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第17章 西園寺かなめ

本格的邪魔者

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「いやあ、あいつからかうと面白れえな!」 

「吉田少佐。むやみに挑発するの止めてくださいよ」

 泣き言を言う誠を吉田は相変わらず面白そうに見つめている。 

「ったく気の小さい奴だな」 

「誠ちゃんは臆病だからね!」 

 あっけらかんと笑う二人に誠はついていけない。ドアが開いてかなめは手にした缶ビールをシャムと吉田に投げる。

「ビール投げるなよ!泡吹くじゃねえか!」 

 そう言いながら吉田は器用にプルタブを引き、吹き出す泡をうまく口の中に収める。シャムはしばらく落ち着かせようと銃と一緒にテーブルの上に缶を置いた。

「邪魔するなよ」 

 そう言うとかなめは酒瓶を横に避けて床に置かれた端末の箱を開けた。いくつものコードが複雑に絡み合っている。さすがに技術屋でもある誠にはそのアバウトなかなめの配線を見つめるとため息が漏れた。

「とりあえずそれと寝袋だけか?運ぶのは」 

「まあな。そう言うオメエ等は出張の準備は出来たのか?」 

 かなめは端末のコードを一本一本絡んでいるのを戻しながらジャックを引き抜いてはまとめる。

「俺はトランク一つあれば十分だ。シャム、お前はどうした?」 

「あのね。あっちで買うから大丈夫。それにアイシャちゃんにアタシのチェックしている番組の録画も頼んだし」 

「どうせ特撮とアニメだけだろ?」 

 かなめは一際長い電源コードをまとめる。図星と言うようにシャムは頭を掻く。

「それにしてもずいぶん古い端末使ってんな。島田辺りに最新の奴選んでもらったらどうだ?」 

 吉田の一言、またかなめが不機嫌になる。

「余計なお世話だ。それにこいつには胡州陸軍関係のデータも入ってる。そう簡単には交換できるもんじゃねえよ」 

「ふーん」 

 特に関心も無いというように吉田はビールを飲みながら作業を続けるかなめを眺めていた。シャムはもう良いだろうと缶を開けたが、不意に吹き出した泡に慌てて口をつけた。

「リモコン見っけ!」 

 泡を吹こうとハンカチを出してしゃがんだシャムがかなめの持ち上げた端末の下から薄い何かを見つけた。

「備え付けのAVシステムかよ。こりゃ良いわ」 

 そう言うとかなめの許可も得ずに吉田はスイッチを押す。 

「邪魔になるようなことはするなよ」 

 あきらめたような顔でかなめはつぶやいた。天井から巨大な画面が降りてくる。シャムの目が、急に輝きだしたのが誠からも良く見えた。

「ちょっと何が入ってるのかな」 

 そう言って吉田は内部データを検索する。

「ドアーズ、ツェッペリン、ピストルズかよ。ずいぶん偏っていると言うかつまみ食い趣味と言うか……」

「なんだ、ボブ・マーリーが無いのがそんなに不満か?」 

 かなめが端末を緩衝材ではさんでいる。

「なんだ、クラッシックもあるじゃねえの。ホルストの惑星。展覧会の絵。ピーターと狼。ずいぶんこれもなんだかよくわからねえ趣味だな」 

「最近の曲は無いの?」 

「ちょっと待ってろよ」 

 まるで自分達の部屋のように振舞う吉田とシャムに切れたかなめが吉田の手からリモコンを取り上げた。

「好き勝手なこと言うんじゃねえ!これでも見てろ」 

 そう言うとかなめはリモコンを奪い返して浪曲専門チャンネルに合わせた。

「あのなあ。俺は隊長と違ってこう言う趣味はねえんだけどな」 

「叔父貴との付き合いはオメエ等が一番長いんだ。上司を理解するのも大事な仕事だろ?」 

 そう言うとかなめはリモコンをポケットに入れて緩衝材ではさんだ端末をダンボールに押し込み始めた。一方部屋の半分の大きさもあろうと言う画面で、実物大の禿げた頭の浪曲師が森の石松の一説をうなっている。

「西園寺、あっさりこれが出てきたって事は見てるのか?」

 吉田は画面を不思議そうに見ているシャムから目を離すと箱にどう見ても入りそうに無いコードの束を押し込んでいるかなめに声をかけた。 

「爺さんが好きだったからな。ガキの頃よく家にもそちらの方面の人間が出入りしてたし」 

「世に言う『西園寺サロン』って奴か。その割にはまるっきりそう言う趣味ないよなお前」 

 吉田はそう言うとビールの缶を空にした。その隣で床に腰を下ろしたシャムは石松の最期のくだりを聞きながらなぜか大うけしていた。

「終わった」 

 一言そう言ってかなめは酒瓶に手を伸ばす。確かに箱には入ったがコードがその隙間から飛び出していてとても箱に入れたといえる状況では無い。

「早過ぎないか?まあ西園寺らしいがな」 

 そう言うと吉田はかなめからリモコンを奪い取りモニターを消した。静かに上がって収納されていく画面をシャムは不思議そうに眺めた。
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