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第6章 日常

朝の機動部隊詰め所

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 ドアを開けるとキムが着替えを終えたところだった。

「お前、何やったんだ?昨日は」 

 そう言うとキムは誠の頭のこぶに手を触れる。

「痛いじゃないですか!」 

「ああ、すまんな。それにしてもあのちびっ子。本当にうちの専属になるのか?」 

 ドアに手をかけたままキムは誠にそう尋ねる。あの小さいランを『ちびっ子』と表現されて誠は噴出しそうになるのをこらえた。

「そんなの僕が知るわけ無いじゃないですか」 

「いやあ、お前はクラウゼ中佐と一つ屋根の下に暮らしてるだろ?そう言う話も出るかと思って」 

 そう言ってキムはニヤリと笑う。だが、誠は彼の顔から目を逸らして頭のこぶに物が当たらないよう丁寧にアンダーシャツを脱いだ。

「アイシャさんはそう言うところはしっかりしていますから。守秘義務に引っかかるようなことは言いませんよ」 

 実は何度かアイシャの口からはランの本異動の話は出ていたが、やぶへびになるのも面倒なのでそう言って誠はそのままジャケットを脱いだ。キムはつっけんどんに答える誠に意味ありげな笑みを一度浮かべるとそのまま出て行った。

「ったく。僕はアイシャさんのお守りじゃないんだから」 

 そう独り言を言いながらワイシャツのボタンをかける。誰も掃除をしようと言い出す人間のいない男子更衣室。窓枠の周りにはプラモデルやモデルガンが並び、ロッカーの上には埃を被った用途不明のヘルメットが四つほど並んでいる。

「年末には掃除とかするのかなあ」 

 そう思いながら着替え終わった誠はドアを開いた。

 そのまま誠はつかつかと歩いて機動部隊の詰め所の扉を開ける。そこには誰もいなかった。確かにまだ九時前、いつものことと誠はそのまま椅子に座った。ガラス張りの廊下側を眺めていると、吉田が大急ぎで走っていく。そのまま誠は昨日の日報が机に置かれているのを見た。開いてみると珍し
く嵯峨が目を通したようで、いくつかの指摘事項が赤いペンで記されていた。

 そうこうしている間に部屋にはカウラが入ってきていた。そのまま彼女は誠の斜め右隣の自分の席に座る。

「休暇中の連絡事項なら昨日やればよかったのに」 

 そう言って誠は嵯峨から留守中の申し送り事項の説明を受けているだろう吉田の席を見やる。だが、カウラは誠より実働部隊での生活に慣れていた。

「今日できることは明日やる。まあ、嵯峨隊長はそう言うところがあるからな」 

 そう言ってカウラは目の前の書類入れの中を点検し始めた。

「おはよー」

 かなめが勢いよくドアを開いた。

「どわ!」 

 突然女の子の叫び声がしたかと思うと、シャムの顔がドアに押し付けられていた。

「いい加減大人になれよ、オメエは」 

 そう言いながらかなめはドアを閉めた。ドアに顔面をぶつけてうずくまっているシャムはまだ熊の着ぐるみを着ている。

「酷いよ!かなめちゃん!」 

 そう言ってかなめを見上げるシャムだが、カリカリしているかなめは残忍な笑みを浮かべて指を鳴らしている。さすがにその凄みを利かせたかなめの姿にシャムは冷や汗を流しながら後ずさる。

「じゃあ、脱皮しようかな。誠ちゃん!背中のジッパー下ろして!」 

 そう言って誠に背を向けて近づいてくる。仕方なく立ち上がった誠だが、カウラの視線の痛みが涙腺を刺激する。ジッパーに手をかけたとき、誠はあることに気がついた。

「あの……、ナンバルゲニア中尉?もしかして下着しか着てないとかいう落ちじゃないですよね」 

 この言葉にカウラだけでなくかなめまでもが視線を誠に向けてくる。その生暖かい雰囲気に誠は脂汗が額ににじむのを感じていた。

「早くしないとかなめちゃんに食べられちゃうよ!」 

「そこでなんでアタシが出てくるんだ?」 

 そう言って拳を固めるかなめを見て進退窮まったと感じた誠は、一気にシャムの着ぐるみのジッパーを降ろす。

「脱皮!」 

 そう言って現れたのは東和陸軍と同型の司法局実働部隊の勤務服を着たシャムだった。

「本当に驚かせないでくださいよ」 

「なんだ、オメエもロリコンだったのか?まあどこかの胸無しと仲良しだからロリコン入っていても不思議はねえがな」 

 そう言ってかなめはカウラを見下ろす。カウラはそんなかなめを完全に無視して書類を読み続けていた。
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