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第13章 満足な海風と波乱
法術師による急襲
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「ああ、飽きた。神前!行くぞ」
かなめの言葉にうなづくと誠は何もわからないまま言われるままに立ち上がって彼女の手からビーチサンダルを受け取った。今度は先ほど向かった岩場とは反対側に歩く。観光客は東都に帰る時間なのだろう、一部がすでに片付けの準備をしていた。
「もう風が変わってきましたね」
松の並木が現れ、その間を海に飽きたというようなカップルと何度もすれ違った。
「そうだな」
会話をするのが少しもったいないように感じた。なぜか先ほどの時と違って黙って並んで歩いているだけで心地よい。そんな感じを味わうように誠はかなめと海辺の公園と言った風情の道を歩いた。
しかし遊歩道に入ったところでかなめは不意に立ち止まると小声でささやいた。
「神前、気づいてるか?」
誠はかなめのどすの利いた言葉に不安に襲われた。かなめの目が鋭く光っていた。タレ目で迫力はあまり無いが、彼女の性格を知っている誠を驚かすには十分だった。
「気づくって……つけられているんですか?」
先月の近藤事件の発端も、自分が誘拐されたところから始まっただけあって、誠は辺りの気配を探った。見る限りにはそれらしい人影は無い。しかし、以前、菱川重工の生協で感じた時と同じような緊張感が流れていた。
「素人じゃねえ、かなりのスキルだ。こっちが気づいたら不意に気配が消えやがった。どうする?」
かなめがサングラス越しに誠を見つめる。その口元が笑っているのは、いつものことだと諦めた。
「でも丸腰じゃないですか?」
「そうでもないぜ」
かなめが先ほど羽織ったシャツをめくって」を見せる。かなめの愛銃、スプリングフィールドXDM40のシルエットが見えた。
「しかし、こんなところでやるわけには行かないんじゃ……」
周りには少ないながらも観光客の姿が見える。かなめも同感のようで静かに頷いた。
「偶然かもしれないからな。もう少し引っ張ろう。あそこに見える岬まで行けば邪魔は入らないだろうからな」
そう言うとかなめは誠の手を取って早足で歩き始めた。午後を過ぎて風が出始めた海べりの道を進む。さすがにこれほど人通りが少ないとなると、赤いアロハシャツを着た男が後を付いてくるのが嫌でもわかった。
こちらにばれることはすでに想定済みといった風に男はついてくる。かなめはすでに銃を抜いている。とりあえず人のいない所で決着をつけることは後ろの男も同意見のようで、一定の距離を保ったまま付いてくる。
岬に着いたところで、かなめは男に向き直った。
「見ねえ面だな。おや?ただのチンピラにしちゃあ動きが良いし、兵隊にしちゃあ間が抜けてるな」
かなめは銃口を男に向ける。今のかなめならすぐにでも発砲するかもしれないと思っていた誠だが、かなめの引き金にかけられた指に力が入ることは無かった。
「これは辛らつな意見ですね。確かに軍事教練など受けたことが無いもので」
角刈り、やつれているように見える細面が見るものを不安にする。アロハシャツから出ている鍛えられた跡などない締まりのない両腕は、どう見ても軍人のものには見えなかった。
「金目当てだったらアタシが銃を持っていることをわかった時点で逃げてるはずだ。非公然組織なら仲間を呼ぶとかしているしな。何者だ?テメエは」
まるで幽霊みたいだ。誠は男の顔に浮かんだ版で押したように無個性な笑みを見つけて背筋が寒くなるのを感じた。
「元胡州帝国陸軍、非正規戦闘集団所属、西園寺かなめ大尉。そして東和宇宙軍から遼州司法局に出向中である神前誠曹長」
男はそう言いながらゆらりと体を起こした。その動きに反応してかなめは銃口を向ける。
「知らないんですか?西園寺大尉とあろうお方が。高レベル法術適格者にはそんなものは役に立ちませんよ」
男はゆらゆらと風に揺れながら右足を踏み出した。
「試してみるのも悪くないんじゃねえか?とりあえずテメエの腹辺りで」
そう言い終ると、かなめは二発、男の腹めがけて発砲した。銀色の壁が男の前に広がり、弾丸はその中に吸収された。かなめの表情に一瞬驚きのようなものが浮かぶのが誠にも見えた。
「さすが『胡州の山犬』ですね、正確な射撃だ。でも現状では理性的に私の正体でも聞き出そうとするのが優先事項じゃないですか?まあ私も話すつもりはありませんが」
また一歩男は左足を踏み出す。銃が効かないとわかり、かなめはいつでも動けるように両足に力をこめる。だがそれをあざ笑うかのように男は言葉を続ける。
「神前君。君の力を我々は高く買っているんだよ。地球人にこの星が蹂躙されて三百年。我々は待った、そして時が来た。君のような逸材が地球人の側にいると言うことは……」
「うるせえ!化け物!」
かなめは今度は頭と右足、そして左肩に向けてそれぞれ弾丸を撃ち込んだ。再び弾丸は銀色の壁に吸い込まれて消える。
「力のあるものが、力の無いものを支配する。それは宇宙の摂理だ。そうは思わないかね、神前君」
再び男の右足が踏み出される。誠は金縛りにでもあったように、脂汗を流しながら男を見つめていた。
誠は精神を集中した。
「どうする気だ!神前!」
かなめの叫ぶ先に銀色の空間が現れる。
「そのくらいのことは出来て当然と言うことですか。確かに私の力ではそれを突破することは難しいでしょう。ただ……」
男はそう言うと自らが生成した銀色の空間に飛び込んだ。銀色の空間もまた消える。
「どこ行った!」
銃を手にかなめは全方位を警戒する。
「ここですよ」
「何!」
かなめの足元の岩が銀色に光りだす。思わずかなめは飛びのいてそこに銃を向ける。誠は一度、銀色の干渉空間を解いた。相手はどこからでも空間を拡げる事が出来る。隊の法術の専門家であるヨハン・シュペルターに聞いた限りでは、その空間に他者が侵入すればかなめが撃った弾丸同様蒸発することになると言う。
完全に手詰まりだった。
かなめの言葉にうなづくと誠は何もわからないまま言われるままに立ち上がって彼女の手からビーチサンダルを受け取った。今度は先ほど向かった岩場とは反対側に歩く。観光客は東都に帰る時間なのだろう、一部がすでに片付けの準備をしていた。
「もう風が変わってきましたね」
松の並木が現れ、その間を海に飽きたというようなカップルと何度もすれ違った。
「そうだな」
会話をするのが少しもったいないように感じた。なぜか先ほどの時と違って黙って並んで歩いているだけで心地よい。そんな感じを味わうように誠はかなめと海辺の公園と言った風情の道を歩いた。
しかし遊歩道に入ったところでかなめは不意に立ち止まると小声でささやいた。
「神前、気づいてるか?」
誠はかなめのどすの利いた言葉に不安に襲われた。かなめの目が鋭く光っていた。タレ目で迫力はあまり無いが、彼女の性格を知っている誠を驚かすには十分だった。
「気づくって……つけられているんですか?」
先月の近藤事件の発端も、自分が誘拐されたところから始まっただけあって、誠は辺りの気配を探った。見る限りにはそれらしい人影は無い。しかし、以前、菱川重工の生協で感じた時と同じような緊張感が流れていた。
「素人じゃねえ、かなりのスキルだ。こっちが気づいたら不意に気配が消えやがった。どうする?」
かなめがサングラス越しに誠を見つめる。その口元が笑っているのは、いつものことだと諦めた。
「でも丸腰じゃないですか?」
「そうでもないぜ」
かなめが先ほど羽織ったシャツをめくって」を見せる。かなめの愛銃、スプリングフィールドXDM40のシルエットが見えた。
「しかし、こんなところでやるわけには行かないんじゃ……」
周りには少ないながらも観光客の姿が見える。かなめも同感のようで静かに頷いた。
「偶然かもしれないからな。もう少し引っ張ろう。あそこに見える岬まで行けば邪魔は入らないだろうからな」
そう言うとかなめは誠の手を取って早足で歩き始めた。午後を過ぎて風が出始めた海べりの道を進む。さすがにこれほど人通りが少ないとなると、赤いアロハシャツを着た男が後を付いてくるのが嫌でもわかった。
こちらにばれることはすでに想定済みといった風に男はついてくる。かなめはすでに銃を抜いている。とりあえず人のいない所で決着をつけることは後ろの男も同意見のようで、一定の距離を保ったまま付いてくる。
岬に着いたところで、かなめは男に向き直った。
「見ねえ面だな。おや?ただのチンピラにしちゃあ動きが良いし、兵隊にしちゃあ間が抜けてるな」
かなめは銃口を男に向ける。今のかなめならすぐにでも発砲するかもしれないと思っていた誠だが、かなめの引き金にかけられた指に力が入ることは無かった。
「これは辛らつな意見ですね。確かに軍事教練など受けたことが無いもので」
角刈り、やつれているように見える細面が見るものを不安にする。アロハシャツから出ている鍛えられた跡などない締まりのない両腕は、どう見ても軍人のものには見えなかった。
「金目当てだったらアタシが銃を持っていることをわかった時点で逃げてるはずだ。非公然組織なら仲間を呼ぶとかしているしな。何者だ?テメエは」
まるで幽霊みたいだ。誠は男の顔に浮かんだ版で押したように無個性な笑みを見つけて背筋が寒くなるのを感じた。
「元胡州帝国陸軍、非正規戦闘集団所属、西園寺かなめ大尉。そして東和宇宙軍から遼州司法局に出向中である神前誠曹長」
男はそう言いながらゆらりと体を起こした。その動きに反応してかなめは銃口を向ける。
「知らないんですか?西園寺大尉とあろうお方が。高レベル法術適格者にはそんなものは役に立ちませんよ」
男はゆらゆらと風に揺れながら右足を踏み出した。
「試してみるのも悪くないんじゃねえか?とりあえずテメエの腹辺りで」
そう言い終ると、かなめは二発、男の腹めがけて発砲した。銀色の壁が男の前に広がり、弾丸はその中に吸収された。かなめの表情に一瞬驚きのようなものが浮かぶのが誠にも見えた。
「さすが『胡州の山犬』ですね、正確な射撃だ。でも現状では理性的に私の正体でも聞き出そうとするのが優先事項じゃないですか?まあ私も話すつもりはありませんが」
また一歩男は左足を踏み出す。銃が効かないとわかり、かなめはいつでも動けるように両足に力をこめる。だがそれをあざ笑うかのように男は言葉を続ける。
「神前君。君の力を我々は高く買っているんだよ。地球人にこの星が蹂躙されて三百年。我々は待った、そして時が来た。君のような逸材が地球人の側にいると言うことは……」
「うるせえ!化け物!」
かなめは今度は頭と右足、そして左肩に向けてそれぞれ弾丸を撃ち込んだ。再び弾丸は銀色の壁に吸い込まれて消える。
「力のあるものが、力の無いものを支配する。それは宇宙の摂理だ。そうは思わないかね、神前君」
再び男の右足が踏み出される。誠は金縛りにでもあったように、脂汗を流しながら男を見つめていた。
誠は精神を集中した。
「どうする気だ!神前!」
かなめの叫ぶ先に銀色の空間が現れる。
「そのくらいのことは出来て当然と言うことですか。確かに私の力ではそれを突破することは難しいでしょう。ただ……」
男はそう言うと自らが生成した銀色の空間に飛び込んだ。銀色の空間もまた消える。
「どこ行った!」
銃を手にかなめは全方位を警戒する。
「ここですよ」
「何!」
かなめの足元の岩が銀色に光りだす。思わずかなめは飛びのいてそこに銃を向ける。誠は一度、銀色の干渉空間を解いた。相手はどこからでも空間を拡げる事が出来る。隊の法術の専門家であるヨハン・シュペルターに聞いた限りでは、その空間に他者が侵入すればかなめが撃った弾丸同様蒸発することになると言う。
完全に手詰まりだった。
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