196 / 1,536
第16章 引っ越し
希少な法術師
しおりを挟む
「とりあえず雑巾絞れ」
そう言ってかなめは誠に雑巾の入ったバケツを突きつけてくる。誠はすぐに彼女が何もしないつもりなのがわかった。
「わかりましたよ」
誠はとりあえず二枚の雑巾をバケツに放り込んで絞り始めた。かなめはその様子を見つめている。
「西園寺さんも手伝ってくださいよ。ここ西園寺さんの部屋になるんですよ」
かなめに手伝うように言っても無理とはわかりつつも誠は自分で二枚目の雑巾を絞る。正直心の中の半分以上はかなめの行動には期待していなかった。しかし、思いもしないほど素直にかなめは搾った雑巾を受け取った。
「まあ一回ぐらいは手伝ってやるよ。一回ぐらいはな」
かなめは雑巾を手に持つと、そのまま部屋の畳を拭い始めた。「神前、聞いて良いか?」
一つ畳を拭き終わったかなめが起き上がり、手の上で雑巾をひっくりかえす。
「はい」
誠は壁についたシミを洗剤でこすって落とそうとしていた。
「オメエ自分の力をどう思ってる?二度も襲われてるんだ、それについてどう見るよ?」
かなめの言葉に誠の手が止まる。誠はとりあえず洗剤を置き、雑巾でシミのついた壁をこすり始めた。
「そうですね。何も知らない時の方が気楽だったかも知れませんね」
「意外だな、お前のことだから怖いですって即答すると思ったんだけどな。わけわからねえで浚われた方が怖くないのか?」
誠の顔がかなめの方に向き直る。かなめは照れたように次の畳を拭き始める。
「自分に力があるなんていうことを知らなければ、ただの偶然でまとめられるじゃないですか。嵯峨隊長はあっちこっちで恨みを買ってますから、そのとばっちりってことで納得できる。自分に原因は無いんだってね。でも今回のは違いましたね。僕はもう自分が法術適正者だと知ってしまった。相手は他の誰でもなく僕を狙ってくるのがわかる。どこへ行っても、どこに隠れても、僕であるというだけで狙われ続けるんですから」
いくらこすっても取れないシミ。誠は今度は雑巾にクレンザーを振りかける。
「そうだな。アタシも気になってさあ、ここのところ法術に関する研究所のデータや軍の資料を当たってみたんだ。公開されてる情報なんてたかが知れているが、それでも先月の近藤事件以降かなりの極秘扱いのデータが公表されるようになったしな」
かなめは雑巾を畳の目に沿ってゆっくりと動かす。
「遼州人のすべてが力を持っているわけじゃねえ。純血の遼州人の家系であることが間違いない遼南王朝の王族ですら、力が確認されている人物は記録に残っているのはたった三人だ。初代皇帝女帝ムジャンタ・カオラ。六代目ムジャンタ・ヘルバの皇太子で廃帝ハド。そして新王朝初代皇帝ムジャンタ・ラスコー、今の戸籍上の名前は嵯峨惟基」
誠はクレンザーの研磨剤で消えていくシミを見ながらかなめの言葉を聴いていた。
「数千人、数万人に一人の確立というわけですか。でも僕は選ばれたと言って喜ぶ気にはなれませんよ」
誠の手が止まる。かなめはそれを見ると立ち上がった。
「不安なのか?」
そう言うとかなめは誠の頭に手を置いた。
「言っただろ?アタシが守るって」
中腰の姿勢から立ち上がる誠。かなめは集中するように畳を拭き続ける。誠はそんな彼女を見下ろす。かなめは一瞬、作業を止めて誠を見上げたが、すぐに目を逸らすと再び畳を拭き始めた。
「勘違いするなよな!アタシはお前の能力を買っているから助けるだけだ。テロリスト連中に捕まってシャムが大好きな特撮モノの怪獣ばりに暴れられたら困るからな……」
誠はこっけいに見えるかなめの姿に笑いをこらえていた。
そう言ってかなめは誠に雑巾の入ったバケツを突きつけてくる。誠はすぐに彼女が何もしないつもりなのがわかった。
「わかりましたよ」
誠はとりあえず二枚の雑巾をバケツに放り込んで絞り始めた。かなめはその様子を見つめている。
「西園寺さんも手伝ってくださいよ。ここ西園寺さんの部屋になるんですよ」
かなめに手伝うように言っても無理とはわかりつつも誠は自分で二枚目の雑巾を絞る。正直心の中の半分以上はかなめの行動には期待していなかった。しかし、思いもしないほど素直にかなめは搾った雑巾を受け取った。
「まあ一回ぐらいは手伝ってやるよ。一回ぐらいはな」
かなめは雑巾を手に持つと、そのまま部屋の畳を拭い始めた。「神前、聞いて良いか?」
一つ畳を拭き終わったかなめが起き上がり、手の上で雑巾をひっくりかえす。
「はい」
誠は壁についたシミを洗剤でこすって落とそうとしていた。
「オメエ自分の力をどう思ってる?二度も襲われてるんだ、それについてどう見るよ?」
かなめの言葉に誠の手が止まる。誠はとりあえず洗剤を置き、雑巾でシミのついた壁をこすり始めた。
「そうですね。何も知らない時の方が気楽だったかも知れませんね」
「意外だな、お前のことだから怖いですって即答すると思ったんだけどな。わけわからねえで浚われた方が怖くないのか?」
誠の顔がかなめの方に向き直る。かなめは照れたように次の畳を拭き始める。
「自分に力があるなんていうことを知らなければ、ただの偶然でまとめられるじゃないですか。嵯峨隊長はあっちこっちで恨みを買ってますから、そのとばっちりってことで納得できる。自分に原因は無いんだってね。でも今回のは違いましたね。僕はもう自分が法術適正者だと知ってしまった。相手は他の誰でもなく僕を狙ってくるのがわかる。どこへ行っても、どこに隠れても、僕であるというだけで狙われ続けるんですから」
いくらこすっても取れないシミ。誠は今度は雑巾にクレンザーを振りかける。
「そうだな。アタシも気になってさあ、ここのところ法術に関する研究所のデータや軍の資料を当たってみたんだ。公開されてる情報なんてたかが知れているが、それでも先月の近藤事件以降かなりの極秘扱いのデータが公表されるようになったしな」
かなめは雑巾を畳の目に沿ってゆっくりと動かす。
「遼州人のすべてが力を持っているわけじゃねえ。純血の遼州人の家系であることが間違いない遼南王朝の王族ですら、力が確認されている人物は記録に残っているのはたった三人だ。初代皇帝女帝ムジャンタ・カオラ。六代目ムジャンタ・ヘルバの皇太子で廃帝ハド。そして新王朝初代皇帝ムジャンタ・ラスコー、今の戸籍上の名前は嵯峨惟基」
誠はクレンザーの研磨剤で消えていくシミを見ながらかなめの言葉を聴いていた。
「数千人、数万人に一人の確立というわけですか。でも僕は選ばれたと言って喜ぶ気にはなれませんよ」
誠の手が止まる。かなめはそれを見ると立ち上がった。
「不安なのか?」
そう言うとかなめは誠の頭に手を置いた。
「言っただろ?アタシが守るって」
中腰の姿勢から立ち上がる誠。かなめは集中するように畳を拭き続ける。誠はそんな彼女を見下ろす。かなめは一瞬、作業を止めて誠を見上げたが、すぐに目を逸らすと再び畳を拭き始めた。
「勘違いするなよな!アタシはお前の能力を買っているから助けるだけだ。テロリスト連中に捕まってシャムが大好きな特撮モノの怪獣ばりに暴れられたら困るからな……」
誠はこっけいに見えるかなめの姿に笑いをこらえていた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第五部
遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。
訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。
そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。
同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。
こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。
誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。
四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。
そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。
そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』
橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』
いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。
そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。
予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。
誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。
閑話休題的物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

びるどあっぷ ふり〜と!
高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。
どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。
ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね?
※すでになろうで完結済みの小説です。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~
アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」
中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。
ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。
『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。
宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。
大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。
『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。
修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる