上 下
256 / 1,455
第5章 本配属になる幼女

熊小屋

しおりを挟む
 手早く肉をラップで包み終えた誠はかなめ達の手際の悪い片付けを見つめている嵯峨を見上げた。

「あのー、終わりましたけど。僕が手伝いましょうか?」

「お前さんには用がある人間がいるだろうからな。行ってこいよ」 

 そんな嵯峨の言葉に追い出されて廊下に出ると、ハンガーから響くランの叫び声が聞こえた。誠はとりあえずハンガーへと向かった。

「オメエ等!邪魔すんじゃねえよ!」 

 ランの叫び声が聞こえて、誠は管理部の前の手すりから身を乗り出した。三号機、誠の専用機はすでに定位置に固定されていた。

 しかし、その正面には奇妙な箱が置かれている。

 高さは5メートルくらい、良く見れば先月解体を担当した仮設住宅を組みなおした物だった。その隣では吉田とシャムがランとにらみ合っている。

「吉田少佐!」 

 階段を駆け下りた誠を吉田は珍しいものを見るような目つきで見つめる。

「ああ、良い所にきたな」 

 そう言いながら吉田は腕組みをしているランをにらみつける。

「コイツを外まで運んでくれねえか?」 

 吉田が指差している建物の中から甘えたような動物の声が聞こえる。

「これって……」 

「うん! グレゴリウス19世の家だよ!」 

「16世だろうが!」 

 名前を間違えたシャムを吉田がはたく。そんな二人を見ながら恐る恐る誠はランを見つめた。ランは小さな体を一杯に伸ばして誠を見つめる。中佐
という肩書きは伊達ではなく、どう見ても小学生にしか見えない彼女だがその見えない圧力と言うものを感じて誠は冷や汗を流した。

「こんなもの作ってんじゃねえよ。明華!」 

 ランはそう言うと控え室から出てきた明華に声をかける。

「作っちゃったんだからしょうがないじゃない。それにこれなら人力で何とかなるでしょ?丁度、食後の説教も終わったところだし……」 

 そう言う明華の後ろから西達整備班員が出てくる。

「神前曹長も手伝いなさい」 

 明華の言葉に押されて目の前の箱に隊員達が群がる。

「じゃあいっせいに力を入れるのよ!」 

 明華の合図に隊員達は力を込めて踏ん張った。突然バランスが崩れて黒い塊が入り口から飛び出てきた。巨大な熊。近くの隊員が恐怖で手を離してプレハブが床に落ちる。

「なんだ!シャム。入ったままだったのか!」 

 怒鳴りつけるランにシャムは頭を下げている。飛び出した熊、グレゴリウス16世は逃げ惑う整備班員を追い回していた。

「どうにかしろ!」 

 腹を抱えてこの有様を見つめている吉田の尻をランが蹴り上げた。

「なにすんですか!」 

 そう言い返すものの腕組みしてにらみつけるランに、吉田はあきらめてグレゴリウス16世のところに行ってその首輪を握って動きを止める。

「今のうちよ」 

 そう言う明華の顔色を見た西が仲間を集めて再びプレハブを持ち上げる。

「大変ですわねえ」 

 外から戻ってきた茜が汗を流して熊の家を運んでいる誠達を優雅に扇子をはためかせながら見つめている。

「茜もやるか?」 

 そんなランの言葉に扇子で口元を押さえる茜は首を横に振った。

「早く運べよ!」 

 ランはそう言うと隅を持っている西の尻を蹴り上げる。

「そんなこと言っても……」 

 泣き言を言う誠を横目に見ながらグレゴリウス16世とシャムと吉田がじっと彼を見つめていた。

「さあ!私も応援よ!」 

 その後ろにはいつの間にかアイシャが来てグレゴリウス16世の頭を撫でていた。

 そろそろとハンガーを出たプレハブ小屋はグラウンドをゆっくりと移動する。

「ほら!もっと急ぎなさいよ!」 

 明華がはっぱをかける。誠の額に汗が浮いた。

「大変ねえ、誠ちゃん」 

 そう言いながらアイシャがハンカチで誠の額を拭う。いきなりの好待遇を受ける誠に整備班員達から冷たい視線が浴びせかけられて誠は何もできず
に黙り込んだ。

「オメエなあ。もっと力入れて運べ!」 

 ランは今度は誠の尻を蹴り上げる。小柄な彼女だが、その一撃は鋭く、思わず誠は手が滑りそうになる。

「クバルカ中佐。そんなに苛めなくても……」 

 心配そうにアイシャが口を挟むがぎろりと言う音でもしそうな調子でランがアイシャを見上げた。ようやくファールグラウンドから畑に向かう空き地に到着したところで吉田が手を上げた。

「手を挟むんじゃないわよ!私は怪我で休みますなんて認めないからね!」 

 明華の檄が飛ぶ。この騒ぎを見て駆けつけたレベッカが心配そうに整備員達を見つめている。プレハブの小屋は静かに雑草の上に置かれた。グレゴリウス16世を連れたシャムが早速新居を見て回る。隊員達からは安堵のため息が漏れた。誠もまた悠然と我が家を見て回るグレゴリウス16世に笑みを浮かべながらプレハブの隣に腰を下ろそうとした。その時背中に気配を感じた。

「それじゃあ早速シミュレーションでお前の腕前見せてもらうぞ」 

 作業服の襟を掴まれて誠が振り向く。ランははるかに大きい誠を掴んでずるずると引きずり始める。

「大丈夫ですよ!逃げたりしませんから!」 

 そう叫ぶ誠を鋭い目つきでにらみながらランはようやく手を離した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)

SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。 主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、 それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

処理中です...