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第8章 命を狙う者
失敗
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その時だった。国賊と彼の呼ぶ嵯峨惟基は明らかに青年の方に向き直った。あまりのことに、青年は引き金を反射で引いてしまった。肩に強烈な火薬のエネルギーを受けて痛みが走る。弾丸は標的の数メートル前に着弾した。すぐさま体に叩き込んだ習慣でボルトを開放して次弾を装填していたが、目の前に見える光景に『彼』は自分の顔が青ざめていくのを感じた。
着流し姿の男が消えていた。扉の周りに立っていた常駐の警官隊が、突然響いた銃声にサブマシンガンを抱えて走り回っているのが見える。青年はすぐさま脱出のことを考えたが、振り向こうとする彼の頬に突きつけられた刃に体を凍らせた。
「腕は確かだねえ。惜しかった!実に惜しかった」
頬を伝うのは『彼』の血だった。『彼』にとっては敗北に等しい妥協と屈辱を遼州星系の民に強いた憎むべき敵。その敵の声が確かに後ろから響いていた。その突然の出来事に恐怖よりも怒りを感じつつ静かに『彼』は振り返った。
「国賊が……」
『彼』の言葉に背後の男は我慢することが精一杯とでも言うように笑いを漏らす。
「あんた等の言語のキャパシティーの貧弱さには感服するよ。国賊、悪魔、殺人鬼、人斬り、卑怯者、破廉恥漢、奸物、化け物、売国奴。まあもう少しひねった言いかたをしてもらいたいものだねえ」
そう言って男は剣を引いたが、『彼』はその機会を待っていた。
すぐさま落とした銃を手にしよう手を伸ばした。しかし、背後の気配はすばやく『彼』の意図を察して前へと踏み出す。そして『彼』が見たのは手首を切り落とされた自分の両腕だった。
「うっ!」
痛みが失われた両腕に走る中、『彼』は気力だけで悲鳴を上げるのこらえた。
目の前の着流し姿の男は『彼』の失われた両の手首をじっと見つめて、刀に付いた人肉の油を手ぬぐいでぬぐう。そこには『彼』が憎んだ下卑た笑いを浮かべる奸賊の姿があった。そしてその濁った目にたどり着いたとき、焼けるような痛みが両腕に走りそのまま『彼』は崩れるように倒れた。
「ああ、痛かったかねえ。それに凄い血だ。一応警告しとくけど暴れない方が良いよ。警官隊が来るまでどのぐらいかかるか……その傷じゃあ……それまで持つかどうか……微妙だね」
着流し姿の男、嵯峨惟基は残酷にそう言うと感情の死んだような瞳で『彼』を見つめた。『彼』の命を助けるつもりなど嵯峨にはさらさら無い。そう言うことを証明するかのように腰の鞘に兼光を戻すとすぐに帯からタバコを取り出して火をつけた。
「大公!」
警官隊が嵯峨に向かって走ってくる。だが、彼等の目の前には彼らの任務からすれば射殺すべきテロリストが両腕を失ってのた打ち回っている姿があるばかりだった。
「止血だ!急げ」
『港湾警備隊』という腕章をつけた駆けつけた警察部隊の隊長らしき男が部下に指示を出すと、部下は両腕を切り落とされた凶弾の射手に哀れみを顔に浮かべながらベストから止血セットを取り出して処置を始めた。
「こりゃあ運がいいみたいだ。せっかく拾った命だ。粗末にするもんじゃねえよ」
そう言ってタバコをふかす嵯峨の姿を痛みに支配されていた『彼』は見ることができなかった。
「状況を説明していただけますか?」
ヘルメットを脱いだ警察の部隊長が青ざめながら薄ら笑いを浮かべる着流し姿の男に声をかけている。『彼』はその光景を朧に見つめながら意識を失っていった。
着流し姿の男が消えていた。扉の周りに立っていた常駐の警官隊が、突然響いた銃声にサブマシンガンを抱えて走り回っているのが見える。青年はすぐさま脱出のことを考えたが、振り向こうとする彼の頬に突きつけられた刃に体を凍らせた。
「腕は確かだねえ。惜しかった!実に惜しかった」
頬を伝うのは『彼』の血だった。『彼』にとっては敗北に等しい妥協と屈辱を遼州星系の民に強いた憎むべき敵。その敵の声が確かに後ろから響いていた。その突然の出来事に恐怖よりも怒りを感じつつ静かに『彼』は振り返った。
「国賊が……」
『彼』の言葉に背後の男は我慢することが精一杯とでも言うように笑いを漏らす。
「あんた等の言語のキャパシティーの貧弱さには感服するよ。国賊、悪魔、殺人鬼、人斬り、卑怯者、破廉恥漢、奸物、化け物、売国奴。まあもう少しひねった言いかたをしてもらいたいものだねえ」
そう言って男は剣を引いたが、『彼』はその機会を待っていた。
すぐさま落とした銃を手にしよう手を伸ばした。しかし、背後の気配はすばやく『彼』の意図を察して前へと踏み出す。そして『彼』が見たのは手首を切り落とされた自分の両腕だった。
「うっ!」
痛みが失われた両腕に走る中、『彼』は気力だけで悲鳴を上げるのこらえた。
目の前の着流し姿の男は『彼』の失われた両の手首をじっと見つめて、刀に付いた人肉の油を手ぬぐいでぬぐう。そこには『彼』が憎んだ下卑た笑いを浮かべる奸賊の姿があった。そしてその濁った目にたどり着いたとき、焼けるような痛みが両腕に走りそのまま『彼』は崩れるように倒れた。
「ああ、痛かったかねえ。それに凄い血だ。一応警告しとくけど暴れない方が良いよ。警官隊が来るまでどのぐらいかかるか……その傷じゃあ……それまで持つかどうか……微妙だね」
着流し姿の男、嵯峨惟基は残酷にそう言うと感情の死んだような瞳で『彼』を見つめた。『彼』の命を助けるつもりなど嵯峨にはさらさら無い。そう言うことを証明するかのように腰の鞘に兼光を戻すとすぐに帯からタバコを取り出して火をつけた。
「大公!」
警官隊が嵯峨に向かって走ってくる。だが、彼等の目の前には彼らの任務からすれば射殺すべきテロリストが両腕を失ってのた打ち回っている姿があるばかりだった。
「止血だ!急げ」
『港湾警備隊』という腕章をつけた駆けつけた警察部隊の隊長らしき男が部下に指示を出すと、部下は両腕を切り落とされた凶弾の射手に哀れみを顔に浮かべながらベストから止血セットを取り出して処置を始めた。
「こりゃあ運がいいみたいだ。せっかく拾った命だ。粗末にするもんじゃねえよ」
そう言ってタバコをふかす嵯峨の姿を痛みに支配されていた『彼』は見ることができなかった。
「状況を説明していただけますか?」
ヘルメットを脱いだ警察の部隊長が青ざめながら薄ら笑いを浮かべる着流し姿の男に声をかけている。『彼』はその光景を朧に見つめながら意識を失っていった。
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