠は農業高校出身のシャムに教えられた大根とにんじんの葉っぱが一面に広がっている。豊川駅に向かう都道を走るのは産業廃棄物を積んだ大型トラックばかりだった。
「そう言えばゲーセンて?」
誠はそう言うと隣のアイシャを見つめた。
紺色の長い髪が透き通るように白いアイシャの細い顔を飾っている。切れ長の眼とその上にある細く整えられた眉。彼女がかなりずぼらであることは誠も知っていたが、もって生まれた美しい姿の彼女に誠は心が動いた。人の手で創られた存在である彼女は、そのつくり手に美しいものとして作られたのかもしれない。そんなことを考えていたら、急に誠は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
「ああ、南口のすずらん通りに大きいゲーセンあったわよね?」
アイシャがしばらく考え事をしていた結果がこれだった。それでこそアイシャだと思いながら誠は一人頷いた。パーラの四輪駆動車は緩やかに加速をしながら街の中心部に向かった。
「南口ってことはマルヨですか?」
「ああ、夏に水着買ったの思い出したわ。そう、マルヨの駐車場に停めてから行きましょう」
誠はアイシャの言葉に夏の海への小旅行を思い出していた。
『あの時は西園寺さんがのりのりだったんだよな……』
そう思い返す。そして今日二人を送り出したときのかなめの顔を思い出した。
しかし他の女性のことを考えた罪悪感から誠は現実に引き戻される。窓から外を見れば周りには住宅が立ち並び、畑は姿を消していた。車も小型の乗用車が多いのは買い物に出かける主婦達の活動時間に入ったからなのだろう。
「かなめちゃん怒っているわよね」
「え、アイシャさんも西園寺さんのこと……」
そう言いかけてアイシャは急に誠に向き直った。眉をひそめて切れ長の目をさらに細めて誠をにらみつけてくる。
「も?今、私達はデート中なの。他の女の話はしないでよね」
自分で話を振っておきながらアイシャはそう言うと気が済んだというようににっこりと微笑む。その笑顔が珍しく作為を感じないものに見えて誠は素直に笑い返すことができた。
買い物に走る車達は中心部手前の郊外型の安売り店に吸い込まれていった。さらに駅に近づいていく誠達の車の周りを走るのはタクシーやバス、それに営業用の車と思われるものばかりになった。
そのままアイシャはハンドルを切ってマルヨの立体駐車場に車を入れる。
「結構空いてるわね」
アイシャがそうつぶやくのも当然で、いつもは一杯の一階の入り口近くの駐車スペースにも車はちらほらと停められているだけだった。
「時間が時間ですから」
誠がそう答えると、アイシャはそのまま空いている場所に車を頭から入れる。
「バックで入れた方がいいんじゃないですか?」
「いいのよ。めんどくさい」
そう言いながらアイシャはシートベルトをはずして振り向く。
「でもここに来るの久しぶりじゃないの?」
「ああ、この前カウラさんと……」
そこまで言いかけて助手席から降りて車の天井越しに見つめてくる澄んだアイシャの表情に気づいて誠は言葉を飲み込んだ。
「ああ……じゃあ行きましょう!」
誠は苦し紛れにそう言うとマルヨの売り場に向かう通路を急いだ。アイシャは急に黙り込んで誠の後ろに続く。
「ねえ」
目の前の電化製品売り場に入るとアイシャが誠に声をかけた。恐る恐る誠は振り向いた。
「腕ぐらい組まないの?」
そんなアイシャの声にどこと無く甘えるような響きを聞いた誠だが、周りの店員達の視線が気になってただ呆然と立ち尽くしていた。
「もう!いいわよ!」
そう言うとアイシャは強引に誠の左手に絡み付いてきた。明らかにその様子に嫉妬を感じていると言うように店員が一斉に目をそらす。アイシャの格好は派手ではなかったが、人造人間らしい整った面差しは垢抜けない紺色のコートを差し引いてあまる魅力をたたえていた。
「ほら、行きましょうよ!」
そう言ってアイシャはエスカレーターへと誠を引っ張っていく。そのまま一階に降り、名の知れたクレープ店の前のテーブルを囲んで、つれてきた子供が走り回るのを放置して雑談に集中していた主婦達の攻撃的な視線を受けながら誠達はマルヨを後にした。
どうせ良い案が誠から引き出せないことを知っているアイシャは、そう言うとハンバーガーの最後の一口を口の中に放り込んだ。
「ゲーセンですか……そう言えば最近UFOキャッチャーしかしていないような気が……」
「じゃあ決まりね」
そう言うとアイシャはジュースの最後の一口を飲み干した。誠もトレーの上の紙を丸めてアイシャの食べ終わった紙の食器をまとめていく。
「気が利くじゃない誠ちゃん」
そう言うとアイシャと誠は立ち上がった。トレーを駆け寄ってきた店員に渡すと二人はそのまま店を出ることにした。
「ちょっと寒いわね」
アイシャの言葉に誠も頷いた。山から吹き降ろす北風はすでに秋が終わりつつあることを知らせていた。高速道路の白い線の向こう側には黄色く染まった山並みが見える。
「綺麗よね」
そう言いながらアイシャは誠に続いてパーラから借りた車に乗り込んだ。
「じゃあ、とりあえず豊川市街に戻りましょう」
アイシャの言葉に押されるように誠はそのまま車を発進させる。親子連れが目の前を横切る。歩道には大声で雑談を続けるジャージ姿で自転車をこぐ中学生達が群れている。
「はい、左はOK!」
そんなアイシャはそう言ってアクセルを踏んで右折した。
平日である。周りには田園風景。誠は農業高校出身のシャムに教えられた大根とにんじんの葉っぱが一面に広がっている。豊川駅に向かう都道を走るのは産業廃棄物を積んだ大型トラックばかりだった。
「そう言えばゲーセンて?」
誠はそう言うと隣のアイシャを見つめた。
紺色の長い髪が透き通るように白いアイシャの細い顔を飾っている。切れ長の眼とその上にある細く整えられた眉。彼女がかなりずぼらであることは誠も知っていたが、もって生まれた美しい姿の彼女に誠は心が動いた。人の手で創られた存在である彼女は、そのつくり手に美しいものとして作られたのかもしれない。そんなことを考えていたら、急に誠は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
「ああ、南口のすずらん通りに大きいゲーセンあったわよね?」
アイシャがしばらく考え事をしていた結果がこれだった。それでこそアイシャだと思いながら誠は一人頷いた。パーラの四輪駆動車は緩やかに加速をしながら街の中心部に向かった。
「南口ってことはマルヨですか?」
「ああ、夏に水着買ったの思い出したわ。そう、マルヨの駐車場に停めてから行きましょう」
誠はアイシャの言葉に夏の海への小旅行を思い出していた。
『あの時は西園寺さんがのりのりだったんだよな……』
そう思い返す。そして今日二人を送り出したときのかなめの顔を思い出した。
しかし他の女性のことを考えた罪悪感から誠は現実に引き戻される。窓から外を見れば周りには住宅が立ち並び、畑は姿を消していた。車も小型の乗用車が多いのは買い物に出かける主婦達の活動時間に入ったからなのだろう。
「かなめちゃん怒っているわよね」
「え、アイシャさんも西園寺さんのこと……」
そう言いかけてアイシャは急に誠に向き直った。眉をひそめて切れ長の目をさらに細めて誠をにらみつけてくる。
「も?今、私達はデート中なの。他の女の話はしないでよね」
自分で話を振っておきながらアイシャはそう言うと気が済んだというようににっこりと微笑む。その笑顔が珍しく作為を感じないものに見えて誠は素直に笑い返すことができた。
買い物に走る車達は中心部手前の郊外型の安売り店に吸い込まれていった。さらに駅に近づいていく誠達の車の周りを走るのはタクシーやバス、それに営業用の車と思われるものばかりになった。
そのままアイシャはハンドルを切ってマルヨの立体駐車場に車を入れる。
「結構空いてるわね」
アイシャがそうつぶやくのも当然で、いつもは一杯の一階の入り口近くの駐車スペースにも車はちらほらと停められているだけだった。
「時間が時間ですから」
誠がそう答えると、アイシャはそのまま空いている場所に車を頭から入れる。
「バックで入れた方がいいんじゃないですか?」
「いいのよ。めんどくさい」
そう言いながらアイシャはシートベルトをはずして振り向く。
「でもここに来るの久しぶりじゃないの?」
「ああ、この前カウラさんと……」
そこまで言いかけて助手席から降りて車の天井越しに見つめてくる澄んだアイシャの表情に気づいて誠は言葉を飲み込んだ。
「ああ……じゃあ行きましょう!」
誠は苦し紛れにそう言うとマルヨの売り場に向かう通路を急いだ。アイシャは急に黙り込んで誠の後ろに続く。
「ねえ」
目の前の電化製品売り場に入るとアイシャが誠に声をかけた。恐る恐る誠は振り向いた。
「腕ぐらい組まないの?」
そんなアイシャの声にどこと無く甘えるような響きを聞いた誠だが、周りの店員達の視線が気になってただ呆然と立ち尽くしていた。
「もう!いいわよ!」
そう言うとアイシャは強引に誠の左手に絡み付いてきた。明らかにその様子に嫉妬を感じていると言うように店員が一斉に目をそらす。アイシャの格好は派手ではなかったが、人造人間らしい整った面差しは垢抜けない紺色のコートを差し引いてあまる魅力をたたえていた。
「ほら、行きましょうよ!」
そう言ってアイシャはエスカレーターへと誠を引っ張っていく。そのまま一階に降り、名の知れたクレープ店の前のテーブルを囲んで、つれてきた子供が走り回るのを放置して雑談に集中していた主婦達の攻撃的な視線を受けながら誠達はマルヨを後にした。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる