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第15章 休日の終わりに

護衛志願

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「叔父貴!下士官寮に空き部屋あったろ!」 

 急にかなめが頭を突き出してくる。それに思わず嵯峨はのけぞった。

「いきなりでかい声出すなよ!ああ、あるにはあるがどうしたんだ?」 

 タバコに火をつけようとしたところに大声を出された嵯峨がおっかなびっくり声の主であるかなめの顔を伺っている。

「アタシが護衛に付く」 

 全員の目が点になった。

「護衛?」 

 カウラとアイシャが顔を見合わせる。

「護衛……護衛?」 

 誠はまだ状況を把握できないでいた。

「隊長、それなら私も護衛につきます!」 

 言い出したのはアイシャだった。宣言した後、アイシャはかなめをにらみつける。

「一人だけ良いカッコなんてさせないわよ」

 珍しく対抗心むき出しのアイシャに誠はただあきれていた。

「私も護衛に付く」 

 カウラの言葉にかなめとアイシャの動きが止まった。

「カウラちゃんが?」

「ベルガー!気は確かか?」

 アイシャとかなめがまじまじとカウラの顔を見つめた。カウラは動じることなく自分を納得させているかのようにうなづいてた。

「そうかその手があったか」 

 嵯峨はそう言うと手を叩いた。しかしその表情はむしろしてやったりといった感じに誠には見えた。

「隊長!」 

 誠の声に泣き声が混じる。女っ気が増えるとあって寮長の島田は大歓迎するだろう。その他の島田派の面々は有給とってでも引越しの手伝いに走り回るのはわかっている。

 部隊の人員でもっとも多くのものが所属しているのが技術部である。その神として敬われている女帝、許明華大佐の一言で部隊の方針が決まることすら珍しくない。その地位は神格化され、技術部では別格の存在とされていた。一方でほとんど一人でピザやソーセージを食べながら法術関連の作業を続けているヨハン・シュペルター中尉は部内での人望は0に等しかった。必然的に整備全般を担当する島田正人准尉が事実上の技術部の最高実力者と呼ばれるようになっていた。

 変わって部隊の第二の勢力と言える管理部だが、こちらは規律第一の『虎』の二つ名を持つ猛将、アブドゥール・シャー・シン大尉が部長をしている。管理部部長と言う職務の関係上、同盟本部での予算関連の会議のため留守にすることが多いことから主計曹長菰田邦弘がまとめ役についている。

 ノリで生きている島田と思い込みで動く菰田。数で勝る島田派だが、菰田派はカウラを女神としてあがめ奉る宗教団体『ヒンヌー教』を興し、その厳格な教義の元、結束の強い信者と島田に個人的な恨みに燃える一部技術部員を巻き込み、勢力は拮抗していた。

 寮に三人が入るとなれば、必然的に寮長である島田の株が上がることになる。さらに風呂場の使用時間などの全権を握っている島田が暴走を始めればヒンヌー教徒の妨害工作が行われることは間違いない。

「どうしたの?もっとうれしい顔したらどう?こんな綺麗なお姉さんが三人も来るっていうのよ?」 

 アイシャがそう言って誠に絡み付こうとしてかなめに肩を押さえつけられる。寮での島田派、菰田派の確執はここにいる士官達の知ることではない。

「じゃあとりあえずそう言うことで」 

 そう言うと嵯峨は出て行けとでも言うように電話の受話器を上げた。

「そうですわね。私も引越しの準備がありますのでこれで」 

 そう言うとさっさと茜は部屋を出た。

「置いてくぞ!神前!」 

 かなめが叫んだ。茫然と立ち尽くしている誠を置いてカウラとアイシャが隊長室の扉を出ていった。
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