141 / 1,455
第四章 気分屋
踊りを踊るシャム
しおりを挟む
「それにしても……夏か。これで部隊での夏は二回目だな」
かなめはラムをちびちびやりながら話を続ける。
「そうね……でも本当にかなめちゃん変よ」
「そんなことねえだろ」
注文を終えて小夏が運んできたおしぼりで手を拭きながらつぶやくアイシャにかなめは笑顔で答えた。
すぐに小夏の母で女将の春子がジョッキのビールを運んできた。
「はい!焼きそば」
いつの間にか誠の後ろに立っていた小夏が注文の品を運んでくる。
「シャムちゃんが大好きな大たこ焼きよ」
春子は巨大なたこ焼きの並んだ皿をシャムに渡す。飽きた猫耳を外して、ちょろちょろ落ち着かない表情だったシャムの顔が満面の笑みに変わる。
「たこ焼き!たこ焼き!」
そのまま嬉しそうにシャムはたこ焼きに飛びつく。そんなシャムを見つめながらどこか腑に落ちない顔のアイシャが見える。
かなめは飲み続けていた。少しばかり頬が赤く染まっているのは体内プラントのアルコール分解速度を落としているからだろう。だが、かなめはそんなことはまったく自覚していない様に見えた。誠はかなめが酔いたい気分なのだと確信した。理由は特に無いがとりあえず気分的にはハイなんだろう。人口副交感神経のなせる業に少しばかり誠は感心していた。
「まあたまにはこういうこともあるんだよ。それにお前と違って金の使い方は計算してるからな。お前らどうせアニメグッズ買いすぎて金がねえだろうから気を利かせたわけだ」
そう言うとかなめは勢いよく焼きそばに取り掛かった。なんとなく納得できるようなできないようなあいまいな答えに一同はあいまいな笑みを浮かべていた。アイシャもその後にどう言葉を続けようか迷っているようだった。
「かなめちゃんの奢りなんだ。いいなあ」
リアナがうらやましそうにかなめの方を見つめる。正面でジョッキを傾ける健一はリアナにそういわれて流れで頷く。
「奢りませんよ!」
とりあえずこの話題から逃げたいというようにかなめは苦笑いを浮かべながらそう言った。しかし、その目は深い意味などないというように彼女の箸はすぐ焼きそばに向かった。
その時急に店の電気が落ちる。そして突然ついたスポットライトの中にはいつの間にかシャムと小夏の姿があった。
「小夏!」
「アンド、シャム!」
『踊りまーす!』
よく見ると二人はおそろいの猫耳と尻尾をつけている。前触れの無い出来事に全員が唖然としてその姿を見守っていた。急に店の奥から電波ソングが流れる。シャムと小夏。小柄なシャムの方がまるで妹に見える奇妙な光景だった。
「行けー!」
アイシャが叫ぶとシャムと小夏が腰を振ってこれまた電波な踊りを始める。はたから見れば奇妙な光景だが、健一は何度か見慣れているらしく拍手をしながら笑顔で見守っている。
「どうだ?萌え評論家の神前誠君」
ニヤ付きながらかなめが話しかけてくる。いつもならこういうドサクサは見逃さない彼女が誠のグラスに細工をするわけでもなく、ただ笑いながら誠の顔を覗き込んでいる。
「これは実に萌えですね。猫耳万歳です」
『みなさーん!ありがとう!』
ひと踊り終わるとシャムと小夏がぺこりと頭を下げる。そしてあまり長くない電波ソングライブは終わった。
「猫耳か……」
ポツリとカウラが呟いた。
「なに?カウラちゃんも猫耳つける?」
カウラは不思議そうにアイシャを見つめ返す。その姿は自分が猫耳をつけたときを想像しているように誠には見えた。
「私はそういうことには向かない」
しばらく真剣に考えた後、カウラはそう言うといつもどおりウーロン茶を飲み始める。
「確かにテメエにゃ無理だ。キャラじゃねえ」
「それじゃあかなめちゃんがやったら?」
アイシャがそう振ったとき、いつもならかなめの怒鳴り声が飛んでくるところが別に何も起きなかった。
「やっぱりかなめちゃん変よねえ」
首を傾げるリアナ。一同は彼女がろくでもないことを言ってかなめの機嫌を損ねるのではないかとはらはらしながらその白い長い髪を眺めていた。
かなめはラムをちびちびやりながら話を続ける。
「そうね……でも本当にかなめちゃん変よ」
「そんなことねえだろ」
注文を終えて小夏が運んできたおしぼりで手を拭きながらつぶやくアイシャにかなめは笑顔で答えた。
すぐに小夏の母で女将の春子がジョッキのビールを運んできた。
「はい!焼きそば」
いつの間にか誠の後ろに立っていた小夏が注文の品を運んでくる。
「シャムちゃんが大好きな大たこ焼きよ」
春子は巨大なたこ焼きの並んだ皿をシャムに渡す。飽きた猫耳を外して、ちょろちょろ落ち着かない表情だったシャムの顔が満面の笑みに変わる。
「たこ焼き!たこ焼き!」
そのまま嬉しそうにシャムはたこ焼きに飛びつく。そんなシャムを見つめながらどこか腑に落ちない顔のアイシャが見える。
かなめは飲み続けていた。少しばかり頬が赤く染まっているのは体内プラントのアルコール分解速度を落としているからだろう。だが、かなめはそんなことはまったく自覚していない様に見えた。誠はかなめが酔いたい気分なのだと確信した。理由は特に無いがとりあえず気分的にはハイなんだろう。人口副交感神経のなせる業に少しばかり誠は感心していた。
「まあたまにはこういうこともあるんだよ。それにお前と違って金の使い方は計算してるからな。お前らどうせアニメグッズ買いすぎて金がねえだろうから気を利かせたわけだ」
そう言うとかなめは勢いよく焼きそばに取り掛かった。なんとなく納得できるようなできないようなあいまいな答えに一同はあいまいな笑みを浮かべていた。アイシャもその後にどう言葉を続けようか迷っているようだった。
「かなめちゃんの奢りなんだ。いいなあ」
リアナがうらやましそうにかなめの方を見つめる。正面でジョッキを傾ける健一はリアナにそういわれて流れで頷く。
「奢りませんよ!」
とりあえずこの話題から逃げたいというようにかなめは苦笑いを浮かべながらそう言った。しかし、その目は深い意味などないというように彼女の箸はすぐ焼きそばに向かった。
その時急に店の電気が落ちる。そして突然ついたスポットライトの中にはいつの間にかシャムと小夏の姿があった。
「小夏!」
「アンド、シャム!」
『踊りまーす!』
よく見ると二人はおそろいの猫耳と尻尾をつけている。前触れの無い出来事に全員が唖然としてその姿を見守っていた。急に店の奥から電波ソングが流れる。シャムと小夏。小柄なシャムの方がまるで妹に見える奇妙な光景だった。
「行けー!」
アイシャが叫ぶとシャムと小夏が腰を振ってこれまた電波な踊りを始める。はたから見れば奇妙な光景だが、健一は何度か見慣れているらしく拍手をしながら笑顔で見守っている。
「どうだ?萌え評論家の神前誠君」
ニヤ付きながらかなめが話しかけてくる。いつもならこういうドサクサは見逃さない彼女が誠のグラスに細工をするわけでもなく、ただ笑いながら誠の顔を覗き込んでいる。
「これは実に萌えですね。猫耳万歳です」
『みなさーん!ありがとう!』
ひと踊り終わるとシャムと小夏がぺこりと頭を下げる。そしてあまり長くない電波ソングライブは終わった。
「猫耳か……」
ポツリとカウラが呟いた。
「なに?カウラちゃんも猫耳つける?」
カウラは不思議そうにアイシャを見つめ返す。その姿は自分が猫耳をつけたときを想像しているように誠には見えた。
「私はそういうことには向かない」
しばらく真剣に考えた後、カウラはそう言うといつもどおりウーロン茶を飲み始める。
「確かにテメエにゃ無理だ。キャラじゃねえ」
「それじゃあかなめちゃんがやったら?」
アイシャがそう振ったとき、いつもならかなめの怒鳴り声が飛んでくるところが別に何も起きなかった。
「やっぱりかなめちゃん変よねえ」
首を傾げるリアナ。一同は彼女がろくでもないことを言ってかなめの機嫌を損ねるのではないかとはらはらしながらその白い長い髪を眺めていた。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)
れ
SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。
主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、
それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
いつか日本人(ぼく)が地球を救う
多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。
読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。
それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。
2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。
誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。
すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。
もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。
かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。
世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。
彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。
だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ
黒陽 光
SF
その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。
現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。
そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。
――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。
表紙は頂き物です、ありがとうございます。
※カクヨムさんでも重複掲載始めました。
初恋フィギュアドール
小原ききょう
SF
「人嫌いの僕は、通販で買った等身大AIフィギュアドールと、年上の女性に恋をした」 主人公の井村実は通販で等身大AIフィギュアドールを買った。 フィギュアドール作成時、自分の理想の思念を伝達する際、 もう一人の別の人間の思念がフィギュアドールに紛れ込んでしまう。 そして、フィギュアドールには二つの思念が混在してしまい、切ないストーリーが始まります。
主な登場人物
井村実(みのる)・・・30歳、サラリーマン
島本由美子 ・ ・・41歳 独身
フィギュアドール・・・イズミ
植村コウイチ ・・・主人公の友人
植村ルミ子・・・・ 母親ドール
サツキ ・・・・ ・ 国産B型ドール
エレナ・・・・・・ 国産A型ドール
ローズ ・・・・・ ・国産A型ドール
如月カオリ ・・・・ 新型A型ドール
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる