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第14章 力尽きて

小さな心遣い

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「はい!急いで!行くぞ!」 

 島田が出て行くのを見て、誠は慌てて海の家の更衣室で海水パンツとタオルをバッグに押し込み飛び出す。

「誠ちゃん」 

 更衣室を出てあたりを見渡す誠。そんな誠の肩を叩いたのがシャムだった。

「シャムさん、何ですか?」 

 さすがにいろいろあった一日で、心地よい疲労感のようなものが誠を包んでいた。

「これ拾ったんだけど、かなめちゃんにあげてね」 

 シャムが差し出したのはピンク色の殻を光らせる巻貝だった。子供のこぶし程度の大きさの貝は次第に朱の色が増し始めている日の光を反射しながら、誠の手の上に乗った。

「良いんですか?」 

 いかにもシャムが好きそうなきれいな貝を手にして誠はシャムを見下ろした。

「お姉さんのことは気にしないで。まあ仲良くやりたまえ」 

 一見少女に見えるシャムだが、実際の年齢は誠もよくわかっていなかった。誠がつかんでいる確かな情報としては、今年35歳の技術部長、許明華大佐の二つ上という話がまことしやかに囁かれている。

 ホテルの駐車場に向かうシャムと小夏、そして春子を見守りながら誠はシャムに渡された巻貝を耳に当てた。

 潮の音がする。確かにこれは潮の音だ。

「何やってんだ?」 

 背中から不思議そうなかなめの声が聞こえた。誠は我に返って荷物を抱えた。

「なんか落ちたぞ」 

 そう言ってかなめが誠の手から滑り落ちた巻貝を拾い上げた。

「こりゃだめだな。割れちまってるよ」 

 少しばかりすまないというような声の調子のかなめのかなめがいた。誠は思わず落胆した表情を浮かべる羽目になった。

「アタシに渡そうとしたのか?」 

 そう言うと、珍しくかなめがうつむいた。

「ありがとうな」 

 そう言うとかなめは自分のバッグにひびの入った巻貝を放り込む。何も言わずにかなめはそのまま防波堤に向かって歩いていく。

「良いんですか?あれって……」 

「お前の始めてのプレゼントだ。大事にするよ」 

 かなめはそう言うと誠を置いて歩き始める。誠は思い出したように彼女を追って走り出す。追いついて二人で防波堤の階段を登って行った。誠もそれに続いて階段を駆け上った。
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